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製造業のブランディング手法、今日から始める5ステップ

「品質には自信がある。でも最近、他社と何が違うのかと言われることが増えてきた」こんな声を、製造業の経営者の方からよく耳にします。
技術力には誇りがある。長年お客様に信頼されてきた自負もある。それでも、価格競争に巻き込まれたり、選ばれる理由をうまく伝えられなかったりして、もどかしさを感じている方も多いのではないでしょうか。

その原因のひとつが、「自社らしさを伝える力=ブランディング」の不足だと思われます。
「BtoC企業でもないのに、ブランディングと言われても・・・」そう思われるかもしれません。しかし、製造業には、そもそもブランドの“核”となる価値がすでに備わっています。
必要なのは、それを“見える形”にし、伝える方法を少し変えることです。今回は、未経験の方でも取り組めるように、実践的なブランディングのステップをご紹介します。

本記事で分かること

製造業にとって、ブランディングは難しく聞こえるかもしれません。でも今、品質や技術だけでは選ばれにくくなっています。この記事では、自社の“想い”を伝わる形に変え、ブランドとして育てていくための5つのステップを、実践しやすい方法でわかりやすく解説します。

 

ブランディングとは「表面的な装飾」ではない

まず大前提として、ブランディングとは「かっこいいロゴを作ること」でも「SNSでバズること」でもありません。最近は、ブランディングを広告戦略の一つのように扱われている傾向がありますが、それは大きな誤解です。
ブランディングとは、“あなたの会社がなぜこの仕事をしているのか。何を大切にしているか”を、社内にも、社外にも、ちゃんと伝わるように言語化し、訴求していくことです。製造業にとってのブランディングとは、「想いと技術を、価値として“伝える技術”」です。

では、そうした“想いを伝える力”を、どうやって社内に築き、外へ伝えていけばよいのでしょうか。
実際に取り組もうとすると、「どこから手をつけていいか分からない」と感じる方も多いはずです。
そこでここからは、未経験でも着実に進められる、製造業のためのブランディング実践ステップをご紹介します。

 

製造業のためのブランディング実践5ステップ

STEP 1:Why(なぜ)を言語化する

ブランディングを進めるなかで、大切にしたい「ゴールデンサークル理論」というフレームをご存知でしょうか。これは、“Why(なぜやるのか)→ How(どうやるのか)→ What(何をやっているのか)”の順で伝えると、人の共感を得やすくなるというもの。一般的には「What=製品・サービスの説明」から話しがちですが、それだけでは他社と差別化されにくくなっています。
たとえば、「自社の強みは何ですか?」と聞かれたら、多くの製造業は「高精度」「短納期対応」「コスト競争力」と答えるでしょう。しかし、それはWhatやHowにすぎません。
本当に顧客の心に届くのは、「なぜその製品を作っているのか?なぜその技術を守っているのか?」という想い=「Why」です。それは創業者の想いであったり、地域との関係性、守りたい文化、届けたい未来など、表には出していなかった「根っこ」のようなもの。製造業を営むなかで、会社がずっと大切にしてきた想いを掘り起こすことで、それは必ず見つかります。

進め方のヒント
・創業ストーリーを振り返る
・「なぜこの製品を作っているのか?」と社員に聞いてみる
・「うちの技術が社会にどう役立っているのか」を一言で言うと?
・経営者・幹部で「うちが本当に大切にしていること」を3つ挙げてみる
・創業者や先代の言葉・信条にヒントがあることも多い
ポイントとしては、「かっこいい言葉」を考えるより、「正直な気持ち」を見つけるほうが伝わりやすくなります。

 

STEP 2:顧客像を再定義する

ブランディングを進めるうえで次に大切なのは、ターゲットを明確にするということ。「誰に何を届けたいのか」が明確になると、伝えたいメッセージもより具体的になってきます。
たとえば、「業界問わず対応可能」ではなく、「品質を重視し、安定調達を望む医療機器メーカーの開発担当者」など、顔が浮かぶレベルで具体化することが大切です。ターゲットを絞るほど、ブランドの言葉は強く・明確になります。

進め方のヒント
・過去3年で一番満足してくれた顧客を3社ピックアップ
・「どんな課題を抱えていて」「なぜ当社を選んだのか」を書き出す
・「この人のために商品を届けたい」と思える顧客像を言葉にしてみる
・顧客インタビューを実施し、価値を感じたポイントを把握する

