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中小企業がAIを使い、経費ゼロでブランディング

中小企業のブランディング完全ガイド|AIと今ある資源で始める実践法

 

平田弘幸

執筆した人:平田弘幸

株式会社フレイバーズ代表取締役。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会・認定コンサルタント(インターナルブランディング)、ブランドマネージャー(1級)。大手電機メーカーで国内外の営業、企画を15年間経験した後、フレイバーズ設立。製造業での知見を活かし、中小企業のブランディングに強み。

 

景気が不透明ないま、中小企業にこそ必要なのは「ブランド力」

「安うしときまっせ」では、もう勝てない。
大阪産業局が2025年4月に行った景況調査では、今後景気が「伸びる」と見ている企業はわずか19.9%。
一方で「横ばい」が約半数、「悪くなる」と答えた企業も4社に1社。
つまり多くの中小企業が、「先行きの見通しが立たない」状況に置かれています。

そんななかで求められるのは、「安さ頼み」から抜け出すこと。
限られた資源の中でもしっかり選ばれる会社=「ブランド」のある会社になることです。

本記事では、大阪の中小企業がいまある手持ち資源で始められるブランディングについて、ChatGPTなどの無料ツールも活用しながら、わかりやすく解説します。
今日からでもすぐに取り組めるよう、テンプレートやチェックリストも用意しました。

 

なぜいま、中小企業にブランディングが必要なのか?

「うちは金ないから、宣伝なんてやってられへん」・・・ブランディングなら、やる価値はあります。
ブランディングと聞いて、「それは大企業の話」「うちは普通の町工場やから」と思ったことはありませんか?
でも実は、中小企業こそ「ブランド」をつくるべきなのです。

なぜか?

中小企業は広告費も、マンパワーも限られている。知名度だって、たかだかしれている。
だからこそ、新規の顧客候補に「この会社、信頼できるかも」「なんかええ感じやな」と思われる理由=ブランドがなければ、価格勝負になってしまうから。

ブランドは、毎日のやり取りの「にじみ」からできている

誤解されがちですが、ブランドはロゴやキャッチコピーを据え、きれいなWEBサイトをつくることではありません。

  • 初めての問い合わせにどう返すか
  • 商品やサービスにどんな言葉を添えるか
  • 社員さんたちがどんな態度で顧客と接するか
  • WEBサイトやSNSの言葉づかいはどうか

こうした「日々のコンタクトポイント(接点)※」での積み重ねが、「あの会社、なんか好きやな」という印象=ブランドになっていきます。

つまり、大きな予算をかけなくても、意識と工夫でブランドはつくれる。

ここから先は、そんなブランドをどうやって「自社らしく」つくるかを、5つの視点とAIツールを交えながら紹介していきます。

※コンタクトポイント
顧客と自社が接するあらゆる接点のこと。たとえば、電話対応、WEBサイト、会社案内、SNS、請求書、名刺、事務所など。目にふれる・声を聞く・接する場面はすべて「ブランドの顔」になるという考え方です。

 

自社ブランドをつくる5つの視点【テンプレート付き】

「うちらしさ」を言葉と形にするための軸は、次の5つ。
この章では、それぞれを簡単なテンプレート付きで紹介していきます。紙でもPCでも、形にしながら読み進めてください。

 

① ポジショニング(立ち位置)

うちは何屋で、誰にとって、どう役立つのか?

【テンプレート】
「うちは ○○向けに、△△を通じて、□□な価値を届けている会社です」

例:
「うちは飲食店向けに、手間のかからない業務用食材を通じて、“日替わりメニューが楽に決まる”という価値を届けている会社です」

 

② ペルソナ(顧客のキャラクター)

誰に選ばれたいのか?“一人に絞る”勇気を持とう

【テンプレート】
名前:_____さん(年齢)
職業・役職:__________________
抱えている悩み・課題は?____________
うちの商品・サービスでどう変わる?________

※実在の顧客を思い浮かべて書くと、リアルに思い描けるようになります。見落としがちですが、とてもたいせつなテンプレートで、どんな施策を考えるときも、ペルソナの◯◯さんなら、どう感じてくれるだろうと立ち返ることが、アイデアがブレないようになります。

 

③ ブランドストーリー(なぜ、この会社をやっているのか)

会社の原点に「らしさ」が詰まっている

【テンプレート】
「最初は○○だった。でも、△△な経験をきっかけに□□を目指すようになった」

例:
「最初は町の電気屋だった。でも、大手量販店の進出で経営が厳しくなり、“近所のお年寄りの困りごとを解決する店”として舵を切った」

 

④ トーン&スタイル(伝え方)

言葉・デザインに「らしさ」を込める

  • かっちり丁寧?
  • 親しみやすくフレンドリー?
  • 熱意あふれる情熱タイプ?
  • 職人肌の寡黙系?

SNS、チラシ、WEBサイトなど、すべてのコンタクトポイントで「同じ雰囲気」が感じられるように統一します。

【チェック】
□ 自社の言葉づかいは決まっているか?
□ 社名・商品名・キャッチコピーに統一感があるか?
□ フォントや色、デザインに一貫性があるか?

 

⑤ コンタクトポイント(接点)

お客さんと接する「あらゆる場面」がブランドをつくる

  • 電話応対
  • 見積書・請求書
  • 商品に添えるメッセージ
  • WEBサイトやLINE公式アカウントのトーク画面
  • 事務所の雰囲気

これらすべてが「ブランドの顔」になる場面です。
だからこそ、1つひとつを「うちらしい」に整えていきましょう。

マーケティングやブランディングで重要なのが、「一貫性を保つ」ということ。ある施策では◯◯と伝え、別の施策では△△となっている。これでは社内外で、どれがほんとうの姿なのかがわからなくなってしまいます。
中小企業に限らず、大企業でさえ、この一貫性を保つことは難しく、せっかくの施策が効果を発揮できないのです。

 

無料ツールとAIでコストゼロでもできる!中小企業のブランディング実践法

「うちには専門のデザイナーも、コピーライターもおらへん」
でも大丈夫。今の時代、無料のAIツールやテンプレアプリを使えば、「自社らしさ」は十分カタチにできます。

ここでは、ChatGPTやCanvaなど、誰でも使えるツールを例に、具体的な使い方を紹介します。

 

ChatGPTでつくる「キャッチコピー」と「ブランドメッセージ」

例:タグライン(短いひとこと)を考える

【プロンプト(指示)例】
「中小企業向けに業務効率化をサポートしている会社のキャッチコピーを5つ考えてください。“信頼感”と“親しみやすさ”が伝わるように」

→ 例として出てくるのはこんな感じ:

  • 「明日も安心、うちが支える」
  • 「小さな会社に、大きなチカラを」
  • 「業務のムダ、今日で終わり」

そのなかから、「うちらしい」ものを選ぶか、ちょっと変えて使うだけ、と言いたいところですが、バクっとChatGPTに投げても、「うちらしい」ものは出てきません。これまで考えてきた自社の背景や、顧客にとってのメリット、自社が実践していること、ペルソナなどをヒントに、ていねいに尋ねてみましょう。

ChatGPT

 

Canvaでつくる「統一感のある見た目」

Canvaは、無料で使えるデザインツール。ロゴや名刺、チラシ、SNS画像などがテンプレから簡単に作れます。

【活用TIPS】

  • ブランドカラーを1〜2色決めて、すべてに反映
  • フォント(文字の形)を固定してブレない印象に
  • 無料テンプレから「それっぽく見える」デザインを流用

→ プロじゃなくても、「きっちりしてる会社やな」という印象をつくれます。

Canva

そのほか使える無料ツールも紹介

用途 ツール名 特徴
ロゴ作成 Looka / LogoMakr クリックだけで簡単に生成
フォント選定 Google Fonts 日本語もOK、無料で商用利用可
カラーパレット Coolors ブランドカラーに悩んだときの味方
顧客管理 Notion / Google スプレッドシート 情報を整理して顧客対応の精度UP

ポイントは、「完璧じゃなくてええ。揃ってることがたいせつ」
たとえ手作りでも、言葉と見ため、発信のトーンに一貫性があれば、それが「信頼感」に変わる。
誰もが最初は素人。だからこそ、揃えることを最優先にして、できることから始めましょう。

 

中小企業からよくある質問とその答え【ブランディングQ&A】

Q. ブランディングって、ほんまに売上に直結するん?

すぐに売上にはつながらないかもしれません。
でも、他社との違いをはっきり伝えられるようになれば、「比較されにくくなる」「問い合わせの質が上がる」「値引きせんでも契約になる」という変化がじわじわ起きてきます。ブランディングは、長い期間をかけて取り組んでいくもの。じっくり腰をすえていきましょう。

 

Q. 社員に伝えても、ピンときてない感じが・・・。

ブランドは社長がひとりで考えた方針を「浸透させる」よりも、一緒につくるほうが早いんです。
全員が同じテンプレートを使って、ポジショニングやペルソナを出し合うだけでも、意識がガラッと変わります。

 

Q. 外注せず、自社だけでやっても大丈夫なん?

大丈夫、大丈夫。むしろ最初は「自社の言葉」で考えることに意義があります。もうこれ以上は無理やってなったときに、外部のブレーンに、「これがうちらの軸ですねん」と渡せば、話しは早いし、ブレずに進められるでしょう。

 

今日からできる!中小企業のためのブランディングチェックリスト

「よし、ブランディングやろう」と思っても、いきなり全部やろうとすると手が止まりがち。
まずはこの3つだけでいい。「15分でできる第一歩」をここにまとめました。

ステップ①:自社の「ポジショニング」を1文で書いてみる
「うちは誰に、何を、どうやって届けているのか?」
この1文があるだけで、SNSでも営業でも言葉がブレにくくなります。

【例文テンプレート】

うちは〇〇業界向けに、△△を通じて、□□な価値を届けている会社です。

→ 書いたものをスタッフと共有すれば、認識のズレをなくす会話のきっかけにもなります。

ステップ②:ChatGPTでキャッチコピーやブランド文を出してみる
「いいフレーズが浮かばへん・・・」そんな時の補助輪がAIです。
たとえばこんなふうに入力してみてください👇

【入力例】
「高齢者向けの配食サービスをしている会社のキャッチコピーを考えて。安心感と親しみやすさを出してほしい」

→ 5案くらい出てくるので、そこからピンとくるものを選ぶ or 組み合わせて使うだけ。
「考えすぎて止まる」時間をなくせます。

ステップ③:ホームページ・SNS・名刺を見直してみる
「伝えたいこと、伝わってるか?」を確認するだけでも効果あり。

【確認ポイント】

  • トーン(言葉づかい)は揃っているか?
  • 色やフォントは会社の印象に合っているか?
  • 「誰向けか」がハッキリ伝わる内容になっているか?

