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中小企業のブランディング戦略:8つの課題を克服する進め方のキモ

「いいものを作れれば売れるんだ」―そう信じて、ずっと努力してきた。
それが中小企業の多くに共通する、ものづくりに対する考え方の基本ではないでしょうか。

でも、現実はどうでしょう。
いいものを作っても、簡単に引き合いが来るわけではない。
しかし市場を見ると、品質がそこそこのものでも注目され、売れている。
「あれよりうちのほうが断然いいはずなのに」そう思っても、現実が動くはずもなく。
どこか納得できない。けれど、理由がはっきりわからない。

なぜ選ばれないのか。どうすれば、選ばれる存在になれるのか。
その問いに向き合ったときに浮かび上がるのが、「ブランディング」というキーワードです。

ただし、ここでいうブランディングは、ロゴやパッケージをおしゃれにすることではありません。
中小企業に必要なのは、「この会社に頼みたい」「あの人だから信頼できる」と指名される状態をつくること。
つまり、信頼される「理由」を見える形にし、伝わるように整えるのが本質です。

とはいえ、多くの中小企業がブランディングに踏み出せずにいます。
「人も時間も足りない」「何から手をつけていいかわからない」そんな課題にどう向き合えばいいのでしょう?

この記事では、中小企業が直面する8つのブランディング課題と、限られたリソースでも進められる優先順位のつけ方を紹介します。
小さな一歩が、あなたの会社が指名される未来への第一歩になっていくはずです。

平田弘幸

執筆した人:平田弘幸

株式会社フレイバーズ代表取締役。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会・認定コンサルタント(インターナルブランディング)、ブランドマネージャー(1級)。大手電機メーカーで国内外の営業、企画を15年間経験した後、フレイバーズ設立。製造業での知見を活かし、中小企業のブランディングに強み。


本記事で分かること

中小企業が生き残るには、「この会社に頼みたい」と指名される存在になることが重要です。本記事では、ブランディングの本質を信頼づくりと捉え、実行を妨げる8つの課題とその突破口を紹介します。限られたリソースの中でも優先すべき進め方、実際の成功事例を通じて、明日から動けるヒントが得られます。

なぜ中小企業にブランディングは必要なのか?

「品質には自信があるが、顧客が広がらない」「価格を叩かれ、疲弊している」
こうした悩みは、もはや業種や地域に関係なく、中小企業に共通したものです。

かつては、地域性や人脈、紹介などが大きな営業資産でした。
今はネットやSNSを使い、買い手が違う選択肢にすぐ手を伸ばせる時代に。

市場はすでに「いい商品を作れば売れる」から、「いい会社に見えなければ選ばれない」へと変化しており、戦い方も変えなければいけなくなっているのです。

 

価格ではなく「会社」で選ばれる時代

モノの機能や価格だけでの差別化がどんどん難しくなっています。
たとえばA社もB社も同じ品質の部品を作っているとしたら、選ばれる理由は何になるでしょう?

最終的に顧客が判断するのは、
「この会社なら安心できる」「この人なら話が通じる」「ここに頼んでおけば間違いない」
といった、信頼ができるかどうか。

この「信頼」を見える化し、伝えるための仕組みこそが、ブランディングです。

 

ブランディングは「広告」ではなく「信頼づくり」

よくある誤解に、「ブランディング=かっこいいロゴや洗練されたパンフレット」というイメージがあります。
確かにそれらもツールの一つですが、本質はそこではありません。

中小企業にとってのブランディングとは、

  • 「なぜ自社が選ばれているのか」を明確にする
  • 顧客・社員・取引先に一貫して伝える
  • その結果、「あの会社に頼みたい」と指名される状態をつくる

という、信頼される仕組みづくりです。

 

「小さい会社」だからこそできるブランディングがある

大企業のように大規模な広告を打てなくても、中小企業には顔の見える関係性や意思決定の速さといった武器があります。
だからこそ、背伸びをする必要はありません。重要なのは、自社が既存の顧客から選ばれている「らしさ」を理解し、それを顧客との接点に一貫して正しく表現することです。