 

STEP 3:強みの“見せ方”を整える

製造業には、現場に根ざした本物の強みがあります。ただ、それが「見える形」になっていなければ、外部の人には伝わりません。

たとえば、ウェブサイトや会社案内で「柔軟な対応」「豊富な実績」「確かな技術」といった表現を並べても、他社と似た印象になることがよくあります。
本当に伝えるべきなのは、“なぜそれを実現できているのか”という背景や考え方です。

進め方のヒント

1.言葉の見直し
「何をしているか」ではなく、「どんな想いでやっているか」を一文で表す。
✕「樹脂加工の専門メーカー」
○「開発者の“あと一歩”に応える、精密樹脂加工の専門家」

2.表現の再構成
・製品紹介ページに「開発の裏側」や「困難をどう乗り越えたか」を加える
・会社案内に「選ばれる理由」や「お客様の声」を挿入して信頼感を補強

3.情報の見せ方
・トップページや営業資料の冒頭に「どんな価値を提供する会社か」を一言で書く
・設備や数字より、働いている人の姿や想いを写真や言葉で伝える

 

STEP 4:共感を生むストーリーを語る

ブランディングにおけるストーリーとは「感情が動く背景」のこと。自慢話ではなく、挑戦・失敗・改善・信念といったリアルなエピソードの中に共感は宿ります。
たとえば、「若手社員が初めてリードしたプロジェクトで納期遅延寸前だったが、ベテランの支えで乗り切った話」「昔からの取引先に“御社の姿勢が好き”と言われたエピソード」など、そんな“人間味”こそがブランドになります。

進め方のヒント
・これまでで一番苦労したプロジェクトと、その乗り越え方を書き出してみる
・現場のスタッフに「印象に残っている仕事」を聞いてみる
・「最初の失敗」「顧客との忘れられないやりとり」などを1枚の紙に書く
・自社の強みが伝わる“実話エピソード”を3つピックアップする
ポイントとしては、きれいな話より人間味のある話の方が、人の記憶に残るものです。

 

STEP 5:ブランドを社内に浸透させる

ブランドのメッセージが明確になってきた。社外に対しての見せ方も分かった。でも、本当に大切なのは、ここからです。ブランド価値を守り育てていくためには、全社的な共感と協力が不可欠です。「経営者だけが分かっている状態」ではなく、社員一人ひとりが「うちの会社はこういう考えで動いている」と自然に語れるようになったとき、はじめてブランドは“会社全体の力”になります。

ある製造業では、社員向けに「うちの技術のすごさを語るプレゼン大会」を開催したことで、営業・設計・製造の間に一体感が生まれました。その結果、営業担当が顧客に語る言葉にも自信と説得力が生まれたそうです。
社内で浸透させる時に気をつけたいのは、「ブランド浸透=研修」ではないこと。日常の会話や現場の言葉に落とし込むことがカギとなります。

進め方のヒント
・朝礼や社内ミーティングで「なぜこの事業をやっているか」を話してみる
・社内共有スライドやポスターに“Why”や“ビジョン”を載せてみる
・社員同士で「うちの会社の魅力って何?」を話し合う機会をつくる
・若手社員に「この会社に入って感じたこと」を発表してもらう
トップダウンではなく“共通言語化”を目指すことがカギです。

 

製造業こそ、想いを“伝える技術”を持つべき

モノづくりの現場には、語るべき価値や想いがすでにあります。ただ、それが“伝わる形”になっていないだけかもしれません。
品質や技術に誇りを持ってきた製造業だからこそ、これからはその姿勢や価値観を、言葉として届ける力が求められます。
無理に飾る必要はありません。ありのままの想いを、少しずつでも外に見せていくこと。それが、価格ではなく“共感”で選ばれるブランドへの第一歩となるはずです。
ただ、言葉にすることや、社内に浸透させることは、実際に取り組んでみると意外と難しいもの。だからこそ、できるところから少しずつ始めてみるのが良いかもしれません。
また、外部の視点があるとスムーズに進む場面もあるため、必要に応じて相談できる選択肢を持っておくのも一つの方法です。

 

よくあるご質問(Q&A)

Q1. 製造業にとって、本当にブランディングは必要なのでしょうか?