→ 小さな修正だけでも、「ちゃんとしてる会社やな」という印象に変わります。

まずは1つだけでもやってみてください。
完璧を目指すのはやめましょう。
上記の3つのうち、「一番手をつけやすそうなもの」から始めてみてください。
それだけで、あなたの会社は「ただの中小企業から、選ばれる会社」に一歩近づきます。

ブランディング

 

安売りせずに選ばれる中小企業になるために、今すぐできること

「ブランド」と聞くと、どこか遠い話に思えるかもしれません。

でも実際にブランドをつくっているのは、毎日の一言、ちょっとした気づかい、スタッフとの会話。
つまり、今のあなたの仕事そのものです。

完璧なロゴも、高価な広告もいりません。
「うちらしさ」を言葉にして、伝えるだけで、お客さんの見る目は変わります。

中小企業だからこそ、「ブランド」で逆転できる。
知名度がない。人手が足りない。予算に限りがある。
だからこそ、伝え方を整えるだけで、強い武器になる。

「この会社、なんか好きやな」
「ちょっと話を聞いてみたい」
そんなふうに選ばれる会社は、派手なことをしてるわけじゃない。
「軸」があって、「ちゃんと伝えてる」だけなんです。

フレイバーズは、そんな中小企業の「らしさ探し」に本気で向き合います。

  • 自社で考える時間がない
  • 社内で話し合っても、なかなか言語化できない
  • 社長ひとりで抱えてしまっている

そんなときこそ、お声がけください。
プロの視点で「御社らしさ、こういうことですね」とヒアリングを重ね、良いところ、他社と差別化できるポイントを整理していきます。

事業を良くするために必要なのは、①正しい方法を見つけること、②どうすれば最短で到達できるかを考えること、③改善しながら、突き進むこと、だと言われます。
その「正しい方法」を一緒に悩んで、一緒に笑って、あなたの会社だけのブランドという形でご提示できれば最高の仕事だと考えています。迷ったときは、ぜひ当社にお問い合わせください。

製造業のブランディング手法、今日から始める5ステップ

「品質には自信がある。でも最近、他社と何が違うのかと言われることが増えてきた」こんな声を、製造業の経営者の方からよく耳にします。
技術力には誇りがある。長年お客様に信頼されてきた自負もある。それでも、価格競争に巻き込まれたり、選ばれる理由をうまく伝えられなかったりして、もどかしさを感じている方も多いのではないでしょうか。

その原因のひとつが、「自社らしさを伝える力=ブランディング」の不足だと思われます。
「BtoC企業でもないのに、ブランディングと言われても・・・」そう思われるかもしれません。しかし、製造業には、そもそもブランドの“核”となる価値がすでに備わっています。
必要なのは、それを“見える形”にし、伝える方法を少し変えることです。今回は、未経験の方でも取り組めるように、実践的なブランディングのステップをご紹介します。

本記事で分かること

製造業にとって、ブランディングは難しく聞こえるかもしれません。でも今、品質や技術だけでは選ばれにくくなっています。この記事では、自社の“想い”を伝わる形に変え、ブランドとして育てていくための5つのステップを、実践しやすい方法でわかりやすく解説します。

 

ブランディングとは「表面的な装飾」ではない

まず大前提として、ブランディングとは「かっこいいロゴを作ること」でも「SNSでバズること」でもありません。最近は、ブランディングを広告戦略の一つのように扱われている傾向がありますが、それは大きな誤解です。
ブランディングとは、“あなたの会社がなぜこの仕事をしているのか。何を大切にしているか”を、社内にも、社外にも、ちゃんと伝わるように言語化し、訴求していくことです。製造業にとってのブランディングとは、「想いと技術を、価値として“伝える技術”」です。

では、そうした“想いを伝える力”を、どうやって社内に築き、外へ伝えていけばよいのでしょうか。
実際に取り組もうとすると、「どこから手をつけていいか分からない」と感じる方も多いはずです。
そこでここからは、未経験でも着実に進められる、製造業のためのブランディング実践ステップをご紹介します。

 

製造業のためのブランディング実践5ステップ

STEP 1:Why(なぜ)を言語化する

ブランディングを進めるなかで、大切にしたい「ゴールデンサークル理論」というフレームをご存知でしょうか。これは、“Why(なぜやるのか)→ How(どうやるのか)→ What(何をやっているのか)”の順で伝えると、人の共感を得やすくなるというもの。一般的には「What=製品・サービスの説明」から話しがちですが、それだけでは他社と差別化されにくくなっています。
たとえば、「自社の強みは何ですか?」と聞かれたら、多くの製造業は「高精度」「短納期対応」「コスト競争力」と答えるでしょう。しかし、それはWhatやHowにすぎません。
本当に顧客の心に届くのは、「なぜその製品を作っているのか?なぜその技術を守っているのか?」という想い=「Why」です。それは創業者の想いであったり、地域との関係性、守りたい文化、届けたい未来など、表には出していなかった「根っこ」のようなもの。製造業を営むなかで、会社がずっと大切にしてきた想いを掘り起こすことで、それは必ず見つかります。

進め方のヒント
・創業ストーリーを振り返る
・「なぜこの製品を作っているのか?」と社員に聞いてみる
・「うちの技術が社会にどう役立っているのか」を一言で言うと?
・経営者・幹部で「うちが本当に大切にしていること」を3つ挙げてみる
・創業者や先代の言葉・信条にヒントがあることも多い
ポイントとしては、「かっこいい言葉」を考えるより、「正直な気持ち」を見つけるほうが伝わりやすくなります。

 

STEP 2:顧客像を再定義する

ブランディングを進めるうえで次に大切なのは、ターゲットを明確にするということ。「誰に何を届けたいのか」が明確になると、伝えたいメッセージもより具体的になってきます。
たとえば、「業界問わず対応可能」ではなく、「品質を重視し、安定調達を望む医療機器メーカーの開発担当者」など、顔が浮かぶレベルで具体化することが大切です。ターゲットを絞るほど、ブランドの言葉は強く・明確になります。

進め方のヒント
・過去3年で一番満足してくれた顧客を3社ピックアップ
・「どんな課題を抱えていて」「なぜ当社を選んだのか」を書き出す
・「この人のために商品を届けたい」と思える顧客像を言葉にしてみる
・顧客インタビューを実施し、価値を感じたポイントを把握する

 

STEP 3:強みの“見せ方”を整える

製造業には、現場に根ざした本物の強みがあります。ただ、それが「見える形」になっていなければ、外部の人には伝わりません。

たとえば、ウェブサイトや会社案内で「柔軟な対応」「豊富な実績」「確かな技術」といった表現を並べても、他社と似た印象になることがよくあります。
本当に伝えるべきなのは、“なぜそれを実現できているのか”という背景や考え方です。

進め方のヒント

1.言葉の見直し
「何をしているか」ではなく、「どんな想いでやっているか」を一文で表す。
✕「樹脂加工の専門メーカー」
○「開発者の“あと一歩”に応える、精密樹脂加工の専門家」

2.表現の再構成
・製品紹介ページに「開発の裏側」や「困難をどう乗り越えたか」を加える
・会社案内に「選ばれる理由」や「お客様の声」を挿入して信頼感を補強

3.情報の見せ方
・トップページや営業資料の冒頭に「どんな価値を提供する会社か」を一言で書く
・設備や数字より、働いている人の姿や想いを写真や言葉で伝える

 

STEP 4:共感を生むストーリーを語る

ブランディングにおけるストーリーとは「感情が動く背景」のこと。自慢話ではなく、挑戦・失敗・改善・信念といったリアルなエピソードの中に共感は宿ります。
たとえば、「若手社員が初めてリードしたプロジェクトで納期遅延寸前だったが、ベテランの支えで乗り切った話」「昔からの取引先に“御社の姿勢が好き”と言われたエピソード」など、そんな“人間味”こそがブランドになります。

進め方のヒント
・これまでで一番苦労したプロジェクトと、その乗り越え方を書き出してみる
・現場のスタッフに「印象に残っている仕事」を聞いてみる
・「最初の失敗」「顧客との忘れられないやりとり」などを1枚の紙に書く
・自社の強みが伝わる“実話エピソード”を3つピックアップする
ポイントとしては、きれいな話より人間味のある話の方が、人の記憶に残るものです。

 

STEP 5:ブランドを社内に浸透させる

ブランドのメッセージが明確になってきた。社外に対しての見せ方も分かった。でも、本当に大切なのは、ここからです。ブランド価値を守り育てていくためには、全社的な共感と協力が不可欠です。「経営者だけが分かっている状態」ではなく、社員一人ひとりが「うちの会社はこういう考えで動いている」と自然に語れるようになったとき、はじめてブランドは“会社全体の力”になります。

ある製造業では、社員向けに「うちの技術のすごさを語るプレゼン大会」を開催したことで、営業・設計・製造の間に一体感が生まれました。その結果、営業担当が顧客に語る言葉にも自信と説得力が生まれたそうです。
社内で浸透させる時に気をつけたいのは、「ブランド浸透=研修」ではないこと。日常の会話や現場の言葉に落とし込むことがカギとなります。

進め方のヒント
・朝礼や社内ミーティングで「なぜこの事業をやっているか」を話してみる
・社内共有スライドやポスターに“Why”や“ビジョン”を載せてみる
・社員同士で「うちの会社の魅力って何?」を話し合う機会をつくる
・若手社員に「この会社に入って感じたこと」を発表してもらう
トップダウンではなく“共通言語化”を目指すことがカギです。

 

製造業こそ、想いを“伝える技術”を持つべき

モノづくりの現場には、語るべき価値や想いがすでにあります。ただ、それが“伝わる形”になっていないだけかもしれません。
品質や技術に誇りを持ってきた製造業だからこそ、これからはその姿勢や価値観を、言葉として届ける力が求められます。
無理に飾る必要はありません。ありのままの想いを、少しずつでも外に見せていくこと。それが、価格ではなく“共感”で選ばれるブランドへの第一歩となるはずです。
ただ、言葉にすることや、社内に浸透させることは、実際に取り組んでみると意外と難しいもの。だからこそ、できるところから少しずつ始めてみるのが良いかもしれません。
また、外部の視点があるとスムーズに進む場面もあるため、必要に応じて相談できる選択肢を持っておくのも一つの方法です。

 

よくあるご質問(Q&A)

Q1. 製造業にとって、本当にブランディングは必要なのでしょうか?

A. はい、むしろ製造業こそ必要です。
品質や性能での差別化が難しくなってきた今、「なぜその製品を作るのか」「どんな姿勢で仕事をしているのか」といった企業の“姿勢”が選ばれる理由になってきています。
まじめにものづくりを続けてきた企業ほど、ブランディングの核となる“伝える価値”をすでに持っています。

 

Q2. ブランディングというと、デザインや広告の話でしょうか?