その積み重ねが「信頼される会社」、「覚えてもらえる会社」への第一歩になるのです。

第1節 ブランドの構築・維持に向けた取組(中小企業庁「中小企業白書2022年版」)

中小企業が直面するブランディングの8つの課題

「ブランディングが大切なのはわかる。でも、現実にはなかなか進められない」
そう感じている中小企業はとても多い。
実際、ブランディングがうまく進められない企業には、いくつかの共通した課題があります。

ここでは、そのなかでも特に多くの現場で見られる8つの典型的な課題を紹介します。

 

人・時間・予算、すべてが足りない

多くの中小企業では、日々の業務に追われてブランディングにかけられるリソースが限られています。
「やらなきゃとは思っているけど、後回しになる」
そんな状況が続けば、当然ながら他社との差は広がっていくばかりです。

 

担当者がいない、兼務で進まない

社内に専任の担当者がいない、もしくはマーケティングと兼務になっていて手が回らない。これもよくあるケースです。
施策の検討、実行、効果測定などを1人で抱えてしまい、結局なにも進まないという悪循環に陥ってしまうのです。

 

ブランドが経営者の頭の中にしかない

「うちの良さはちゃんと伝わってるはず」と思っていても、それが社内で言語化・共有されていない企業がほとんど。結果として、社員によってお客様への説明がバラバラになったり、営業トークが噛み合わなかったりすることに。

 

差別化の軸が曖昧

「品質に自信があります」「真面目にやってます」
こうしたアピールは、実は多くの会社が同じことを言っています。本当の意味での差別化は、「お客様が自社をどう見ているか」に目を向けないと見えてきません。

 

顧客の声を吸い上げられていない

自社の強みは、実はお客様の中にあります。
「どうしてうちを選んだのか?」「他に検討していた会社との違いは?」
こうした声を聞かずに進めるブランディングは、空回りしやすくなります。

 

「ロゴを変える」だけで終わってしまう

ブランディングを始めようとして、まずロゴを刷新した。ここで止まってしまうケースも。
デザインは重要ですが、それだけではブランドにはなりません。考え方、行動、伝え方のすべてに一貫性があってこそ、ブランドとして成立します。

 

情報発信に一貫性がない

会社案内、営業トーク、SNS投稿、Webサイト・・・
それぞれの言葉やトーンに一貫性がなければ、会社の印象はバラバラになります。せっかく良いことを発信しても、伝わり方にブレがあると信頼につながりにくくなります。

 

成果がすぐに見えず、続けにくい

「ブランディングをやってみたけど、効果が見えない」
そんな声があることも事実。
短期的な反応が得られにくいぶん、優先順位が下がりがちですが、長期的な信頼や選ばれ方に確実に効いてくるのがブランディングの本質です。

 

ここまで紹介した8つの課題は、どれも中小企業の現場で実際に起きているものです。
厳しいことを言うようですが、結局のところできていないのは、経営者に覚悟がないだけ。

ブランディングは、一夜で結果が出るものではありません。だからこそ、「やる」と決めて動き出す覚悟が必要です。この覚悟があるかどうかで、次の一手の重みが変わります。

さらに、経営者がブランディングに本気で向き合っている姿勢が見えれば、社内の見方も変わってきます。周囲の真剣度も、そこからようやく動き始めるのです。
次のセクションから、限られたリソースでも実践できる進め方のキモをお伝えしましょう。

限られたリソースでも実行できる、ブランディングの優先順位

では、覚悟を決めたその先で、何から手をつけるべきか。
全部を一度にやる必要はありません。ブランディングは、順番を間違えなければ必ず形になります。

ここでは、実際に多くの企業が成果を出している、限られたリソースでも始められる優先順位で対応するブランディング施策を紹介します。

ここでは、今すぐ着手できて、効果につながりやすい3つの優先施策を紹介します。

 

優先1:既存顧客の声を集める

ブランディングのスタート地点は、自分たちの強みを知ること。
そのための一番確実な方法が、「なぜうちを選んだのか?」を顧客に直接聞くことです。

  • 他社と迷った点は?
  • 決め手は何だったか?
  • 使ってみて感じた価値は?
  • 当社と継続して取引している理由は?

