なぜ中小企業のブランディングにSWOT分析が効くのか
「ブランディング」という言葉を聞くと、多くの中小企業経営者の頭に浮かぶのは大企業の広告キャンペーンや華やかなマーケティング活動かもしれません。テレビCMや有名人を起用したプロモーション、潤沢な広告予算。そんなものは自社には縁がない、と感じてしまいますよね。
私たちが取り組むべきは、派手な広告キャンペーン(アウターブランディング)ではなく、インナーブランディング。それはもっと身近で、もっとシンプルなものであり、社内から自社がお客様から支持されている理由を強化しようというもの。大切なのは「自社の強みをきちんと理解し、それを一貫して顧客に伝えること」。その積み重ねがブランドを形づくっていくのです。
インナーブランディングで必須な社内の振り返りに有効なのがSWOT分析です。経営戦略のフレームワークとして知られていますが、中小企業にとっては「うちにもこんなにいいところがあるじゃん!」と再確認できるツールに。本記事では、SWOT分析をブランディングの観点からどう活用すべきか、そして「やりっぱなしにせず強みを磨き続ける仕組み」に仕上げるまでを解説します。

執筆した人:平田弘幸
株式会社フレイバーズ代表取締役。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会・認定コンサルタント(インターナルブランディング)、ブランドマネージャー(1級)。大手電機メーカーで国内外の営業、企画を15年間経験した後、フレイバーズ設立。製造業での知見を活かし、中小企業のブランディングに強み。
本記事で分かること
本記事では、中堅・中小企業がブランディングを進めるうえで有効な「SWOT分析」の活用法を解説します。弱みに時間を割かず、強みを徹底的に掘り下げて自社らしいブランドストーリーへつなげる方法を紹介。さらに商店街活性化の公的事例も交え、強みを磨き続ける仕組み化や進捗チェックの重要性まで学べます。
SWOT分析とは?ブランディング視点での読み替え
まずは基本を押さえます。SWOT分析は、企業や組織の状況をStrength(強み)・Weakness(弱み)・Opportunity(機会)・Threat(脅威)の4つの視点から整理する手法です。
1. Strength(強み)
- 他社にない自社の独自価値
- 顧客から高く評価されている部分
- 「選ばれる理由」につながる要素
→ ブランディングにおいてはブランドの核。しっかり時間をかけて掘り下げます。
2. Weakness(弱み)
- 認知度の低さ
- 商品、サービスの仕様
- 人材・資金の制約
- 発信や販路拡大の苦手さ
→ ただし、現状を認識するだけにとどめることが大切。弱みを直そうとするのではなく、「強みに集中するために何をやらないか」を確認する程度に扱います。
3. Opportunity(機会)
- 消費者ニーズの変化
- 新しい市場トレンド
- 技術や制度の変化によるチャンス
→ 強みを掛け合わせることで大きな成果につながります。
4. Threat(脅威)
- 大手企業の参入
- 法規制や景気変動
- 市場の価格競争
- 予期せぬ事態の発生
→ 脅威そのものを完全に取り除くのは難しいところですが、強みで相対化できるかを確認しておけば十分です。
SWOT分析とあわせて活用すると効果的なのが「3C分析」。市場・競合・自社を整理することで、自社の強みをより立体的に把握できます。
SWOT分析では弱みに時間をかけない:「愚痴大会」からの脱却
中小企業でSWOT分析を行うと、往々にして弱みの部分で議論が長引きます。
「発信が苦手」「人手不足」「大手に比べて見劣りする」……。
これらを延々と話し合っても、ただの愚痴大会になってしまい、なんら生産的な議論にはならず。前向きなブランド戦略にはつながりません。
そこで重要なのが、弱みの洗い出しは「現状認識にとどめる」というルール。
弱みを直したところで、努力した結果は平均点になる程度。逆にリソースが分散するだけに終わってしまいます。かえってブランドの個性が失われる危険さえも。
むしろ、弱みは「やらないことリスト」として整理しておく方が健全です。
「SNS発信は得意じゃないけれど、地域の信頼関係をたいせつにしよう」
「価格競争は避けて、技術力に特化しよう」
このように強みを磨く方向へ舵を切ることが、ブランドを尖らせる道なのです。