A. 一部そうした要素も含みますが、本質はそこではありません。
ブランディングとは、「自社がどんな想いで事業をしているのか」「誰にどんな価値を届けたいのか」を明確にし、それを社内外に一貫して伝える活動です。
デザインは“表現の手段”にすぎず、核は「企業の言葉・哲学・方向性」にあります。

 

Q3. 社長や上層部の想いはあるけど、言葉にするのが難しいです。

A.経営者の方は、日々の経営判断や現場対応で多忙な中で、“当たり前にやっていること”の価値に気づきにくくなるのは当然のことだと思います。自分自身のことが一番分からないと言われるのと同様に、自社について改めて考えるというのはなかなか難しい作業でもありますが、少しずつ続けていくうちに楽しみにもなっていくはずです。
私たちはヒアリングを通して、その“当たり前”の中から言語化できる本質を一緒に見つけ出すサポートをしています。

 

Q4. 中小規模の製造業でも、ブランディングは効果がありますか?

A. むしろ中小企業こそ、大手と違う“理由”で選ばれる必要があります。
地域密着、少量対応、職人の技、スピード感、誠実な対応、そうした強みをブランディングによって明確に伝えることで、価格以外で選ばれる会社になることができます。

 

Q5. まず何から始めればいいですか?

A. 最初のステップは、「自社のWhy(なぜ)」を考えてみることです。
創業の背景、譲れない価値観、こだわりを一度言葉にしてみてください。それがすべての出発点です。
もし整理が難しいと感じたら、ぜひご相談ください。第三者が入ることで見えることもたくさんあります。

 

ご相談・ご質問はこちらから

ブランディングに関心はあるけれど、
「どこから始めたらいいのか分からない」
「うちの会社でもできるのか不安」
そんなときは、お気軽にご相談ください。
私たちは、製造業の現場と価値を深く理解し、経営者の“想い”をかたちにするプロフェッショナルです。
まずはオンライン面談や簡単なヒアリングだけでも構いません。お問い合わせフォームより、いつでもご連絡いただけます。

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B2B企業のブランディング

BtoB企業のためのブランディング入門|差別化と信頼を生む実践ガイド

BtoB企業のブランディング

BtoB企業にとって、ブランディングは“信頼される取引先”になるための戦略です。

単に製品やサービスを提供するだけでは、他社との差別化は難しくなっています。BtoB企業がブランディングに取り組むべき最大の理由は、「この会社なら任せられる」と顧客に思わせる“信頼”を築くこと。その信頼は、価格やスペックではなく、ブランドとしての一貫した姿勢・価値・ストーリーから生まれます。

このコラムでは、BtoB企業が信頼されるブランドになるために押さえるべき5つの視点——
① 他社にはない優位性の明確化、② 顧客中心のコミュニケーション、③ 一貫性のあるブランド体験、④ 自社らしいストーリーテリング、⑤ デジタルでの可視性の最適化——について、実践的な視点で解説していきます。


 

ブランドの差別化

市場での競争は、国内の競合ばかりではなく、海外勢も加勢し、激化するばかり。あらゆる製品やサービスが加速度的にコモディティ化しています。顧客の購買に関してもその状況は同じで、どれを選べば良いのか分かりづらいといった市場にもなっているのです。

おそらく、そのような市場で生き残っていくために、あなたはブランディングについて調べてみようと考えたはずです。ブランディングのオーソドックスな手法のひとつを大上段に振りかぶって言うならば、「独自の価値を提供できること」です。ただ、「独自の価値なんてものが自社にあるのだろうか」と感じたかも知れません。

あなたがイメージした独自の価値とは、「世の中にない唯一無二のもの」でしょう。そこに少し誤解があります。世界的に活動している企業であれば、「世の中にない価値」が必要かもしれません。しかし御社の守備範囲が、地方、県内なのであれば、そのエリア内において、しかも競合が提供できていない価値で十分なのです。
たとえば、競合に比べて顧客サービスのクオリティが高いであるとか、納品までのスピードが早いであるとか、小口配送ができるといった切り口。要は、いま取引してくれている顧客が御社を選んでいる理由のなかから、他社ができていないことを見つければいいのです。

しかもその現在の顧客が御社と取引を続けている理由は、御社内ではあたりまえのことになっているはず。あたりまえのことは、ごくふつうのことなので、今まで顧みることはなかったわけです。しかしそこに、御社が生き残れている理由が隠れているとしたらどうでしょう?
それをきちんと整理して明確にして訴求すれば、現在は競合と取引している顧客でも、御社に魅力を感じてくれる可能性はないでしょうか。

ブランドが確立されていない企業の課題は、①自社と取引している顧客がなぜ御社を選んでいるのか調査できていない、②その結果、自社の価値が明らかになっていない、③全社で共有できていない、④顧客候補に訴求できていないことが挙げられます。これらを推進していかない限り、ブランディングによる商機の拡大を見込むことはできません。

製品ブランディング


 

顧客中心のアプローチ

冒頭でお伝えしたように、ブランディングに取り組む目的を顧客と「信頼できるパートナーとしての地位を築く」ために行う
のであれば、考え方を顧客を真ん中に置いたアプローチに変えなければいけません。各部門の利益を優先してしまうような取り組みになっていては、顧客に向けた訴求ができなくなるからです。
とはいえ、今までそのようなことに取り組んだことがなければ、それが会社中心なのか、顧客中心なのかもわからないかもしれません。外部の意見が取り込めるような体制を整えることも検討してください。


 

1.市場ニーズの把握が、ブランディングの第一歩

自社の強みや提供価値を正しく伝えるには、まず市場や顧客のニーズを把握していることが前提です。ところが、多くの企業ではブランドが曖昧なまま事業を展開しており、市場調査が十分でないケースが少なくありません。現在の顧客とマッチしているからといって、それが市場全体にも通用するとは限らず、ニーズのズレが原因で新規の取引が広がらないこともあります。ブランド戦略を設計する前に、市場が求めていることと自社の強みが合致しているかを客観的に見極める必要があります。


 

2.ブランド体験を設計する

顧客が「この会社と取引すると、どんな価値を得られるのか」をリアルに想像できる仕掛けを用意することが、BtoBブランディングでは重要です。たとえば、対応スピードの速さが強みなら、問い合わせに即時対応する仕組みを見せることで、信頼感を与えられます。専門性が武器であれば、業界に特化した事例やナレッジをWeb上に掲載し、知見の深さを体感させましょう。
「体験できるブランド価値」があることで、単なる約束ではなく、実感として御社の強みが伝わります。


 

3.提供価値は、社内外で一貫して伝える

既存顧客がなぜ自社を選んでいるのか。その理由を明確にし、それを軸に提供価値を訴求することが、ブランド構築の要になります。この価値が社内で共有されていないと、担当者によって対応が変わったり、資料ごとにメッセージがぶれたりして、顧客に不信感を与えてしまいます。
重要なのは、社内全体で同じ価値基準を持ち、その価値を言語化して社外に一貫して伝えること。既存顧客が感じているメリットは、まだ接点のない見込み顧客にとっても、同じように刺さる可能性が高いのです。


 

体験の一貫性が、ブランドの信頼をつくる

ブランド体験とは、顧客が御社に接触したすべての場面で感じる「品質」「価格」「納期対応」「サポート体制」「コミュニケーション」「デザインや表現」などの総体です。重要なのは、どの接点においても「その会社らしさ」が一貫して伝わっていること。
たとえば既存顧客が「対応の丁寧さ」や「スピード感」に価値を感じているなら、そこを中心に体験の設計を強化すべきです。
以下では、ブランド体験を構成する各要素について、それぞれどのように一貫性を保つべきかを解説していきます。。


 

1.品質と価格の“理由”を明確にする

製品やサービスのスペック、価格帯が購買判断において重要なのは言うまでもありません。しかし、大切なのは「なぜそのスペックと価格で選ばれているのか」を正しく理解し、伝えることです。
たとえば、競合と比べて機能は平均的でも「壊れにくく長持ちする」と評価されているなら、耐久性がブランド価値の核となります。逆に、価格が割高でも「専門サポートが手厚い」と感じられていれば、その支援体制が差別化ポイントです。
自社のポジションを客観的にとらえ、選ばれている理由を軸に強化していくことが、ブランド育成の要になります。


 

2.納期の価値は、状況によって変わる

BtoB取引において納期は重要な判断軸のひとつですが、それが常に最優先とは限りません。たとえば、ある工作機械でしか実現できない加工があるなら、多少の納期の遅さよりも性能や精度が優先されます。逆に、どの製品でも代替できる市場であれば、短納期は大きな競争優位になります。
つまり、自社の製品・サービスが「納期で選ばれるものなのか」「機能や専門性で選ばれるものなのか」を見極め、適切なメッセージとして訴求すべきです。納期は単なるスピードの話ではなく、ブランド価値の一部として戦略的に扱うべき指標です。


 

3.すべての接点が、ブランドを語っている

顧客とのコミュニケーションは、広告やパンフレットだけでなく、製品マニュアル、Webサイト、営業メール、問い合わせ窓口など、あらゆる接点で行われています。だからこそ、それぞれがバラバラではなく、同じトーンと価値観で統一されている必要があります。
たとえば「スピーディーな対応」を打ち出している企業が、実際の問い合わせ対応で何日も返信を放置していれば、ブランドの信頼は一瞬で崩れます。
BtoBにおいては、こうした“体験のギャップ”が長期的な取引機会を損なう原因になり得ます。社内でブランドの軸を明文化し、どの部門でも一貫した対応ができる体制づくりが不可欠です。


 

4.サポート体験は、信頼を築く最後の砦

製品やサービスを使ううえで課題に直面したとき、顧客はサポート窓口の対応から企業姿勢を見ています。特に使用方法が複雑な製品であれば、サポートの質が継続利用の意思決定に直結します。
このとき大切なのは、マニュアル的な回答ではなく、「自社らしい姿勢」が伝わること。スピーディーさ、丁寧さ、専門性など、ブランドが掲げる価値と一致していなければ、他の接点で築いた信頼が損なわれる可能性があります。
だからこそ、サポート対応もブランディングの一環として位置づけ、営業・マーケ・CSなどすべての部門でブランドの軸を共有し、一貫した顧客体験を提供することが求められます。


 

5.ブランドに“物語”があるBtoB企業は、記憶に残る

BtoBの意思決定においても、企業の背景や価値観に共感できるかどうかは、取引を左右する要素になります。
たとえば「なぜこの市場に参入したのか」「どんな課題を解決しようとしたのか」「どのような技術や発想で乗り越えてきたのか」。そうしたストーリーは、製品やサービスにリアルな説得力を持たせ、顧客の納得感や信頼を後押しします。
Webサイトや会社案内、導入事例、トップインタビューなどを通じて、自社の背景と価値観を一貫したトーンで伝えることが、BtoBブランドにおけるストーリーテリングの本質です。