これらの答えのなかに、自社が伝えるべき「選ばれる理由」が詰まっています。社内で考えるより、お客様の視点こそがリアルなブランドの核になります。

 

優先2:「らしさ」を言語化する

①顧客へのヒアリング(自社の良いところの認識):社内に「うちもいい会社じゃん!」という認識が生まれる→②優位点を言語化→③コンタクトポイントでのメッセージ反映→ブランド=社風の図式が強固になり新たな優位点がさらに生まれていくことに→①へ戻る集めた声をもとに、「自社らしさ」や「選ばれる理由」を言語化します。難しく考える必要はありません。キーワードや短いフレーズでもかまいません。
例:

  • 堅実なのに、フットワークは軽い。レスポンスが早い
  • 技術力よりも「相談しやすさ」で選ばれている
  • 自分ごとのように、一緒に悩んでくれる
  • 地域の困りごとを、断らずに引き受けてきた

こうした言葉をまとめ、会社として何を大事にしているかを社内外に共有することで、ブランドの芯ができます。タグライン、会社紹介文、営業トークなどに落とし込むことで、ブレない軸になります。

 

優先3:伝える手段に一貫性を持たせる

最後に、その「らしさ」を伝える手段(WEBサイト、営業資料、SNSなど)に統一感を持たせるステップです。顧客とのコンタクトポイント(接点)での統一感ですので、営業職の姿勢やオフィスの雰囲気も含まれます。

  • トーンや言葉づかいを揃える
  • デザインや写真に統一感を出す
  • お客様が接するすべての場所に「らしさ」をにじませる

これをやるだけで、「この会社、ちゃんとしてるな」「なんか印象に残るな」という効果が自然に生まれます。一貫性は、安心感につながります。
たとえば、上記の「フットワークが軽い」「相談しやすさ」に一貫性を持たせるには、電話をかけたときの聞く姿勢に包容力が感じられたり、営業資料がていねいに説明されていたり。営業ツールも理解しづらい部分がアップデートされて、わかりやすくなっていく、ということも「選ばれている理由」を具現化することにつながります。

このアクションが社内に定着していけば、社風がブランドそのものになり、よりいっそう選ばれている理由は強固なものになっていきます。

 

少ないリソースでも、まずは「なぜ選ばれているか」を知り、それを伝える準備をするだけで、十分に強いブランドの土台に。

次は、実際にこうしたアプローチで変化を生んだ企業の例を紹介します。

事例:商品力だけでなく「想い」で選ばれるようになった町工場

ここでは、仮想の中小企業を例にして、「選ばれる理由を言語化し、伝え方を整える」ことで成果が出たブランディングの進め方を紹介します。

 

ある町工場の転機

東大阪市で機械部品の加工を行っているB社。高度な加工技術には定評があり、納期対応や仕上がりにも自信がありました。しかし、取引先の引き合いは年々減り、価格競争に巻き込まれ、「結局、安いところに流れてしまう」という状況に悩んでいました。

 

「なぜ選ばれてきたのか?」を聞いてみた

転機となったのは、経営者が既存顧客にヒアリングを始めたこと。
「なぜうちを選んでくれているのか?」と率直に聞いてみると、返ってきたのは意外な声です。

  「図面がなくても相談に乗ってくれるのが助かる」
  「担当の佐藤さんが、技術用語をかみ砕いて説明してくれる」
  「うちは他の業者に断られた案件ばかりだけど、あなたのところは断らなかった」