強みを徹底的に掘り下げてブランドストーリーにする
ブランディングにおけるSWOT分析の主役は、やはり Strength(強み)。ここを徹底的に掘り下げることで、ブランドの核が見えてきます。
強みの例(中小企業にありがちなもの)
- 地域密着で長年築いてきた信頼
- 職人技術や専門的なノウハウ
- 顧客と近い距離で対応できる柔軟さ
- 社長や社員の人柄、誠実な対応
こうした強みは、普段は当たり前すぎて見過ごされがちですが、顧客から見れば「だからこの会社を選んでいる」という大切な理由です。これを言語化し、ブランドストーリーとして発信することが肝要です。
ただし、上記の例は漠然とし過ぎていて、隣の会社でも通用してしまう可能性は否めません。強みを抽出する際は、必ず具体的なエピソードを起点に、自社ならではの内容に落とし込むことを目指してください。
製造業の町工場
- 「創業当時から30年以上、同じ取引先の精密機器メーカーに部品を納入し続けている。リピート率は100%」
→ 単なる“技術力が高い”ではなく、「30年途切れず取引が続いている信頼関係」というエピソードが強みになる。
地域密着の工務店
- 「大雨で被害が出たとき、夜中に社員総出で地域の顧客宅を回り応急対応を行った。その対応が口コミで広がり、紹介案件が増えた」
→ 「地域密着」ではなく「非常時に顧客を守る行動力」というエピソードがブランドの核。
飲食業(小規模レストラン)
- 「地元の農家から直接仕入れた野菜を毎朝SNSに投稿。農家の名前まで出すことで、『食材の顔が見える安心感』がファン化につながった」
→ 「地産地消」ではなく「仕入れストーリーを可視化したことでリピーターが増えた」という具体性。
BtoBサービス業
- 「競合他社は2週間かかる見積りを、社内フローを工夫して最短3日で提出。それが「対応が早い会社」という口コミになり、紹介で案件が広がった」
→ 「スピード感がある」ではなく「見積りリードタイムを3日で実現」という具体性。
ケーススタディ:地域密着工務店の場合
実際のSWOTの使い方をイメージしてみましょう。
- S(強み):地域顧客との信頼関係、アフターフォローの丁寧さ
- W(弱み):SNS発信が弱い(現状認識のみ)
- O(機会):リフォーム需要の高まり、DIYブーム
- T(脅威):大手ハウスメーカーの低価格戦略
ここから導かれるブランドメッセージは、「顔が見える安心感」「地域と共に育つ家づくり」。大手には真似できない強みを中心に据えることで、ブランドの差別化が可能になります。
ケーススタディ:町工場(製造業)の場合
もうひとつ例を挙げます。
- S(強み):特定分野における超高精度加工技術
- W(弱み):営業・マーケティング力の不足(現状認識のみ)
- O(機会):海外ニッチ市場からの需要拡大
- T(脅威):大手による大量生産体制
ここから導かれるブランド戦略は、「業界から指名される職人企業」。営業にリソースを割くよりも、技術にさらに磨きをかけ、指名で仕事が来る体制を目指す方がブランド力が高まります。
公的事例:商店街活性化とブランドづくり
中小企業庁の商店街活性化事例集でも、「地域らしさを描く」「地域資源を活かしたブランドづくり」が成果を上げたと報告されています。
例えば、ある地域商店街では「地域の食文化や歴史を前面に出したブランド化」によって来街者数が増加し、店舗間の連携も強化されました。
これは、単なるイベントや割引ではなく「強みを磨いて発信すること」がブランド力を高め、結果として地域経済全体を活性化させることを示しています。
SWOT分析を成功させる実務の工夫
- 社員全員で取り組む
→ 現場の声を拾うと、普段意識していない強みが見えてくる。 - 弱みは短時間、強みは徹底的に
→ 弱みは30分以内で終える。強みは数時間かかっても掘り下げる価値がある。 - 顧客の声をヒントにする
→ 「なぜ当社を選んだのか?」を顧客に聞けば、強みがより鮮明に言語化できる。
SWOTは「強み強化の進捗チェック」に使う
SWOT分析は一度やって終わりにしてはいけません。本当にたいせつなのは、定期的に強みの進化を確認することです。
進捗を確認する問いかけ例
- お客様から選ばれる理由は、以前より明確になったか?
- 競合と比べて、強みはさらに際立ってきているか?
- 新しい取り組みで強みを広げられたか?