A. はい、むしろ製造業こそ必要です。
品質や性能での差別化が難しくなってきた今、「なぜその製品を作るのか」「どんな姿勢で仕事をしているのか」といった企業の“姿勢”が選ばれる理由になってきています。
まじめにものづくりを続けてきた企業ほど、ブランディングの核となる“伝える価値”をすでに持っています。

 

Q2. ブランディングというと、デザインや広告の話でしょうか?

A. 一部そうした要素も含みますが、本質はそこではありません。
ブランディングとは、「自社がどんな想いで事業をしているのか」「誰にどんな価値を届けたいのか」を明確にし、それを社内外に一貫して伝える活動です。
デザインは“表現の手段”にすぎず、核は「企業の言葉・哲学・方向性」にあります。

 

Q3. 社長や上層部の想いはあるけど、言葉にするのが難しいです。

A.経営者の方は、日々の経営判断や現場対応で多忙な中で、“当たり前にやっていること”の価値に気づきにくくなるのは当然のことだと思います。自分自身のことが一番分からないと言われるのと同様に、自社について改めて考えるというのはなかなか難しい作業でもありますが、少しずつ続けていくうちに楽しみにもなっていくはずです。
私たちはヒアリングを通して、その“当たり前”の中から言語化できる本質を一緒に見つけ出すサポートをしています。

 

Q4. 中小規模の製造業でも、ブランディングは効果がありますか?

A. むしろ中小企業こそ、大手と違う“理由”で選ばれる必要があります。
地域密着、少量対応、職人の技、スピード感、誠実な対応、そうした強みをブランディングによって明確に伝えることで、価格以外で選ばれる会社になることができます。

 

Q5. まず何から始めればいいですか?

A. 最初のステップは、「自社のWhy(なぜ)」を考えてみることです。
創業の背景、譲れない価値観、こだわりを一度言葉にしてみてください。それがすべての出発点です。
もし整理が難しいと感じたら、ぜひご相談ください。第三者が入ることで見えることもたくさんあります。

 

ご相談・ご質問はこちらから

ブランディングに関心はあるけれど、
「どこから始めたらいいのか分からない」
「うちの会社でもできるのか不安」
そんなときは、お気軽にご相談ください。
私たちは、製造業の現場と価値を深く理解し、経営者の“想い”をかたちにするプロフェッショナルです。
まずはオンライン面談や簡単なヒアリングだけでも構いません。お問い合わせフォームより、いつでもご連絡いただけます。

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製造業は今こそブランディング。成功事例と戦略を解説

「品質がすべて」。
この考え方は、今も現場に深く根付いています。そして、それは決して間違いではありません。多くの製造業がその信念をもとに、誰にも真似できないモノづくりをしてきました。
ひとつひとつ丁寧に、精度と耐久性を追求し、数えきれない製品を世に送り出してきた実績。そこには確かな誇りがあるはずです。

だからこそ、「なぜ最近、選ばれにくくなっているのか」が分からない。そんな戸惑いが生まれても不思議ではありません。

 

品質の良さが見えにくくなっている現実

以前は、「壊れにくい」「精度が高い」といった性能や品質こそが、他社との明確な差でした。
しかし現在、各業界ともに製造技術の水準が上がり、ある程度の品質まではどこでも実現できる時代になっています。だから、顧客の側から見れば、各社の製品の違いが分かりづらくなっているという現実があります。

たとえば、図面上では同じ精度でも、実際のこだわりや努力は簡単には伝わらない。これは、製造業全体が真面目に努力してきた結果でもありますが、皮肉にもその努力が“見えにくさ”を生んでしまっています。

結果として、価格だけで比較されてしまったり、「なんとなく」で他社に流れてしまったりするケースが増えてきているのです。

 

顧客が求めているのは“違い”ではなく“意味”

今の市場では、「何を作っているか」だけではなく、「なぜそれを作っているのか」が問われるようになっています。
品質やスペックだけでは響かなくなり、「この会社は、なぜこの製品を作っているのか」「この会社と取引する意味は何か」といった“背景”が重視されるようになってきたのです。

たとえば、同じような機能の製品が並んでいるとき、選ばれるのは「考え方に共感できる企業」や「信頼できるストーリーを持つ会社」です。
その企業がどんな姿勢で社会に向き合っているのか。どんな価値観を持ってモノづくりをしているのか。
そうした“見えない部分”が、購入や取引の最終的な判断基準になっているケースが増えています。