これらの声をもとに、自社の強みを「断らない相談力」と定義。メッセージとして、「図面がなくても、話せばわかる加工屋です」と明文化しました。

 

発信と営業資料に一貫性を持たせた

その言葉をベースに、会社案内や営業資料、WEBサイト、SNSでの発信内容を刷新。担当者の対応も、営業全体で「相談される会社を目指す」という軸に揃えていきました。
すると、営業先での第一印象が明らかに変わり、「ホームページを見て問い合わせました」という引き合いが月に2〜3件ペースで来るように。紹介の連鎖も生まれ、価格よりも対応力を評価される商談が増えていきました。

 

技術だけでなく、「考え方」が伝わるようになった

B社の強みはもともとあった技術力ですが、それ以上に伝わったのは「困っている相手を見捨てない姿勢」。これが、顧客にとっての安心感となり、信頼となり、「指名される会社」につながっていったのです。

 

このように、ブランディングは新しい施策を考え出すことではありません。大切なのは、「なぜ選ばれているのか」を言語化し、それを一貫して伝えること。それだけでも、会社の印象と選ばれ方は確実に変わっていくのです。

ブランディングは、今いる顧客との関係を深めることから始まる

新規顧客を追いかけるのは、営業として当然の動きです。でも、ブランディングにおいて最も大きな力を発揮してくれるのは、今すでに自社を選んでくれている顧客。

彼らのなかにこそ、自社の価値があり、他社との違いがあり、次の顧客へのヒントがあります。

 

「紹介したくなる会社」になれているか?

紹介が生まれる会社と、生まれない会社には明確な差があります。それは単にサービスの質や価格ではなく、その会社を好きかどうか。その会社を説明するときにストーリーがあるかどうかです。

人は、ストーリーのあるものを人に話したくなりますね。会社の考え方や姿勢が明確で、それがスタッフや営業にも行き届いていれば、自然と「なんか、この会社いいよね」が伝播していきます。

 

選ばれる理由は、自分たちのなかにある

競合を見て「どう違うか」を考える前に、自社が「なぜ選ばれてきたのか」を見つめ直すことのほうが大切です。そこに気づき、言葉にして、社員と共有できれば、会社全体が同じ方向を向けるのです。

それが、「ブランド」として外ににじみ出ていきます。

 

これまでに積み上げてきた信頼がブランドの価値

特別なキャンペーンも、広告予算も、必ずしも必要ではありません。
「うちの良さってなんだろう?」と問い直し、
「それが伝わっているか?」を見直すだけで、十分にブランディングは始められます。

そしてそれは、どんな中小企業にもできることでもあるのです。

選ばれる会社には、明確な理由がある

これからブランディングをはじめる方にとって、ブランディングは難しそうな印象があるかもしれません。でも、本当の意味でのブランディングとは、自社の「らしさ」や「考え方」を明確にし、それを信頼できる形で伝えること。

ですから、それは大きな会社だけができることではないのです。むしろ、顔が見え、声が届く中小企業こそ、深くて強いブランドをつくることができるかもしれません。

選ばれる会社には、理由がある。
それは、価格でもデザインでもなく、「この会社と仕事がしたい」と思わせる、信頼と一貫性の積み重ねがもたらすものです。

今いる顧客の声を聞いてみてください。そこに、すでに選ばれている理由がきっとあります。まずはそれを知り、言葉にし、ほかの誰かにまっすぐに伝えていきましょう。

リソースがないのは、どこも同じ。違いが出るのは、「覚悟を決めて動くかどうか」。小さな会社が選ばれる会社になるには、理由をつくるしかありません。その一歩を、今ここから始めてください。

 

ブランディングに対する壁の高さは、少し低くなったでしょうか。

フレイバーズでは、中小企業のブランディング支援に特化したサービスを提供しています。私たちが大切にしているのは、経営者の想い、会社の社風を掘り起こし、伝わるかたちに整えること。かっこよさよりも、らしさと実効性を重視したブランディングを支援しています。