こうした問いかけを年に1度、あるいは半期ごとに行うだけでも、ブランドづくりの進捗を社内で共有できます。
仕組み化の工夫
- 年次の「ブランド強化レビュー」を経営会議に組み込む
- 月次会議で「最近褒められたこと」を共有する時間をつくる
- 前年のSWOTと比較して「強みがどう進化したか」を見える化する
これにより、SWOT分析は「現状把握の一回限りツール」ではなく、「強みを磨き続ける進捗管理ツール」へと変わります。
SWOT分析は誇りを再発見し、磨き続けるツール
SWOT分析は、弱点を直すためのチェックリストではありません。
自社の誇れる部分を再確認し、その強みをどう磨き続けるかを考えるためのツールです。
- 弱みは現状認識にとどめる
- 強みに徹底的に時間をかける
- 強みの進捗を定期的に確認するしくみを持つ
これらを意識することで、中小企業でも無理なくブランディングに取り組めます。
「うちにもこんなにいいところがある」と社員全員が再認識し、その誇りを外に向けて発信していく。
それこそが、SWOT分析から始まるブランディングの本質です。
フレイバーズなら、SWOT分析から始めて、ブランディングによって社内を活気づけ、自社の強みを見直し、経営戦略の打ち手を変える働きにまでつなげます。
単なる分析で終わらせず、進捗確認や改善を定期的に行える 「社内のしくみ化」 までを伴走サポート。
組織全体で強みを磨き続ける仕組みを築き、ブランドを未来につなげていきましょう。
「いいものを作れれば売れるんだ」―そう信じて、ずっと努力してきた。
「品質には自信があるが、顧客が広がらない」「価格を叩かれ、疲弊している」
「ブランディングが大切なのはわかる。でも、現実にはなかなか進められない」
では、覚悟を決めたその先で、何から手をつけるべきか。
集めた声をもとに、「自社らしさ」や「選ばれる理由」を言語化します。難しく考える必要はありません。キーワードや短いフレーズでもかまいません。
新規顧客を追いかけるのは、営業として当然の動きです。でも、ブランディングにおいて最も大きな力を発揮してくれるのは、
これからブランディングをはじめる方にとって、ブランディングは難しそうな印象があるかもしれません。でも、本当の意味でのブランディングとは、
「安うしときまっせ」では、もう勝てない。
「うちは金ないから、宣伝なんてやってられへん」・・・ブランディングなら、やる価値はあります。
「よし、ブランディングやろう」と思っても、いきなり全部やろうとすると手が止まりがち。
ブランドって、やっぱりあったほうがいいよね」
ブランディングに取り組もうとすると、つい「見た目」の整備から入ってしまいがちです。ロゴを刷新したり、パンフレットを一新したり。それ自体が悪いわけではありませんが、表層を整えるだけでは、本質的な効果は期待できません。




ブランドとは「約束」です。そして、その約束を日々の顧客接点で守り抜くことこそが、ブランディングの核心です。
中小企業にとってWEBサイトは営業や採用などにおいて、知名度の高い大企業よりもずっと重要な役割を果たす「顔」のような存在。しかし、社内に専門のWEB担当者がいない、更新や改善のノウハウが不足しているという理由から、改善が後回しになってしまっているケースも少なくありません。この記事では、「感覚で気づける」ことから始めて、「成果につながる」までの実践的な改善の流れを5つのステップで紹介します。
WEBサイトの改善というと、「データに基づいた分析が必要」「専門家の意見が不可欠」と思われがちですが、最初の一歩はもっとシンプルで構いません。まずは、自分がそのサイトを使って「なんとなく使いづらい」「読みにくい」「迷う」と感じるポイントをリストアップすることから始めましょう。
改善を行ったら、最低でも2週間〜1ヵ月ほどは様子を見ましょう。そのうえで、Googleアナリティクス(GA4)を使ってアクセス状況を確認します。
Googleアナリティクスでは「何人が見たか」は分かっても、「どう見たか」はわかりません。そこで活用したいのが、ヒートマップツールです。
よくある失敗例:リニューアルだけして満足してしまう
中小企業、とくに製造業では「良いモノを作れば売れる」という考えが根強く残っています。製品の品質やスペックを高めることに全力を注ぐ一方で、「自社の製品が顧客にとって何をもたらすのか」という視点を持つことを忘れてしまいがちです。
「ブランディング=おしゃれなロゴやパッケージデザイン」と誤解しているケースが少なくありません。もちろんビジュアル面も重要ですが、それはあくまで表層部分。根本は「自社製品が誰にとってどんな意味を持つのか」を明確にし、それを一貫して伝えることにあります。
誰に向けて製品を届けたいのかをはっきりさせます。どのような人が自社製品の導入を検討してくれそうか。
製品ブランディングは一度作って終わりではありません。市場や顧客の変化に合わせて、伝え方を見直したり、新たな価値を提案したりする柔軟さも必要です。小回りが利くのは中小企業の大きな強み。大企業にできないスピード感で変化に対応していきましょう。
「求人を出しても応募がこない」
社員のリアルな声を引き出すには、第三者の存在が欠かせません。社内の人間関係が影響しない「外の人」が話を聞くことで、社員は忖度なしで本音を話しやすくなります。
採用ブランディングは、1回やって終わりの「施策」ではありません。
中小企業を対象とした景況調査の結果、値上げができている会社は業績が上向き傾向にあるとのこと(大阪府中小企業家同友会調べ)。わかってはいるものの、顧客が離れてしまうのではといった怖れも含め、値上げに踏み切ることをかんたんに決断できるものではありません。
中小といえども、ブランド力がある企業は単に商品やサービスを提供するだけでなく、「この会社だから買いたい」「このブランドなら信頼できる」 という付加価値を顧客に感じさせることができます。これは、価格決定権を企業側が握ることにつながり、値上げをしても顧客が納得しやすくなる要因となります。
ブランドは、一貫したメッセージとビジュアルによって形成されます。マーケティングやブランディングにおいて、最も注意しなければいけないのがこの一貫性です。もし、社内のあちこちで一貫性のないコミュニケーションが社外とやりとりされれば、それだけで発しているメッセージとのさが目につき、信頼は薄らいでしまいます。
値上げを成功させるためには、単に価格を上げるのではなく、顧客に納得感を持たせるブランド力を磨くことが不可欠。これまでお伝えしてきたことをもういちどまとめておきます。