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中小企業のブランディング、大きなメリット5つ

中小企業の経営者

コラムの冒頭ではありますが、中小企業の経営者の方々に断言してもいい。ブランディングに取り組めば、中小企業のほうが大企業よりも効果は早く出ます。なぜかといえば、ブランディングは外向けのエクスターナル(アウター)よりも、インターナル(インナー)のほうがたいせつで、インターナルはほぼ「人を動かす」課題を多く含んでいるから。
具体的に言うと、ブランディングを進める過程で、ブランドアイデンティティやミッション、理念などを社内に浸透させようとするとき、社内を変えていかないとそれは成功しない。しかし、それをスムーズに進められないのは「人を動かす」ことが容易ではないからです。

中小企業なら、数人~百人ほどの「人を動かす」だけで済みますが、大企業となると千人~数万人規模で浸透させなければなりません。どれほどの労力、時間が必要でしょうか。さらに中小企業であれば、経営者の目の届く範囲に社員はいますが、大企業になると経営者が名前を知らない社員がほとんど。この環境下で、全社員に同じ方向を向かせるのは簡単ではないわけです。

中小企業の経営者であるあなたに、もうひとつ伝えたいことがあります。
御社にも、まだ気づいていない、言葉に落とし込めていないだけで、すでにしっかりした「ブランド」があります。それをフレームワークなどを使って、ていねいに内省し、社内の合意を得ていくプロセスがブランディング。このプロセスを経ることが、次に挙げるメリットを生むのです。

中小企業がブランディングを実施するメリット

1. 認知度の向上

ブランディングは、企業や製品の認知度を向上させるための手段でもあります。正しいブランディング戦略を持つことで、顧客は企業や製品を認識しやすくなり、購買意欲が高まります。とくに中小企業の場合、知名度を上げることは新規顧客を獲得するうえで非常に重要なポイントとなります。

星野リゾートの星野佳路社長が、まだまだ今のような規模でなかったとき、リピーターを徹底的に調査しました。なぜこの旅館に繰り返し来てくれるのか。そこには確固たる理由があるはずで、その理由が分かれば、まだ見ぬ同じ価値観を持つ顧客にも訴求すれば、新規客が増えるはずだと。
星野社長は、経営学の権威が主張する理論を徹底的に実践することで有名なので、おそらくブランディングの理論にどこかで触れられたのだと思います。その結果は、あなたもご存知のとおり。まだ中小企業だった星野リゾートが成長する源泉にもなったのです。


 

2. 競合他社との差別化

競争が激しい市場では、自社の製品やサービスを差別化することが生き残る条件です。ブランディングのプロセスで最初に行うフレームワークはクロス3C。顧客が求める購買条件のひとつを自社だけが持つ優位性で賄えるかを確認する作業(ブルー・オーシャンを見つける)です。他社も同様の優位性を持っているなら、それはレッドオーシャン。血の雨が降る海ですから、消耗戦になってしまいます。体力のない中小企業は、ここで戦ってはいけません。

ブランディングを通じて、企業は独自の優位性に基づく価値提案や個性を表現し、競合他社との差別化を図ることができるようになります。また、顧客にとっても、製品を選ぶ理由が明確になるのです。


 

3. 信頼とロイヤルティの構築

正しいブランディングは、顧客との信頼関係を築く基盤となり得ます。企業が一貫したメッセージや価値観を伝えることで、顧客は安心し、継続的な購買や応援をしてくれるようになります。もちろん、つまみ食いはするかもしれませんが、結局あなたの会社で得ていた満足感を消し去ることはできず、再度顧客として戻ってくるようになります。

ブランディングは、LTV(顧客生涯価値)を多く生み出してくれる顧客が多く現れる可能性を秘めています。言い換えれば、自社を長く継続させるための施策とも言えるのです。


 

4. 成長と展開の支援

あなたは融資を受ける際、金融機関の担当者に自社の強みを胸を張って語っているでしょうか。金融庁は、中小企業への融資について、現状だけを見るのではなく、将来性も含めて勘案するように通達を出しています。
ブランディングを行うことにより、自社の優位性、自社を端的に表現することができるようになり、金融機関の担当者の記憶にも残りやすくなるでしょう。

ブランディングは、企業の成長や発展をサポートする重要な施策。正しいブランディングを推進する企業は、新しい市場や顧客層に訴求しやすくなるのです。


 

5. 社員が考えはじめる社風をつくるきっかけに

フレイバーズがコンサルティングするブランディングは、プロジェクトチームを導きますが、決して答えを教えることはしません。すべてのプロセスでプロジェクトメンバーは、悩み、考え、ときに言い合いをしながら、自ら答えを導き出していきます。