「ブランディングは、大きな投資や長期間が必要そう・・・」そう感じている方もおられるかもしれません。
でもご安心ください。私たちは、短期(約3ヵ月)で方向性を定め、標準で半年ほどで自走できる体制構築を支援しています。
あとは社内で無理なく続けられるよう、必要な仕組みやツールも整備します。

費用については、事業規模や支援範囲に応じて最適なプランをご提案しています。
まずはお気軽にご相談ください。貴社にとって「ちょうどいいブランディング」を一緒に考えましょう。

  • 顧客ヒアリングを通じた「選ばれる理由」の発掘
  • 言語化・ブランドメッセージの設計
  • 営業資料やWEB、SNSなど発信の一貫性づくり
  • 社内への浸透まで見据えた並走型の支援

「相談だけでもいいかな?」
そんな段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

中小企業のブランディング完全ガイド
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中小企業のブランディングとは?成功させる5つのメリットと実践方法

中小企業の経営者

コラムの冒頭ではありますが、中小企業こそブランディングの成果が出やすい ── このことを、経営者の方に強く伝えたいと思います。実は「中小企業 ブランディング」の成功は、大企業よりも早く、そして深く実感できるのです。

なぜかといえば、ブランディングは、ロゴや広告のような“外向き”ではなく、社員の意識や行動を変える「内向きの取り組み」が核。この「人を動かす力」が問われる活動こそ、中小企業の規模感に最も適しているのです。
具体的に言うと、ブランディングを進める過程で、ブランドアイデンティティやミッション、理念などを社内に浸透させようとするとき、社内を変えていかないとそれは成功しない。しかし、それをスムーズに進められないのは「人を動かす」ことが容易ではないからです。

中小企業なら、数人~百人ほどの「人を動かす」だけで済みますが、大企業となると千人~数万人規模で浸透させなければなりません。どれほどの労力、時間が必要でしょうか。さらに中小企業であれば、経営者の目の届く範囲に社員はいますが、大企業になると経営者が名前を知らない社員がほとんど。この環境下で、全社員に同じ方向を向かせるのは簡単ではないわけです。

中小企業の経営者であるあなたに、もうひとつ伝えたいことがあります。
御社にも、まだ気づいていない、言葉に落とし込めていないだけで、すでにしっかりした「ブランド」があります。それをフレームワークなどを使って、ていねいに内省し、社内の合意を得ていくプロセスがブランディング。このプロセスを経ることが、次に挙げるメリットを生むのです。

中小企業がブランディングを実施するメリット

1. 認知度の向上

ブランディングは、企業や製品の認知度を向上させるための手段でもあります。正しいブランディング戦略を持つことで、顧客は企業や製品を認識しやすくなり、購買意欲が高まります。とくに中小企業の場合、知名度を上げることは新規顧客を獲得するうえで非常に重要なポイントとなります。

星野リゾートの星野佳路社長が、まだまだ今のような規模でなかったとき、リピーターを徹底的に調査しました。なぜこの旅館に繰り返し来てくれるのか。そこには確固たる理由があるはずで、その理由が分かれば、まだ見ぬ同じ価値観を持つ顧客にも訴求すれば、新規客が増えるはずだと。
星野社長は、経営学の権威が主張する理論を徹底的に実践することで有名なので、おそらくブランディングの理論にどこかで触れられたのだと思います。その結果は、あなたもご存知のとおり。まだ中小企業だった星野リゾートが成長する源泉にもなったのです。


 

2. 競合他社との差別化

競争が激しい市場では、自社の製品やサービスを差別化することが生き残る条件です。ブランディングのプロセスで最初に行うフレームワークはクロス3C。顧客が求める購買条件のひとつを自社だけが持つ優位性で賄えるかを確認する作業(ブルー・オーシャンを見つける)です。他社も同様の優位性を持っているなら、それはレッドオーシャン。血の雨が降る海ですから、消耗戦になってしまいます。体力のない中小企業は、ここで戦ってはいけません。