 

6.BtoBこそ、デジタル上で“見つかる”力が武器になる

営業力の強い一部の大手企業を除けば、BtoB企業が市場で存在感を持つには、オンラインでのプレゼンス強化が不可欠です。多くの購買担当者や技術者は、まずインターネットで情報収集を始めます。その段階で自社の製品や技術が検索にヒットしなければ、そもそも選択肢に入ることすらできません。
そのため、SEOに強い専門性の高いコンテンツを継続的に発信し、検索エンジン上での可視性を高めることが、BtoBの新規営業活動においても非常に有効です。たとえば技術解説、導入事例、比較資料、FAQなど、ターゲットが業務の中で必要とする情報を揃えることが、信頼構築と問い合わせ増加に直結します。
特定分野における知見を体系化し、網羅的な情報発信を続けることで、顧客候補を引き寄せる“磁場”をオンライン上に築くことができます。

ブランド構築の戦略的ステップ


 

BtoB企業にこそ、戦略的なブランディングが必要だ

中小企業庁の2022年調査では、BtoB企業の約3社に1社がブランド構築に取り組んでいるとされています。BtoC企業ほどの割合ではないものの、ブランディングが“BtoC特有のもの”という固定観念は、すでに崩れ始めています。

中小企業白書「第1節 ブランドの構築・維持に向けた取組」

実際には、取引先からの信頼を得るためにも、競合と差別化するためにも、自社の価値を明確に伝えるブランド戦略は不可欠です。
製品やサービスそのものの機能だけで勝負する時代ではなく、「なぜこの会社と取引したいのか」が問われる今、ブランディングは受注機会の最大化にも、長期的な関係構築にも直結します。
BtoBだからこそ、合理性と独自性を両立させたブランド設計が求められています。

製造業は今こそブランディング。成功事例と戦略を解説

「品質がすべて」。
この考え方は、今も現場に深く根付いています。そして、それは決して間違いではありません。多くの製造業がその信念をもとに、誰にも真似できないモノづくりをしてきました。
ひとつひとつ丁寧に、精度と耐久性を追求し、数えきれない製品を世に送り出してきた実績。そこには確かな誇りがあるはずです。

だからこそ、「なぜ最近、選ばれにくくなっているのか」が分からない。そんな戸惑いが生まれても不思議ではありません。

 

品質の良さが見えにくくなっている現実

以前は、「壊れにくい」「精度が高い」といった性能や品質こそが、他社との明確な差でした。
しかし現在、各業界ともに製造技術の水準が上がり、ある程度の品質まではどこでも実現できる時代になっています。だから、顧客の側から見れば、各社の製品の違いが分かりづらくなっているという現実があります。

たとえば、図面上では同じ精度でも、実際のこだわりや努力は簡単には伝わらない。これは、製造業全体が真面目に努力してきた結果でもありますが、皮肉にもその努力が“見えにくさ”を生んでしまっています。

結果として、価格だけで比較されてしまったり、「なんとなく」で他社に流れてしまったりするケースが増えてきているのです。

 

顧客が求めているのは“違い”ではなく“意味”

今の市場では、「何を作っているか」だけではなく、「なぜそれを作っているのか」が問われるようになっています。
品質やスペックだけでは響かなくなり、「この会社は、なぜこの製品を作っているのか」「この会社と取引する意味は何か」といった“背景”が重視されるようになってきたのです。

たとえば、同じような機能の製品が並んでいるとき、選ばれるのは「考え方に共感できる企業」や「信頼できるストーリーを持つ会社」です。
その企業がどんな姿勢で社会に向き合っているのか。どんな価値観を持ってモノづくりをしているのか。
そうした“見えない部分”が、購入や取引の最終的な判断基準になっているケースが増えています。

そして、これはBtoCの話だけではありません。むしろ、BtoBの製造業にこそ当てはまる重要な変化なのです。

 

製造業が陥りやすい“語り方”のギャップ

多くの製造業企業では、自社の強みを「性能」「精度」「導入実績」「技術力」といった実利で語ります。それは正しいアプローチではあるのですが、どの企業も似たような切り口になるため、差が見えづらくなってしまうのです。

聞き手(顧客)の側からすると、「すごそうだけど、他社と何が違うのか分からない」と感じることが少なくありません。

ここで、ひとつ重要な視点があります。
それは、「何を作っているか(What)」ではなく、「なぜ作っているのか(Why)」を語るという視点です。

 

ゴールデンサークル理論に学ぶ、“Why”からの発信

マーケティングの世界でよく知られているのが、サイモン・シネック氏の「ゴールデンサークル理論」です。
この理論では、以下の3つの順序で物事を伝える重要性が説かれています。

  • Why(なぜやるのか)
  • How(どうやってやるのか)
  • What(何をやっているのか)

多くの企業が「What」から語り始めますが、人の心を動かすのは「Why」です。

たとえばAppleが人々に強く支持されているのは、単に「スマートな製品を作っているから」ではありません。彼らは「私たちは常識を疑い、世界を変えるために製品をつくっている」と明確な“Why”を掲げ、それが多くの共感を呼んでいます。
その理念を実現するHowとして、「Think Different(常識を疑う、型破りな考え方)」という姿勢があり、
その結果として生まれてくるWhatが、「iPhone」「Mac」「AirPods」などの製品です。
この順番で語られているからこそ、「ただのスマートフォン」ではなく、「Appleだから欲しい」と思わせるブランドになっています。

これは製造業でも同じです。
「なぜこの技術を守り続けているのか」
「なぜこの精度にこだわるのか」
「なぜこの業界に貢献したいのか」

そうした“Why”を伝えることが、製品や会社に“意味”を与え、顧客の記憶に残るようになります。

 

成功事例:ブランディングで選ばれる製造業へ

製造業ブランディングにいち早く取り組んでいる企業の事例をご紹介します。

 

1. オカムラ(オフィス家具・店舗什器)ーーWhyの言語化により価格競争から脱却

オカムラは、製品スペックではなく「働く環境をどう豊かにするか」というコンセプトを強く打ち出すことで、オフィス家具業界の中でも独自の立ち位置を確立しました。

たとえば、「働き方の未来を支える」というビジョンを前面に出し、製品単体ではなく“空間”や“体験”で価値を語るスタイルにシフト。
その結果、単なる「高品質な椅子」ではなく、「この会社と一緒にオフィスを作りたい」と選ばれるようになっています。

オカムラ

 

2. 能作(鋳物メーカー/富山県)ーー 製品ではなく“企業の世界観”がブランドになった事例

もともとは仏具などを製造していた町工場が、自社の技術や素材の魅力を再解釈し、「錫(すず)」を活かしたデザイン商品を展開。「伝統技術と現代の暮らしの融合」というストーリーが広まり、国内外で注目されるブランドに成長しました。

工場見学やワークショップなど、体験を通じたブランド価値の浸透にも積極的。単なる製品販売ではなく、企業そのものへのファンづくりに成功しています。

能作

 

3. ダイソン(イギリス)ーーWhyがブランドそのものであり、強い価格耐性を生む事例

製造業というよりプロダクト企業という印象が強いですが、ダイソンは“なぜ”を徹底して伝える会社です。

「従来の不満をゼロにする」という創業者ジェームズ・ダイソンの哲学がブランドの核になっており、製品の独自性もそこから生まれています。
スペックではなく「理念」で売ることで、価格帯の高い商品でも選ばれるブランド地位を築いています。

ダイソン

 

4. ミスミグループ本社(FA部品・金型部品)ーーBtoBでも、ブランドが信頼の源になる好事例

同社は「精密部品の調達リードタイムをゼロにする」という目標を掲げ、部品調達の“常識”を変える挑戦をブランドにしています。

結果、納期・価格・在庫に対する信頼性がブランド価値となり、エンジニアの中で“まずミスミを見る”という習慣が生まれています。

ミスミグループ

 

今こそ、ブランディングで先手を打つチャンス

製造業では、まだまだ「ブランディングはBtoC企業がやるもの」と捉えられている傾向があります。
だからこそ、今ブランディングに本気で取り組むことで、他社より一歩も二歩も先を行ける可能性があります。

競合他社がまだ気づいていない今のタイミングで「自社の想いや価値観」を言語化し、外に発信できれば、価格だけに左右されない強い選ばれ方ができるようになります。

ブランドは、単なる見た目の話ではありません。信頼や共感といった“無形資産”を築くための基盤です。そしてそれは、一朝一夕で作れるものではありませんが、積み重ねることで確実に効いてきます。

製品ブランディング

 

ブランディングとは、想いを形にし、届ける技術

最後にもう一度確認したいのは、「ブランディング=見せ方」ではないということです。ロゴやパンフレットを整えることだけがブランディングではありません。自社の価値観や信念、こだわりといった“根っこ”の部分を明確にし、それを社員や顧客と共有し、育てていく。それが、本来のブランディングの意味です。

製造業だからこそ、モノづくりの現場にある情熱や姿勢、譲れない想いを言語化し、届けることに価値があります。それは価格やスペックでは測れない「意味」を与え、顧客との関係をより深く、強いものにしていきます。

 

品質 × ブランディングが、これからの勝ち筋

品質が重要であることは、これからも変わりません。
しかし、その良さが“伝わらない”なら、それは存在していないのと同じです。

これからの製造業には、「品質」だけでなく、「伝える力=ブランド」が必要です。
そして、まだ多くの企業がそこに本格的に取り組んでいない今だからこそ、先手を打てば競争優位を築くことができるのです。

中小企業のブランディングはなぜ難しい?よくある課題と、成功へつなげる実践ヒント

ブランドって、やっぱりあったほうがいいよね」
「デザイン会社に頼んだけど、なんだかピンとこなかった」
「うちみたいな会社がブランディングなんて、まだ早いかも…」
中小企業の経営者の方々と話していると、こうした声をよく耳にします。
ブランディングは大切だと頭ではわかっていても、いざ実行しようとすると、
・何から始めればいいかわからない
・社内で協力が得られない。
・結局、表面的なロゴやスローガンだけで終わってしまう。
そんな“モヤモヤ”や“手ごたえのなさ”を感じている方も多いのではないでしょうか。

このコラムでは、中小企業にありがちなブランディングの課題を整理し、なぜそれが起きてしまうのか、どうすれば一歩進めるのかを紐解いていきます。

 

それでも、いま中小企業こそブランディングに取り組むべき理由

「中小企業にブランディングなんて本当に必要?」
そんな疑問を持っておられる方に、答えは間違いなくYESです。実は、中小企業のほうがブランディングの成果は出やすいというのが私たちの実感です。その理由としては、

 

1. 意思決定が速く、組織の変化に強い

中小企業は意思決定のスピードが速く、経営者の言葉や方針が現場にすぐ伝わる環境にあります。だからこそ、ブランドの方向性が定まれば、組織が一丸となって動きやすいという強みがあります。

 

2. 顧客との距離が近く、信頼関係を築きやすい

中小企業の多くは、地域密着型やリピート顧客中心のビジネスです。顧客の声をダイレクトに受け取り、それをブランド改善につなげるサイクルを回しやすいのは大企業にはない利点です。

 

3. 人材定着や採用に大きな差がつく

「何のために働くのか」「どんな会社を目指すのか」を明確に伝えられる会社は、社員の定着率が高く、共感でつながる人材採用が可能になります。資金力ではなく、価値観で選ばれる時代において、中小企業こそブランディングの効果が大きく発揮されます。

 

4. 小さな成果が次の変化につながる

中小企業では、たった一つの表現の変化、営業トークの見直し、理念の言語化だけでも、組織全体に大きな影響を与えることができます。この「変化の手応え」を早く感じられるのも魅力です。

 

ブランディングとは、広告のことでも、オシャレなロゴのことでもありません。「この会社は何のために存在しているのか」「何を大切にしているのか」。その「らしさ」を社内全体で共有し、お客様に届けるための営み。上記の理由から考えても、やらない理由はないと断言できます。

中小企業白書・第1節 ブランドの構築・維持に向けた取組

 

よくある誤解と失敗:なぜブランディングがうまくいかないのか?