中小企業にありがちなのは、トップの指示を実行するだけになってしまっている組織。経営者であれば、自走してくれる組織に変革しないと、社長が本来やるべき仕事がいつまでたってもできない事態に陥ってしまいます。ブランディングを実行することで得られる副産物として大きいのは、社員が自ら考え動く経験ができることと、視座を高く持てるようになること。
ブランディングは、通常の業務では果たせない社員教育にも寄与してくれるのです。

インターナルブランディングの進め方

中小企業が輝く存在であるために

日本の全労働人口の70%を占める中小企業。日本にとって、この大きな存在である中小企業が元気で輝いていないと、この国の将来は危ういものになってしまいます。
これまでみてきたように、ブランディングは中小企業にとって厳しい市場で成功するために欠かせない要素であり、十分に検討する価値がある施策です。経営者は、今だけを見るのではなく、20年後この会社をどうしたいかを考えるのがほんとうの仕事。今いる社員のために、ぜひブランディングの導入をご検討ください。

中小企業庁「中小企業白書」:第1節 ブランドの構築・維持に向けた取組

ひらパー集客100万人は、兄さんの実力か、奇策のたまものか?

大阪府下で第2位の集客力

筆者は、単にじもピーだから復活した「ひらパーの奇跡」を採り上げたわけではない。ひらパーの策略を通じて、リアルの店舗集客にも応用できるものがあると感じたからだ。

集客でお悩みの店舗経営者の方々は、彼らの放った集客策のキモを感じてもらえれば幸いだ。

ひらかたパークは、京都府に隣接する大阪の端、枚方市にあるファミリー向けの遊園地。もともと、ひらかたパークは1910年(明治43年)「香里遊園地」として生まれ、京阪電車・香里園駅にあった。京阪沿線の人は、「園」があるわけでもないのに、なぜ香里園が「園」なのかと疑問に感じていた人も多いと思うが、こういった理由があったわけだ。

その後、第三回菊人形展の開催によって、現在の地に原形を求めることとななるのであり、1912年(大正元年)の開園は、同じ土地で営業を続ける遊園地のなかでは、日本最古のものだ。

年間来場者数はUSJに次いで大阪府下第2位。2014年度の来園数は100万人を超えており、USJやディズニーランドなどの大型のテーマパークの人気に圧倒される地方の遊園地のなかにおいて、飛び抜けた人気、知名度、集客力を誇っている。

ひらパーの状況

ひらパーの現状

いまや全国的に知名度があり、大阪を代表する遊園地となったひらパーだが、絶大な人気を集める大型テーマパークと比べると決定的に不利な要因を抱えている。

  • それだけで集客に繋がるような独特な世界観、人気キャラクターを持たない。
  • 大型テーマパークのように大規模な投資によってアトラクションを新設し続ける集客戦略を打てない。
  • 枚方周辺には目立った観光地がなく、都心からも距離があるため観光客を呼び込むことが難しい。

このような状況のなか、ほんの数年前まで毎年1億円前後の赤字を何年も続けている閉園寸前の遊園地でしかなかったのだ。そんなひらパーが、大型テーマパークにおされつつも、生き残りをかけて繰り出した個性あふれる集客戦略をご紹介しよう。

生き残りをかけた集客戦略

1世紀続く定番遊園地ゆえ

遊園地帰りの家族

夏のファミリープール、冬のスケートリンク、秋は創業以来続いていた菊人形は、枚方市周辺のじもピーにとっては昔からの定番だ。2005年に惜しくも終了してしまった菊人形に代わって、新たにイルミネーションイベントが開催されている。

実は、この定番イベントをコンスタントに続けることが、じもピーを再来園させるきっかけとなっている。

プール

例えば、鬱々とした気分で揺られる通勤の電車内で、ひらパーのプール「ザ・ブーン」の広告を目にした40代サラリーマン。
父母と行った小学生の夏休みがフラッシュバックのように思い出される。

家は決して裕福ではなかったから、避暑地の海辺ではない。たかだか地元、芋の子洗いのようなにぎわいをみせる普通のプールだ。でも、自分にとっては最高の夏休みの思い出だった。弟と大はしゃぎしながら、真っ赤に染められたソーダを一気に飲み干した。

「今度の休みには子供を連れていくか」

と、週末の休みに「いい父親」になるきっかけになるのだ。中学の頃友人たちと行ったアイススケートも、まったく興味がわかなかった菊人形でさえ、じもピーをふとしたきっかけで駆り立て、安定した集客につなげられるのだ。

大阪のベッドタウンである枚方に、1世紀以上にわたって密着しつづけた遊園地だからこそできる集客戦略で、4世代を超えるじもピーたちの継続的な来園を促し、安定した集客力を保つ理由だ。