ブランディングを通じて、企業は独自の優位性に基づく価値提案や個性を表現し、競合他社との差別化を図ることができるようになります。また、顧客にとっても、製品を選ぶ理由が明確になるのです。


 

3. 信頼とロイヤルティの構築

正しいブランディングは、顧客との信頼関係を築く基盤となり得ます。企業が一貫したメッセージや価値観を伝えることで、顧客は安心し、継続的な購買や応援をしてくれるようになります。もちろん、つまみ食いはするかもしれませんが、結局あなたの会社で得ていた満足感を消し去ることはできず、再度顧客として戻ってくるようになります。

ブランディングは、LTV(顧客生涯価値)を多く生み出してくれる顧客が多く現れる可能性を秘めています。言い換えれば、自社を長く継続させるための施策とも言えるのです。


 

4. 成長と展開の支援

あなたは融資を受ける際、金融機関の担当者に自社の強みを胸を張って語っているでしょうか。金融庁は、中小企業への融資について、現状だけを見るのではなく、将来性も含めて勘案するように通達を出しています。
ブランディングを行うことにより、自社の優位性、自社を端的に表現することができるようになり、金融機関の担当者の記憶にも残りやすくなるでしょう。

ブランディングは、企業の成長や発展をサポートする重要な施策。正しいブランディングを推進する企業は、新しい市場や顧客層に訴求しやすくなるのです。


 

5. 社員が考えはじめる社風をつくるきっかけに

フレイバーズがコンサルティングするブランディングは、プロジェクトチームを導きますが、決して答えを教えることはしません。すべてのプロセスでプロジェクトメンバーは、悩み、考え、ときに言い合いをしながら、自ら答えを導き出していきます。

中小企業にありがちなのは、トップの指示を実行するだけになってしまっている組織。経営者であれば、自走してくれる組織に変革しないと、社長が本来やるべき仕事がいつまでたってもできない事態に陥ってしまいます。ブランディングを実行することで得られる副産物として大きいのは、社員が自ら考え動く経験ができることと、視座を高く持てるようになること。
ブランディングは、通常の業務では果たせない社員教育にも寄与してくれるのです。

インターナルブランディングの進め方

中小企業が輝く存在であるために

日本の全労働人口の70%を占める中小企業。日本にとって、この大きな存在である中小企業が元気で輝いていないと、この国の将来は危ういものになってしまいます。
これまでみてきたように、ブランディングは中小企業にとって厳しい市場で成功するために欠かせない要素であり、十分に検討する価値がある施策です。経営者は、今だけを見るのではなく、20年後この会社をどうしたいかを考えるのがほんとうの仕事。今いる社員のために、ぜひブランディングの導入をご検討ください。

中小企業庁「中小企業白書」:第1節 ブランドの構築・維持に向けた取組

ひらパー集客100万人は、兄さんの実力か、奇策のたまものか?

大阪府下で第2位の集客力

筆者は、単にじもピーだから復活した「ひらパーの奇跡」を採り上げたわけではない。ひらパーの策略を通じて、リアルの店舗集客にも応用できるものがあると感じたからだ。

集客でお悩みの店舗経営者の方々は、彼らの放った集客策のキモを感じてもらえれば幸いだ。

ひらかたパークは、京都府に隣接する大阪の端、枚方市にあるファミリー向けの遊園地。もともと、ひらかたパークは1910年(明治43年)「香里遊園地」として生まれ、京阪電車・香里園駅にあった。京阪沿線の人は、「園」があるわけでもないのに、なぜ香里園が「園」なのかと疑問に感じていた人も多いと思うが、こういった理由があったわけだ。

その後、第三回菊人形展の開催によって、現在の地に原形を求めることとななるのであり、1912年(大正元年)の開園は、同じ土地で営業を続ける遊園地のなかでは、日本最古のものだ。