ブランディングに取り組もうとすると、つい「見た目」の整備から入ってしまいがちです。ロゴを刷新したり、パンフレットを一新したり。それ自体が悪いわけではありませんが、表層を整えるだけでは、本質的な効果は期待できません。

とくに中小企業の場合、下記のような誤解がブランディングの失敗を引き起こしやすくなります。
・「ブランド=ロゴやデザイン」と思い込んでいる
・広告施策と混同してしまい、短期的な反応を期待してしまう
・現場社員が「なぜこの取組をするのか」を理解していない
つまり、中身の言語化や組織浸透がないまま、「ブランディング風」の見た目だけを整えて終わってしまうのです。

 

中小企業にありがちなブランディングの課題5つ

 

1.「誰に、何を、どう伝えるか」が曖昧

多くの中小企業では、「うちは何屋か」は言えても、「誰に、どんな価値を、どう届けているか」が明確に言語化されていません。たとえば
・ウェブサイトに「お客様第一」「信頼と実績」など、どの会社でも言える言葉が並ぶ
・パンフレットや営業資料に「自社らしさ」よりも業界の一般論が多い
・ターゲットの年齢や業種、課題感が不明確なまま施策を打っている
その結果として、ユーザーに響かず、価格比較や条件比較に埋もれてしまいます。

 

2.社員に共通言語がない(理念・価値観の形骸化)

「経営理念」や「ミッション」は掲げていても、それが現場で語られることはほとんどない。そんな会社も少なくありません。
・入社時に冊子を渡されただけで、普段の会話では理念が出てこない
・「行動指針は?」と聞かれても、社員が答えられない
・上司ごとに指示や価値観が違うので、若手が混乱している
これは、「経営者と社員が見ている景色が違う」状態です。

 

3.外と中で言っていることが違う(言行不一致)

・採用サイトでは「風通しの良い職場」とうたっているが、実際はトップダウンで誰も発言しない
・営業では「ていねいなサポート」を売りにしているが、サポート部署は人手不足で電話にも出られない
・SNSでは「お客様視点」を強調しているのに、実際は納期最優先で対応が雑になっている
このように社外向けの言葉と実態が乖離していると、ブランディングは逆効果に。ブランド価値を下げてしまうブランドマイナスを引き起こすことになりかねません。

 

4.属人的な営業・採用に頼っている

・社長がカリスマ型で、営業も採用も「社長が口説いてくるスタイル」
・顧客の信頼は「◯◯さんだから頼んでいる」という属人的なもの
・マニュアルやトーン設計がなく、担当者ごとに対応のブレが大きい
こうした状態は、担当者が変わるたびに信頼がリセットされるリスクをはらんでいます。

 

5.体制がない、優先度が低い(継続できない)

・ブランディングを「プロジェクト」ではなく「イベント」として扱ってしまう
・忙しくなると、更新や発信が止まる
・「いまは営業が忙しいから」「採用が落ち着いてから」など、後回しの常連
このタイプの企業では、「一度やったから終了」という認識が強く、ブランドが育たないまま放置されがちです。
「うちも、思い当たるところがある」と感じた方は、悲観する必要はありません。課題に気づいた瞬間こそが、ブランディングの出発点です。

 

ブランディングが経営にもたらす5つの価値

 

1.価格競争からの脱却

「安さ」で勝負するのではなく、「選ばれる理由」が明確になれば、価格で比較されにくくなります。ブランドがあれば、価値を感じてもらえるため、値下げ交渉に応じる必要が減り、利益率を維持しやすくなります。

 

2.採用力の強化

理念や社風に共感する人材が集まりやすくなり、離職率も下がります。「この会社で働きたい」と感じる人が集まることで、採用のコストやミスマッチも減少。採用競争の激しい中で、ブランディングは強力な武器になります。

 

3.社員の行動に一貫性が生まれる

ブランディングが定着すると、社員一人ひとりが「うちの会社はこうあるべき」という行動指針を持てるようになります。トップの指示を待たずとも、現場での判断に一貫性が生まれ、組織としてのスピード感と柔軟性が高まります。

 

4.顧客との信頼が深まる

一貫したメッセージや対応を続けることで、「この会社は期待を裏切らない」という安心感につながります。顧客満足度やリピート率が上がり、紹介や口コミによる新規顧客の獲得にもつながります。

 

5.経営者の想いが、会社の軸になる

社長の考え方や信念が、組織のブレない軸として言語化され、社員に共有されることで、社員が「何のために働いているか」を理解しやすくなります。これは、組織の結束力や自走力を高める源になります。

 

解決のヒント:小さく始めて、確実に進める

「ブランディングは大きな投資が必要」と思われがちですが、実際には小さな気づきと実践から始めることで十分に前進できます。
たとえば、次のようなステップから始めてみましょう。

・「自社の良さ・強み」を社員同士で話し合う場を設ける(例:ランチMTG)
・ 社内報や掲示板で「らしさ」に関する発見や事例を共有する
・SNSや会社ブログで「何を大切にしているか」を、具体的なエピソードで伝える
・顧客アンケートやレビューを分析し、「どんな価値を感じてくれているか」を把握する
・ブランドの方向性を1枚のシートにまとめて、社内共有する

ポイントは、完璧を目指さず、社内の会話から「らしさ」を発見すること。まずは小さな実験を繰り返しながら、会社全体でブランドを「育てる」姿勢が大切です。
「ブランディングができる会社」ではなく、「ブランディングに取り組み続けられる会社」を目指しましょう。

 

小さなことを続けるためのヒント集

1.言葉の力を活かす

言葉は文化をつくり、価値観を共有する強力なツールです。中小企業のブランディングにおいても、社員の言動や資料、発信に繰り返し登場する共通のキーワードがあると、一貫性と共感を育てやすくなります。
たとえば、
「うちらしさ」 … 自社の個性や判断基準を柔らかく共有できる言葉。
「らしさが出てたね」 … 社員の行動をブランド視点で承認する一言。
「それ、わたしたちらしい?」 …判断の軸として使える問い。
「私たちは〇〇を大事にしています」 …価値観の宣言文として定番化。
「〇〇さんらしい対応でしたね」 …個の行動とブランドの一致を褒める表現。
「選ばれる理由」 …提案資料や営業トークで繰り返し伝えるフレーズ。

「安心感」「誠実さ」「ていねい」「挑戦」など 、自社らしさを表すキーワードを繰り返し使い込むことで、社内に定着します。
大事なのは、「うまい言葉」よりも「使い続けられる言葉」。社員の口から自然と出るようになった時、ブランディングは根付き始めています。

2.「見つける」ことから始める

社員の発言や顧客の声の中にある「らしさ」を見逃さない。気づいたらすぐにメモする習慣を。

3.記録する仕組みをつくる

「今月のブランドらしい出来事」など、共有フォルダや壁新聞に書き留める場所をつくる。

4.月1でふりかえりをする

「今月、うちらしい行動って何だった?」といった軽い問いでチームMTGを始めてみる。

5.習慣化のタイミングを決める

「毎月第1月曜の朝礼はブランディング話」といったルーティン化で無理なく定着。

6.「できていること」に目を向ける

「うちはまだまだ」と思うより、「これってうちらしいよね」と言える事実を見つけて肯定する。

「続けること」を難しくしない。「らしさ」は日常の中にある。それに気づき、拾い、積み上げていくことが、ブランディングの一歩一歩につながります。

 

はじめの一歩は、「できること」からでいい

ブランディングは、一部の先進的な企業や、大企業のためだけの戦略ではありません。
むしろ、小さな組織だからこそ、社長の言葉がまっすぐ現場に届き、社員の共感と行動変化が早く起こる。それが中小企業の強みです。

大きな投資や完璧な準備は必要ありません。まずは、「うちらしさって、なんだろう?」と問いかけてみること。
一人で答えを出す必要もありません。社員と一緒に言葉にしていくことで、社内に共通の軸が生まれ、少しずつ行動も揃ってきます。
「ブランディングが目的ではなく、会社を良くしたい、その想いを共有したい」。その気持ちさえあれば、今日から始められます。

中小企業向けブランディング手法|成功事例と実践ステップ

 

平田弘幸

執筆した人:平田弘幸

株式会社フレイバーズ代表取締役。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会・認定コンサルタント(インターナルブランディング)、ブランドマネージャー(1級)。大手電機メーカーで国内外の営業、企画を15年間経験した後、フレイバーズ設立。製造業での知見を活かし、中小企業のブランディングに強み。

1. なぜ今、中小企業にブランディングが必要なのか?