大阪人の習性を活かしたシュール広告

ピピンの広告

おもしろいコトを人に話すのが義務。ボケた相手には、突っ込まないと失礼にあたる。

そんな習性を持つ大阪人は、ひらパーの広告ポスターを見るとウズウズしてしまう。なぜなら、ひらパーが発信する「ボケ」が、見事に「投げっぱなし」になっているからだ。

たとえば、ひらパーのキャラクタ―「ピピン」が膝を抱えて座っている写真に、「ファンクラブとかできないかなぁ。」と大きな文字が載せられているポスター。

「そんな弱気なキャラクター、あかんやろ」
「もっと自信持たんと」

などと、頭のなかで思わずツッコんでしまう。いつからか、ひらパーの広告はこのようなシュールなものになり、どんどんこの傾向は加速している。

来園のきっかけを与えることや、イベントの告知をすることが本来の目的ではあるが、このように大阪人のツッコミ精神をくすぐりまくる。

「ひらパーの広告は面白い」と認識してもらえれば、注目度が高まり、口コミ効果も得られる。さらにひらパーの好感度も上がっていくというわけだ。

V6まで引きずり出した、ひらパー兄さん戦略

ブラマヨのひらパー兄さん

ひらパーを現在の人気・知名度まで押し上げたのは、「ひらパー兄さん」を据えたことにある。

ブラックマヨネーズの小杉が起用された、初代ひらパー兄さんは、引退までの約4年間で約30億円の広告効果をもたらしたと言われている。
有名人をひらパーのイメージキャラクターとして起用し、広告を打ち出すことでひらパーの知名度は急上昇。前述のシュールな広告との相乗効果で、ひらパー兄さんの人気も高まっていった。

ひらパー兄さん選挙

勢いのあるブラマヨを起用したことで、広告という枠を超えて話題になった仕掛けがある。
小杉の人気に嫉妬した相方の吉田が、フジテレビの”人志松本の○○な話”で「俺の方がひらパー兄さんにふさわしい」と宣言。2代目ひらパー兄さん就任をかけた選挙イベントが行われるまでに至ったのだ。地上波のテレビ番組で騒ぎ立てたうえ、大阪の天満橋で2人が街頭演説を行うなど、パークの外部を巻き込んだこの騒動は、ひらパーで面白いことをやっていると全国に知らしめることとなった。

100周年をきっかけに初代ひらパー兄さんの小杉が引退したあと、枚方市出身のV6・岡田准一が「超ひらパー兄さん」として2代目に就任。岡田くんが主演する映画のパロディなど、こちらも話題性に富んだ広告を打ち出している。

岡田准一くんのひらパー兄さん

全ての広告がひらパー兄さんを中心に構成され、ひらパー兄さんに接触する機会が増える。いつのまにか、皆がひらパー兄さんを身近な存在に感じ始め、そのストーリーに注目し、応援したくなる。ひらパーはその舞台となることで、大きな付加価値を得、さらなる集客力を得たのだ。

思い出は、人がつくる

思い出は、人がつくる

どんなに革新的なアトラクションを体験したところで、楽しさを共有する相手がいなければ、たのしい思い出にはならない。
アトラクションやイベントはあくまでも舞台であり、家族や友達など、一緒にいる人がお互いを楽しませることこそが、たのしい思い出になる条件だ。

キャラクターや世界観、アトラクションの魅力だけで集客することができないひらパーだからこそ、来園やリピートのきっかけが「人」であることの大切さをわかっている。

ひらパー兄さんの広告は、「話題のアトラクションを体験したい」といった、楽しませて欲しいというニーズに応えることとは異なり、兄さんを応援したい、兄さんのところに遊びに行きたいという思いが、お客さんを来園させるというもので、これもアトラクションではなく、兄さんがお客さんを楽しませるという仕掛けだ。

目隠しライド

ひらパーには「ジャイアントドロップメテオ」という垂直落下アトラクションがある。これといって目新しいことはない絶叫系アトラクションだが、岡田くんの目がプリントされた「兄さんアイマスク」で目隠しをして乗る「目隠しライド」や、「おま」以外の叫び声が禁止になる「おまライド」といった企画によって、友だち同士、スタッフまで巻き込み、みんなが思わず笑ってしまうアトラクションとなった。

友人たち、家族が「目隠しライド」や「おまライド」を共有し、いつまでも笑い合う。心に刻まれたその豊かな経験が、いつの日かまた懐かしい思い出をフラッシュバックさせた「じもピー」を懐かしい場所へ駆り立てるのだ。

まとめ

「ないものづくし」のひらパーが、1億円の定例赤字から脱却した突き抜けたアイデア。これは、遊園地が装置産業であるという固定観念へのアンチテーゼなのかもしれない。きらびやかな装飾や固有のアトラクションに頼らず集客に成功していることが証明している。

1世紀以上にわたり、大阪府のベッドタウン枚方に根付いた遊園地だからこそ、最後は「人」が大切なのだと教えてくれている気がしている。「人」が「人」を楽しませるのだ、「人」を連れてくるのは「人」でしかないと言っているような気がしている。