年間来場者数はUSJに次いで大阪府下第2位。2014年度の来園数は100万人を超えており、USJやディズニーランドなどの大型のテーマパークの人気に圧倒される地方の遊園地のなかにおいて、飛び抜けた人気、知名度、集客力を誇っている。

ひらパーの状況

ひらパーの現状

いまや全国的に知名度があり、大阪を代表する遊園地となったひらパーだが、絶大な人気を集める大型テーマパークと比べると決定的に不利な要因を抱えている。

  • それだけで集客に繋がるような独特な世界観、人気キャラクターを持たない。
  • 大型テーマパークのように大規模な投資によってアトラクションを新設し続ける集客戦略を打てない。
  • 枚方周辺には目立った観光地がなく、都心からも距離があるため観光客を呼び込むことが難しい。

このような状況のなか、ほんの数年前まで毎年1億円前後の赤字を何年も続けている閉園寸前の遊園地でしかなかったのだ。そんなひらパーが、大型テーマパークにおされつつも、生き残りをかけて繰り出した個性あふれる集客戦略をご紹介しよう。

生き残りをかけた集客戦略

1世紀続く定番遊園地ゆえ

遊園地帰りの家族

夏のファミリープール、冬のスケートリンク、秋は創業以来続いていた菊人形は、枚方市周辺のじもピーにとっては昔からの定番だ。2005年に惜しくも終了してしまった菊人形に代わって、新たにイルミネーションイベントが開催されている。

実は、この定番イベントをコンスタントに続けることが、じもピーを再来園させるきっかけとなっている。

プール

例えば、鬱々とした気分で揺られる通勤の電車内で、ひらパーのプール「ザ・ブーン」の広告を目にした40代サラリーマン。
父母と行った小学生の夏休みがフラッシュバックのように思い出される。

家は決して裕福ではなかったから、避暑地の海辺ではない。たかだか地元、芋の子洗いのようなにぎわいをみせる普通のプールだ。でも、自分にとっては最高の夏休みの思い出だった。弟と大はしゃぎしながら、真っ赤に染められたソーダを一気に飲み干した。

「今度の休みには子供を連れていくか」

と、週末の休みに「いい父親」になるきっかけになるのだ。中学の頃友人たちと行ったアイススケートも、まったく興味がわかなかった菊人形でさえ、じもピーをふとしたきっかけで駆り立て、安定した集客につなげられるのだ。

大阪のベッドタウンである枚方に、1世紀以上にわたって密着しつづけた遊園地だからこそできる集客戦略で、4世代を超えるじもピーたちの継続的な来園を促し、安定した集客力を保つ理由だ。

大阪人の習性を活かしたシュール広告

ピピンの広告

おもしろいコトを人に話すのが義務。ボケた相手には、突っ込まないと失礼にあたる。

そんな習性を持つ大阪人は、ひらパーの広告ポスターを見るとウズウズしてしまう。なぜなら、ひらパーが発信する「ボケ」が、見事に「投げっぱなし」になっているからだ。

たとえば、ひらパーのキャラクタ―「ピピン」が膝を抱えて座っている写真に、「ファンクラブとかできないかなぁ。」と大きな文字が載せられているポスター。

「そんな弱気なキャラクター、あかんやろ」
「もっと自信持たんと」

などと、頭のなかで思わずツッコんでしまう。いつからか、ひらパーの広告はこのようなシュールなものになり、どんどんこの傾向は加速している。

来園のきっかけを与えることや、イベントの告知をすることが本来の目的ではあるが、このように大阪人のツッコミ精神をくすぐりまくる。

「ひらパーの広告は面白い」と認識してもらえれば、注目度が高まり、口コミ効果も得られる。さらにひらパーの好感度も上がっていくというわけだ。

V6まで引きずり出した、ひらパー兄さん戦略

ブラマヨのひらパー兄さん

ひらパーを現在の人気・知名度まで押し上げたのは、「ひらパー兄さん」を据えたことにある。

ブラックマヨネーズの小杉が起用された、初代ひらパー兄さんは、引退までの約4年間で約30億円の広告効果をもたらしたと言われている。
有名人をひらパーのイメージキャラクターとして起用し、広告を打ち出すことでひらパーの知名度は急上昇。前述のシュールな広告との相乗効果で、ひらパー兄さんの人気も高まっていった。