中小企業にこそ、今「ブランディング手法」が必要とされる理由は明確です。価格競争に巻き込まれ、広告では資本力のある大企業に勝てない――そんな中で選ばれるには、「なぜこの会社なのか」という理由をユーザーに示す必要があります。

製品やサービスだけで差がつきにくい時代。鍵になるのが「ブランド」です。中小企業は経営者の思いや理念を反映しやすく、意思決定も速いため、ブランドの核を定めれば一貫した発信が可能になります。

その価値観を社内に浸透させ、外部にもぶれないメッセージを発信できれば、価格競争から抜け出し、独自のブランド価値で選ばれる企業になれます。

2. よくある誤解:ブランディング=ロゴやデザインではない

よくある誤解のひとつが、「ブランディング=ロゴやデザイン」だという考えです。実際、「ブランディング手法に取り組みたい」と言いながら、まずロゴの刷新やWebサイトのリニューアルから始める経営者は少なくありません。

もちろん見た目は大事ですが、それだけでは本質に届きません。ブランディングの中核は、自社の「らしさ」を明確にし、それを社員と顧客の両方に一貫して伝えること。存在意義、価値観、顧客との関係性――それらを言語化し、日々の行動に落とし込んでこそ、ブランディング手法は機能します。

ロゴやデザインは、その「軸」を支えるツールにすぎません。土台が曖昧なまま見た目だけ整えても、顧客の心には響きません。

3. 中小企業が今すぐ取り入れるべき3つの実践的ブランディング手法

3-1. コアバリューの明文化と社内共有

ブランディング手法の第一歩は、「自社が何のために存在するのか」「どんな価値を大切にしているのか」を明確にすること、つまり“コアバリュー”の明文化です。これを曖昧にしたまま発信を始めても、他社と変わらない言葉が並ぶだけで、顧客の記憶には残りません。

重要なのは、経営者が納得できる言葉で定義すること。そして、それを社員全員に共有すること。社長だけが理解していても意味がありません。現場のスタッフ一人ひとりがその価値観を理解し、行動の軸として使えるようになってはじめて、顧客との接点に一貫性が生まれ、ブランドが育ちはじめます。

 

3-2. ブランディング手法の核心:ペルソナ設計とターゲットメッセージの明確化

「当社は幅広いお客様に対応できます」と言ってしまう企業ほど、結局は誰の心にも残りません。中小企業だからこそ、特定の顧客層に刺さる“ブランディング手法”が必要です。

そのための第一歩が、理想的な顧客像(=ペルソナ)の明確化です。年齢や職業だけでなく、「どんな悩みを持っているのか」「何を重視して選ぶのか」といった感情や価値観まで具体的に描きましょう。

そして、その人に向けて、どんな言葉で、どんなメッセージを伝えるかを決めることで、発信の軸がブレなくなります。

難しく考える必要はありません。今いるお客様の中から典型的な一人を象徴的に設定するだけでも十分です。

結果として、「これは自分のための商品・サービスだ」と感じる瞬間が増え、ブランドへの信頼が自然に積み重なっていきます。

 

3-3. 顧客体験を活かすブランディング手法:CXをブランド資産に変える

商品やサービスの品質だけでなく、問い合わせ対応や納品、アフターフォローといった“顧客体験(CX)”全体をブランディング手法に組み込むことが、いまや不可欠です。

たとえば、返答の速さ、スタッフの振る舞い、トラブル時の対応――こうした小さな接点こそが、ブランドの印象を決定づけます。一貫して「自社らしさ」を伝えられるかどうかで、顧客はリピートするか、他社に乗り換えるかを判断します。

このCXを社内で言語化し、マニュアル化して共有すれば、誰が対応してもブランド品質がブレなくなります。属人化を防ぎ、ブランディングの効果を持続・拡大するための重要な手法です。

4. 成功事例:地方の中小企業がブランディングで勝ち残ったケース

事例①:老舗の製造業が若者を惹きつけるブランドに変貌

創業70年の金属加工会社は、技術力はあるのに、価格競争に疲弊していた。社長が「職人の誇りと、モノづくりの美学」を軸にブランド再構築を決意。

製品にストーリー性を持たせ、SNSで発信。さらに若手社員を「語り部」としてメディアに登場させた結果、新卒採用が過去最多を記録し、地元紙で話題に。新規顧客も開拓できるようになり、価格ではなく「想い」で選ばれる企業へとシフトしはじめています。

 

事例②:地域密着型の工務店がリブランディングで単価アップ

低価格帯リフォームで顧客を集めていた工務店は、やはり利益が出ず経営は苦しい状態に。そこで「家族の人生に寄り添う家づくり」を掲げ、ペルソナを40代共働き夫婦に設定。

施工中のフォロー体制やアフターサポートの流れを再構築し、全社員が「家守り」という共通の意識を持つよう教育を強化。その結果、受注単価は1.8倍に。紹介顧客も増え、広告費を抑えられる結果に。

 

事例③:地場の印刷会社がBtoB特化のブランドで受注拡大

下請け中心の体質から脱却したいと考えていた中規模の印刷会社が、「中小企業の広報を支援する印刷会社」というブランドポジションを明確に打ち出しました。

販促提案やデザインディレクションも含めた「提案型営業」に切り替え、業種ごとの専用パッケージを整備。下請けからの脱却が進み、顧客単価は2.3倍に上昇。さらに、新たな次の一手を検討中。

経済産業省「ミラサポ」ブランディング事例

5. 今すぐ始めるためのステップとポイント

ステップ①:社内対話で「自社らしさ」を言語化する

ワークショップ形式で、社員から「この会社の好きなところ」「誇れる点」を集めてみましょう。経営者の視点と現場の声を重ねることで、リアルでブレないコアバリューが見えてきます。

 

ステップ②:コンタクトポイント(顧客との接点)ごとに「一貫性」があるか点検

営業・接客・WEB・SNS・アフターサポートなど、顧客とのあらゆる接点を洗い出し、「言っていることと、やっていることが一致しているか」を確認。ここにズレがあると、ブランドは育ちません。

 

ステップ③:必要に応じて外部の力を借りる

ブランディングは専門的な視点も必要です。言語化やデザイン、マーケティング戦略などは、プロの支援を受けることで、スピードも精度も上がります。一方で、経営者自身が軸を持ち続けることも最大のポイントです。

信頼の積み重ねが、すべてのブランディング手法の起点になる

選ぶ理由のあるブランドへの図ブランドとは「約束」です。そして、その約束を日々の顧客接点で守り抜くことこそが、ブランディングの核心です。

もう一つ忘れてはならないのが、すでに自社を選んでくれている顧客の存在。なぜ選ばれているのか、どんな点に共感されているのかを見直すことは、自社の「らしさ」――つまりブランドの核を掘り起こす手がかりになります。

普段あたり前にやっている行動や文化の中に、実は強力なブランディング手法のヒントが眠っています。それを言語化し、軸として定着・発信することが、信頼を積み上げ、他社と差別化されたブランドを築く最短ルートです。

まずは、今いる顧客に「自社の魅力は何か?」を聞くことから始めてみてください。

ブランディング
ブランディングに関するコラム

ブランディングの手法で、よくある質問(Q&A)

Q. ブランディングに取り組むと、売上はすぐに伸びますか?

A. 短期的な売上増よりも「選ばれる理由」を積み重ねていくなかで、価格競争に巻き込まれない受注や、リピート率の向上につながるのがブランディングの本質です。ブランディングは売れ続けるしくみをつくることと称されます。今まで培ってきた売上の土壌はすぐにできたものではないはず。長い目で考えてください。

Q. 社内の理解が薄い場合、どう進めればいいですか?

A. 小さな成功体験を共有することが効果的です。例えば「SNSで反応があった」「お客様から共感の声をもらった」といった具体例をもとに、社員の共感と行動を少しずつ引き出していきましょう。
経営者がブレないこと。その本気度を社内に常に共有すること。ことあるごとに言葉にして伝え続けることが徐々に社内からの賛同を得るための方法です。

Q. 競合が多い業界で差別化は本当に可能?

A. 可能です。「何を売るか」より「なぜ売るのか」「どう売るのか」でブランドは差別化できます。競合が価格で勝負しているなら、そこから外れた独自の土俵をつくるのがブランディングの強みです。

3C分析をブランディングに活用するときの注意点

ブランディングの議論が社内で本格化すると、最初にぶつかる壁が「どこから手をつければいいのか分からない」という状態です。そんなとき、ありがちなのがフレームワークを導入して全体像を整理しようとする動き。とくに「3C分析」や「SWOT」など、マーケティングの基本フレームは使いやすさもあって選ばれやすい傾向にあります。

なかでも使われやすいのが「3C分析」です。これは、顧客(Customer)・競合(Competitor)・自社(Company)という3つの要素をクロスさせ、ブランドの価値やポジショニングを論理的に導き出すものです。

便利で説得力があるフレームワークではあるのですが、誤った使い方をすると、かえってブランドの方向性が曖昧になってしまうことも少なくありません。そこで今回は、全社の方向性をプランニングする部門(たとえば経営企画室)の実務担当者が3C分析を実施する際に陥りがちな落とし穴と、注意すべきポイントを整理します。

平田弘幸

執筆した人:平田弘幸

株式会社フレイバーズ代表取締役。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会・認定コンサルタント(インターナルブランディング)、ブランドマネージャー(1級)。大手電機メーカーで国内外の営業、企画を15年間経験した後、フレイバーズ設立。製造業での知見を活かし、中小企業のブランディングに強み。

 

3C分析とは何か?まずは基本の理解から

3C分析は、3C(Customer、Competitor、Company)をそれぞれ分析したうえで、それらの要素を掛け合わせることで、自社が取るべき戦略やブランドの方向性を導き出す方法です。

例えば以下のような掛け合わせが基本になります:

顧客 × 自社:顧客が求めていて、自社が提供できる価値は何か

自社 × 競合:競合と比較して、自社が勝てる部分はどこか

顧客 × 競合:顧客が重視し、競合が対応しているが、自社が弱い部分は何か

このように、単純な3C分析よりも一歩踏み込み、戦略の優先順位や差別化の方向性を可視化できるのが特徴です。自社の弱い部分は、あまり時間をかけて分析しても意味はありません。むしろ時間をかけるほど、愚痴合戦のような状態になってしまいます。ブランディングは、自社の良い部分を伸ばすことで顧客に力強く訴求することが目的。競合他社と比較して足りていない部分は、思い切っていまは目をつぶっておきましょう。

ブランディングではこの分析を使って、「自社ブランドは誰に、何を、どう届けるのか」という問いへの答えを論理的に構築していきます。

 

3C分析をブランディングに活用する際にありがちな3つの誤解

便利なフレームワークには副作用もあります。とくに次のような3つの誤解は、ブランディングにおける方向性を誤らせる原因になります。

 

誤解1:「顧客視点=機能的ニーズ」だと思い込む

「顧客視点で考えよう」と言いながら、出てくる要素が「安い」「早い」「便利」ばかりでは意味がありません。それは表面的な選定理由であって、ブランドを選ぶ理由ではないからです。

ブランディングで重要なのは、顧客がどんな文脈でブランドを選び、どんな感情で関係を築いていこうとしているか、という視点です。つまり「スペック」ではなく「意味」が問われるということです。

 

誤解2:「競合=同業他社」と決めつける

競合分析というと、つい同じ製品、サービスを扱う他社に目がいきがちです。しかし実際には、顧客の選択肢は同業に限りません。

たとえば、スターバックスにとっての競合はドトールやタリーズだけではなく、コンビニコーヒー、自宅カフェ、さらには「今日はカフェに行かない」という選択肢すら競合になり得ます。