ひらパー兄さん選挙

勢いのあるブラマヨを起用したことで、広告という枠を超えて話題になった仕掛けがある。
小杉の人気に嫉妬した相方の吉田が、フジテレビの”人志松本の○○な話”で「俺の方がひらパー兄さんにふさわしい」と宣言。2代目ひらパー兄さん就任をかけた選挙イベントが行われるまでに至ったのだ。地上波のテレビ番組で騒ぎ立てたうえ、大阪の天満橋で2人が街頭演説を行うなど、パークの外部を巻き込んだこの騒動は、ひらパーで面白いことをやっていると全国に知らしめることとなった。

100周年をきっかけに初代ひらパー兄さんの小杉が引退したあと、枚方市出身のV6・岡田准一が「超ひらパー兄さん」として2代目に就任。岡田くんが主演する映画のパロディなど、こちらも話題性に富んだ広告を打ち出している。

岡田准一くんのひらパー兄さん

全ての広告がひらパー兄さんを中心に構成され、ひらパー兄さんに接触する機会が増える。いつのまにか、皆がひらパー兄さんを身近な存在に感じ始め、そのストーリーに注目し、応援したくなる。ひらパーはその舞台となることで、大きな付加価値を得、さらなる集客力を得たのだ。

思い出は、人がつくる

思い出は、人がつくる

どんなに革新的なアトラクションを体験したところで、楽しさを共有する相手がいなければ、たのしい思い出にはならない。
アトラクションやイベントはあくまでも舞台であり、家族や友達など、一緒にいる人がお互いを楽しませることこそが、たのしい思い出になる条件だ。

キャラクターや世界観、アトラクションの魅力だけで集客することができないひらパーだからこそ、来園やリピートのきっかけが「人」であることの大切さをわかっている。

ひらパー兄さんの広告は、「話題のアトラクションを体験したい」といった、楽しませて欲しいというニーズに応えることとは異なり、兄さんを応援したい、兄さんのところに遊びに行きたいという思いが、お客さんを来園させるというもので、これもアトラクションではなく、兄さんがお客さんを楽しませるという仕掛けだ。

目隠しライド

ひらパーには「ジャイアントドロップメテオ」という垂直落下アトラクションがある。これといって目新しいことはない絶叫系アトラクションだが、岡田くんの目がプリントされた「兄さんアイマスク」で目隠しをして乗る「目隠しライド」や、「おま」以外の叫び声が禁止になる「おまライド」といった企画によって、友だち同士、スタッフまで巻き込み、みんなが思わず笑ってしまうアトラクションとなった。

友人たち、家族が「目隠しライド」や「おまライド」を共有し、いつまでも笑い合う。心に刻まれたその豊かな経験が、いつの日かまた懐かしい思い出をフラッシュバックさせた「じもピー」を懐かしい場所へ駆り立てるのだ。

まとめ

「ないものづくし」のひらパーが、1億円の定例赤字から脱却した突き抜けたアイデア。これは、遊園地が装置産業であるという固定観念へのアンチテーゼなのかもしれない。きらびやかな装飾や固有のアトラクションに頼らず集客に成功していることが証明している。

1世紀以上にわたり、大阪府のベッドタウン枚方に根付いた遊園地だからこそ、最後は「人」が大切なのだと教えてくれている気がしている。「人」が「人」を楽しませるのだ、「人」を連れてくるのは「人」でしかないと言っているような気がしている。