競合の定義が狭すぎると、ブランディングの差別化軸も浅くなってしまうでしょう。

 

誤解3:「自社の強み=過去の実績」だけで考える

「うちはこれが得意」「この分野は負けない」といった自社の強みを語るとき、往々にして過去の実績や現在の技術力に基づいているケースが多く見られます。

しかし、ブランドは未来志向のものです。過去の実績ではなく、これからどんな「価値観」や「ライフスタイル」を象徴していく存在なのか、それを語れなければ、ブランドとしての広がりが生まれません。

もちろん、現在の顧客が自社を選んだ理由を知ることは非常に重要なことですが、その一点だけに強みが集中してしまうとブランディングの範囲を狭めてしまうことになりかねません。

 

実務で押さえるべき4つの注意点

上記の誤解を踏まえたうえで、実際に3C分析をブランディングに活用する際の注意点を具体的に紹介します。

 

① 顧客の「無意識の選択理由」に踏み込め

顧客の選定理由には、本人が意識していない「無意識の価値判断」が数多く含まれています。たとえば、「高いけどなぜかあのブランドを選ぶ」という行動には、価格や性能では測れない「好感」や「信頼感」が影響しています。

ここに踏み込まないまま分析しても、「当たり障りのない差別化」にしかなりません。

ヒント:インタビューやユーザー観察によって、「なぜそれを選ぶのか?」「どうして他と比べて安心感があるのか?」といった問いを深堀りしましょう。

 

② 競合の再定義がブランドの輪郭を決める

競合の捉え方次第で、自社ブランドの意味づけも変わります。「モノとしての競合」ではなく、「体験としての競合」を意識することで、自社ブランドが提供すべき価値が変化します。

たとえば、高級腕時計の競合は他ブランドの時計ではなく、「自分へのご褒美」や「ステータス実感」を得られるすべての行為かもしれません。

ヒント:競合を「同じ問題を解決している他の選択肢」と定義し直してみましょう。

 

③ 自社の強みは「記号」化して語れ

ブランドの強みは、機能や技術力だけではなく、「象徴」としての役割を果たす必要があります。
たとえば「無印良品」は「シンプルな生活の象徴」、「Apple」は「革新性と美意識の象徴」として機能しています。

これらはすべて、技術や商品を超えた「記号的価値」です。

ヒント:「私たちのブランドは、顧客にとって何の象徴か?」という問いをチーム内で共有し、強みの再定義を図りましょう。

 

④ フレームワークに縛られず、「物語」を紡げ

最後に大切なのは、分析の結果をそのまま資料に貼って満足しないことです。

3C分析の目的は、単に整理することではなく、ブランドの「意味」や「物語」を構築するための出発点です。

論理で構築した戦略を、感情で語れるストーリーに翻訳するプロセスが必要です。ブランドとは、最終的には「覚えられる」「共感される」ものとして成立する必要があります。さらに、誰かにそれを伝えたくなる要素、これがめざすべきストーリーです。

 

ブランドは、差別化ではなく「意味化」されるべき

「ブランディング、3C分析」というワードで検索してください。無数のテンプレートや図解が出てきます。しかし、それらを形式的に埋めるだけでは、顧客の心には届きません。

プロジェクトメンバーの役割は、ロジックと感性を橋渡しする視点を持つことです。
そのためには、3C分析を単なる戦略設計の道具としてではなく、「ブランドの意味を考え抜くための補助線」として使う姿勢が求められます。まさに、頭にどれだけ汗をかくことができたかで、ブランディングの成功確率はグッと高くなります。

ブランドは、差別化されるのではなく「意味化」されるもの。
その意味を、顧客・競合・自社という3つのレンズを通して言語化できたとき、ブランディングは初めて本質に近づきます。

マーケティングでよく活用されるフレームワークは便利ですが、使い方を誤れば形だけの戦略に陥ります。とくにブランディングのように抽象度が高く、主観も入りやすい領域では、客観的な視点が欠かせません。だからこそ、必要に応じて専門家の知見を借りることも選択肢に入れるべきです。
外部の視点を取り入れることで、自社では当たり前になっていた価値や強みに改めて気づけることもあります。3C分析を「社内で完結させる作業」ではなく、ブランドを再発見する対話のプロセスとして活用していくことが、ブランディング成功への鍵になります。

フレイバーズでは、コーポレートブランディング、採用ブランディングなどを実施し、結果を出してきた実績があります。かんたんなご質問でも構いません。お問い合わせフォームからコンタクトしてください。

中小企業の業績を上向かせる、ブランディングの力

中小企業を対象とした景況調査の結果、値上げができている会社は業績が上向き傾向にあるとのこと(大阪府中小企業家同友会調べ)。わかってはいるものの、顧客が離れてしまうのではといった怖れも含め、値上げに踏み切ることをかんたんに決断できるものではありません。
値上げは、顧客に受け入れざるを得ないなと感じさせるだけの、他社にはない優位性やブランド力を持つ企業にのみ許されるものです。それが中小企業でも持てるのか。そこが経営者すべてが憂慮するポイントでしょう。
今回のコラムは、賃上げや原料費の高騰、燃料費の上昇などによる環境の変化を乗り切るためには、自社の優位性を振り返り、ブランド力を高めなければいけないという主旨になります。うちには目立った優位性などないから・・・と感じた方でも、大丈夫です。業績を改善させ、中長期的に胸を張って事業を進められる体制を作っていきましょう。

平田弘幸

執筆した人:平田弘幸

株式会社フレイバーズ代表取締役。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会・認定コンサルタント(インターナルブランディング)、ブランドマネージャー(1級)。大手電機メーカーで国内外の営業、企画を15年間経験した後、フレイバーズ設立。製造業での知見を活かし、中小企業のブランディングに強み。

ブランド力が価格決定権を生む

中小といえども、ブランド力がある企業は単に商品やサービスを提供するだけでなく、「この会社だから買いたい」「このブランドなら信頼できる」 という付加価値を顧客に感じさせることができます。これは、価格決定権を企業側が握ることにつながり、値上げをしても顧客が納得しやすくなる要因となります。

では、中小企業がブランド力を高め、「値上げしても選ばれる企業」になるためには、どのような取り組みを行うべきでしょうか?

 

1. 自社の強みを明確に

ブランディングの第一歩は、「自社の強みは何か?」を明確にすること。例えば、以下のような視点で考えてみましょう。

  • 技術力・専門性:他社にはない独自の技術やノウハウ
  • 品質・こだわり:素材や製造工程での工夫
  • 顧客対応:御社が顧客に提供している価値
  • 評価:顧客が他社ではなく、御社から購入している理由
  • ストーリー性:創業の背景や理念、社長・社員の想い

「うちは〇〇だから選ばれている」と言えるポイント。それがブランドの核となります。

 

2. 価格競争からの脱却:付加価値の提供

値上げが難しいのは、「価格以外の差別化ポイントが伝わっていない」からかもしれません。単なる機能やスペックではなく、「顧客にとってのメリット」 を強く打ち出すことで、価格以上の価値を感じてもらえる可能性があります。

例えば、以下のような付加価値を提供できるか検討しましょう。

  • 長期保証やアフターサービスの充実
  • 特定の業界・顧客に特化した専門性の高さ
  • 環境に配慮したエコな製品やSDGsへの取り組み
  • 地域密着型のサポートや関係性の深さ

価格だけでなく、「この会社だからお願いしたい」と感じさせる付加価値を持つことで、値上げを受け入れてもらいやすくなります。

 

3. 一貫性のあるブランドイメージに

ブランドは、一貫したメッセージとビジュアルによって形成されます。マーケティングやブランディングにおいて、最も注意しなければいけないのがこの一貫性です。もし、社内のあちこちで一貫性のないコミュニケーションが社外とやりとりされれば、それだけで発しているメッセージとのさが目につき、信頼は薄らいでしまいます。
一貫性の維持を担うのは経営者。常に社内に対して、ブランドメッセージを伝え、啓蒙していくことが必須条件です。
具体的には、企業ロゴ、Webサイト、SNS、パンフレット、メール対応から発せられるメッセージのすべてが統一されたブランドイメージを持つことです。

  • 視覚的統一:ロゴ、カラー、フォント、デザインの統一
  • メッセージの統一:「何を大切にしている会社か?」が一目で伝わる発信
  • トーン&マナーの統一:顧客対応の言葉遣いや雰囲気の一貫性
  • 社員から発するメッセージ、サービスでの一貫性

「なんとなく安定感がある」「なんとなく安心できる」と思われる企業は、ブランド力がある企業。この「なんとなく」を意図的に作り出すことが重要なのです。

 

4. 顧客との信頼関係を強化する

ブランド力の本質は、顧客との信頼関係にあります。顧客の声に耳を傾け、誠実な対応を続けることで、自然とファンが増え、口コミやリピート購入につながります。

  • 購入後のフォローを徹底する(アフターフォローの連絡やサポート)
  • 顧客の声を活かす(レビューを収集し、改善に活用)
  • リピーターを大切にする(特典やイベントで関係を強化)

「この会社の商品なら間違いない」と思われるようになれば、多少の値上げがあっても顧客は離れません。

 

5. 専門性の高さを訴求する

ブランドの信頼性を確立するために、高い専門性があることは競合他社との差別化ポイントとして重要な要素です。

専門知識や業界の最新情報を発信することによって、顧客候補に「この分野のプロフェッショナル」と認識されやすくなります。

方法は業界によって異なりますが、専門コラムやセミナー、SNSなどを使った情報提供を継続すると、少しずつ注目されるようになります。たとえば加工業、メーカーなどであれば、保有する工作機械の紹介は技術者同士の共通言語であり、その会社にどの程度のレベルがあるかよくわかる指標にもなるでしょう。

ペルソナを設定し、理想的な顧客の分析を行う

ブランディングの成功は、適切なターゲットに向けた訴求が不可欠になります。そのために重要なのが「ペルソナ設定」と「ターゲット分析」。ペルソナとは、理想的な(今まで取引しているなかで、多数を占めるモデルでも可)顧客像を具体的に描いた架空の人物モデルのことで、年齢、性別、職業、ライフスタイル、価値観(自社の事業領域に関する)などを詳細に設定します。

あえてペルソナという「個」に絞り込み、明確にすることで、顧客層のニーズや課題を深く理解し、それに沿ったマーケティング戦略を立てることができるようになります。例えば、ターゲットが忙しいビジネスパーソンであれば、自社製品やサービスを短時間で理解できるコンテンツになど、効果的なアプローチにつながります。

また、ターゲット分析を行うことによって、どの市場に強いニーズがあるのか、どのチャンネルを活用すればリーチしやすいのかも把握できます。SNSの使用傾向や購買行動データを分析し、ターゲットに合わせたメッセージを届けることで、ブランドの認知度と信頼度が向上します。

ペルソナ設定とターゲット分析を適切に行うことで、より効果的なブランディングが可能となり、競争の激しい市場でも差別化されたポジションを築くことができるのです。

ブランド力が中小企業の未来を左右する

値上げを成功させるためには、単に価格を上げるのではなく、顧客に納得感を持たせるブランド力を磨くことが不可欠。これまでお伝えしてきたことをもういちどまとめておきます。

  • 自社の強みを明確にし、付加価値を提供する
  • 一貫性のあるブランドイメージを作る
  • 顧客との信頼関係を深める

このブランディング、大企業ほど実施は容易ではありません。なぜなら、組織が大きい分社内に浸透させるのに時間と手間がかかるから。ただ、現状を考えると値上げに踏み切れているのは、ほとんどが大企業です。彼らはブランディングを意識している、いないに関わらず、これまでに蓄積してきた資産(=顧客からの信頼)があるので値上げができています。

こんどは中小企業でも価格転嫁を含めた値上げを実施するために、価格競争に巻き込まれない戦略に切り替えるために、自社の優位点を振り返ることからはじめる。ブランディングは長期的な投資です。すぐに売上が向上するわけではありませんが、中長期的な視点、つまり自社を継続させようと考えた場合に非常に重要な取り組みになります。少し取り組んで効果が現れないからといって、やめてしまったり、路線を変更してしまったりすることは厳禁です。つねに訴求に一貫性を保ちながら、少しずつ大きな負担にならないような取り組みを積み上げていくイメージを心がけてください。

優位点の見つけ方、ブランディングの進め方については、社内だけで進めるのは自社を知りすぎているために、難しいことがあります。あえて業界に詳しくない外部の目を入れることが課題解決の近道になりますので、お気軽にご相談いただければ、アドバイスをさしあげます。

ブランディングについて

ブランディングの進め方:社長が押さえるべき7つのポイント

社長は孤独だが・・・

「インナーブランディングで、うまく進めるコツはありますか?」初回のミーティング時に、社長様からよく質問されます。
ブランディングでは各部門から選ばれた社員たちが集まって、さまざまなフレームワークに取り組み、議論をかさねていくのですが、新たな取り組みだけに不安に思われるようです。

その時にかならずお伝えするのが、社長ご自身が気をつけてくださいね、というポイント。どうしても気合いが入ってしまうのは仕方がないのですが、「ここは、ぐっと堪えてください」と言いたくなる場面が実はよくあります。
今回は、そんな一生懸命な社長にむけて、ブランディングの進め方で気をつけたいポイントをご紹介したいと思います。


 

社長がブランディングで注意すべき7つのポイント


 

1.社長や管理職は黒子に徹する:若手が主役のプロジェクトに

ブランディングのプロジェクトメンバーは、基本的には社員中心で構成することをおすすめしています。
年齢層はさまざまでよいと思いますが、できれば若手メンバーを中心に。入社3~4年以上で、自社や業界についても理解している人たち。
社長や管理職の方々がメンバーに入ることも多いのですが、その際は、できるだけ先輩方は盛り上げ役に徹していただくようお願いしています。

なぜなら、まじめな若手社員たちは日頃から上司や社長の意向を気にする場面が多いはず。「今回は好きなように発言していいよ」と言われても、すぐに切り替えるのは難しいものです。
何か意見をいう時に「自分の意見が合っているかどうか?」と気になってしまう人も多いのですが、ブランディングに「正解」はありません。自由に意見を言える空気づくりこそが、最も大事な土台です。

また、プロジェクトメンバーを選ぶ基準で、年齢よりも大切なのは、前向きな姿勢のひと。
ブランディングの活動とは、自社ならではの強みを再認識して、それを核に会社をさらに良くしていくこと。プロジェクトメンバーはその原動力になる人たちですから、グチっぽかったり斜に構えるタイプが入っていると議論が前へ進みにくくなります。


 

2.話したい気持ちを抑えて、まずは社員の声を引き出す

自社への強い想いを持っているのは、間違いなく社長です。社員に伝えたいことも山ほどあるでしょう。でも、**ブランディングの場は“語る場”ではなく、“引き出す場”**です。

まずは、じっくり聞いてください。ファシリテーターが「お客様がうちの商品を買ってくれる理由は?」と投げかけたとき、社員が戸惑っていても、すぐに答えを与えるのではなく、小さなヒントで促してみましょう。

たとえばこんなふうに:

「A社の◯◯さんって、最近どんなこと言ってた?」
「うちの商品って、競合より高いのに、どうして選ばれてるんやろうね?」

社員同士が「そういえば…」と会話を始める中で、本音や気づきが少しずつ出てきます。アイデアの扉が開くのは、強制ではなく共感からです。

ただし、注意点もあります。
ヒントは出しても、答えを“誘導”してはいけません。
たとえ言葉に出さなくても、「あれを言え」と言いたげな顔をしていれば、もうアウト(笑)。


 

3.意見を引き出す最大の武器は「承認」と「称賛」

ブランディング・ワークでの絶対ルールがあります。

・他人の発言を否定しない
・意見を言った人には拍手で返す
・メンバーはフラットな関係(あだ名で呼び合うなど)

これは社長だけでなく、参加者全員に求められるスタンスです。

そのうえで、社長にはぜひ“わかりやすく”ほめてほしいのです。少しオーバーなくらいがちょうどいい。

たとえば:
「なるほどね、それは私も気づかなかった」
「さすが◯◯さん。うちの営業は彼で持ってるんですよ(笑)」

え?その彼は営業トップじゃない?
大丈夫。次の人にも、同じセリフで重ねてください。笑いと称賛は、場の空気を明るくします。

関西エリアの方なら、むしろ得意かもしれませんね(笑)。


 

4.決して急がない

正直にお伝えすると、ワークを始めたばかりの段階ではそれほど盛り上がりません。だれもが自分自身について考えることが難しいように、自分の会社についても魅力や評価ポイントを考えるのは難しいことです(日本人は控えめな性格なのでその傾向が強いようです)。
また、ときには、プロジェクトの中盤まで進んだけれど、納得いかないので前のステップに後戻りして考えよう、という場合もあります。

それでも、どうか根気よく待ってください。
社長という立場の方は、先々を見据えて、考えながら走るという方が大半ですので、自分のスピード感とはまったく合わない・・・と落胆したくなる場面も出てきます。
しかしながら、答えを出すのは社長ではなく、コンサルタントでもなく、プロジェクトメンバーの社員たちです。多少の時間がかかっても、メンバー自身が悩みつつ答えを導き出すことに大きな意味があると理解してください。


 

5.関心を示す

逆に、放ったらかしというのも良くありません。社員たちは、日々の仕事に追われながらも必死で取り組んでいるのですから、ときどき励ましたり、労いの言葉も必要です。

ブランディング・ワークの実施は、約1ヵ月に1回程度の頻度で行うので、その後で振り返りミーティングを行ったり、宿題が出たときはたまに一緒に参加してみるなど。
「私たち、社長から期待されてるんだ」とメンバーが感じることは、プロジェクトが盛り上がっていく理由のひとつになります。

そのうちに間違いなく、メンバーの方々の目の輝きが変わる瞬間があります。
その発見は、私たちファシリテーターにとっても非常にうれしい瞬間なのですが、深く関わっておられる社長にとってはさぞ感慨深いことと想像します。


 

6.いつも味方でいる

ブランディング8つのステップのうち、中盤で行うブランドアイデンティティやブランドビジョンの設定。それが決まった段階で、プロジェクトメンバーが全社にむけてお披露目する機会をむかえます。

メンバーにとっては大きなハードルとなるはず。社内全体にむけて、自分たちが発表しなくてはならない。それだけでなく、質問やツッコミがはいっても、答えなければならない。同じ会社なので極端な反対意見はでないとしても、さまざまな相手を説得するのはなかなか難しいはずです。

基本的には、社内プレゼンも質疑応答も、プロジェクトメンバーに任せるべきですが、ここぞという時には社長の援護射撃をお願いします。
ブランディングに関して、社長はいつも自分たちとともにいてくれる、応援してくれているという感覚は、メンバーたちの行動や成長を後押ししてくれるはずです。


 

7.提案を実現する

ブランディングを進めるなかで、メンバーのなかにさまざまな気づきが生まれます。
「うちの会社は、技術開発がいちばんの売りなのに訴求できていない。新規顧客の工場訪問をはじめたい」
「誠実・安心が強みなのに、窓ガラスにヒビが入ったまま。新しいものに替えたい」など。

チームから提案されたら、以下の質問をしたうえで、必要と判断できたらできるだけ実現をお願いします。
・ブランドアイデンティティ、ブランドビジョンがベースにあるか
・そのアイデアを実現することで、どんな効果が期待できるか

もちろん、事業計画や予算などとの兼ね合いもありますが、まずは小さなことから始めてみる。プロジェクトがまだ途中であっても、ブランディングの成果としてアクションをおこすことが大事。社内全体へのアピールにもなります。


 

ブランディングの進め方Q&A


 

プロジェクトメンバーは何人くらいが適当?どうやって選ぶ?

ワークを行う人数に制限があるわけではありませんが、6~7人までが適切です。あまり人数が多くなると、意見がまとまりにくかったり、そのなかでも対立チームができてしまうのは好ましくありません。

メンバー選択は、上記でもご紹介したように、前向きな性格が絶対条件。キャラクターはいろいろあってよいと思いますが、発言力のありすぎる人、社内での影響力が強い人は避けてもらいましょう。物静かなタイプでも冷静に考えられる人、業務経験が浅くても広い視野で物が見られる人は向いています。


 

ブランディングの8ステップとは?

取り組みのステップとして、マーケティングのフレームワークを利用しながら、段階的に進めていきます。

1.環境分析による市場機会の発見(PEST分析、3C分析)
2.市場細分化(セグメンテーション)
3.見込み客の選定(ターゲティング、連想マップ)
4.独自性の発見(ポジショニング)
5.ブランドアイデンティティ(ブランドアイデンティティ、ブランドプロミス、ブランドビジョン、ブランドパーソナリティ)
6.具体化(4P/4C分析)
7.刺激の設計(ブランド要素/ブランド体験、推奨規定、禁止規定)
8.目標設定
その他にも、必要に応じて、異なるワークを組み込む場合もあります。


 

どのくらいの期間が必要?

ブランディング8ステップのうち、ステップ5のブランドアイデンティティ策定までで約半年は必要です。そこから具体的な目標設定の段階に入りますが、その内容や進め方によって異なります。
目標設定ができたところで一段落となりますが、そこからの運用が本番。小さな取り組みから実施していくので、何らかの変化がおこってきますが、事業計画レベルで結果が現れるには数年単位と考えておくべきでしょう。