そして、これはBtoCの話だけではありません。むしろ、BtoBの製造業にこそ当てはまる重要な変化なのです。

 

製造業が陥りやすい“語り方”のギャップ

多くの製造業企業では、自社の強みを「性能」「精度」「導入実績」「技術力」といった実利で語ります。それは正しいアプローチではあるのですが、どの企業も似たような切り口になるため、差が見えづらくなってしまうのです。

聞き手(顧客)の側からすると、「すごそうだけど、他社と何が違うのか分からない」と感じることが少なくありません。

ここで、ひとつ重要な視点があります。
それは、「何を作っているか(What)」ではなく、「なぜ作っているのか(Why)」を語るという視点です。

 

ゴールデンサークル理論に学ぶ、“Why”からの発信

マーケティングの世界でよく知られているのが、サイモン・シネック氏の「ゴールデンサークル理論」です。
この理論では、以下の3つの順序で物事を伝える重要性が説かれています。

  • Why(なぜやるのか)
  • How(どうやってやるのか)
  • What(何をやっているのか)

多くの企業が「What」から語り始めますが、人の心を動かすのは「Why」です。

たとえばAppleが人々に強く支持されているのは、単に「スマートな製品を作っているから」ではありません。彼らは「私たちは常識を疑い、世界を変えるために製品をつくっている」と明確な“Why”を掲げ、それが多くの共感を呼んでいます。
その理念を実現するHowとして、「Think Different(常識を疑う、型破りな考え方)」という姿勢があり、
その結果として生まれてくるWhatが、「iPhone」「Mac」「AirPods」などの製品です。
この順番で語られているからこそ、「ただのスマートフォン」ではなく、「Appleだから欲しい」と思わせるブランドになっています。

これは製造業でも同じです。
「なぜこの技術を守り続けているのか」
「なぜこの精度にこだわるのか」
「なぜこの業界に貢献したいのか」

そうした“Why”を伝えることが、製品や会社に“意味”を与え、顧客の記憶に残るようになります。

 

成功事例:ブランディングで選ばれる製造業へ

製造業ブランディングにいち早く取り組んでいる企業の事例をご紹介します。

 

1. オカムラ(オフィス家具・店舗什器)ーーWhyの言語化により価格競争から脱却

オカムラは、製品スペックではなく「働く環境をどう豊かにするか」というコンセプトを強く打ち出すことで、オフィス家具業界の中でも独自の立ち位置を確立しました。

たとえば、「働き方の未来を支える」というビジョンを前面に出し、製品単体ではなく“空間”や“体験”で価値を語るスタイルにシフト。
その結果、単なる「高品質な椅子」ではなく、「この会社と一緒にオフィスを作りたい」と選ばれるようになっています。

オカムラ

 

2. 能作(鋳物メーカー/富山県)ーー 製品ではなく“企業の世界観”がブランドになった事例

もともとは仏具などを製造していた町工場が、自社の技術や素材の魅力を再解釈し、「錫(すず)」を活かしたデザイン商品を展開。「伝統技術と現代の暮らしの融合」というストーリーが広まり、国内外で注目されるブランドに成長しました。

工場見学やワークショップなど、体験を通じたブランド価値の浸透にも積極的。単なる製品販売ではなく、企業そのものへのファンづくりに成功しています。

能作

 

3. ダイソン(イギリス)ーーWhyがブランドそのものであり、強い価格耐性を生む事例

製造業というよりプロダクト企業という印象が強いですが、ダイソンは“なぜ”を徹底して伝える会社です。

「従来の不満をゼロにする」という創業者ジェームズ・ダイソンの哲学がブランドの核になっており、製品の独自性もそこから生まれています。
スペックではなく「理念」で売ることで、価格帯の高い商品でも選ばれるブランド地位を築いています。

ダイソン

 

4. ミスミグループ本社(FA部品・金型部品)ーーBtoBでも、ブランドが信頼の源になる好事例

同社は「精密部品の調達リードタイムをゼロにする」という目標を掲げ、部品調達の“常識”を変える挑戦をブランドにしています。

結果、納期・価格・在庫に対する信頼性がブランド価値となり、エンジニアの中で“まずミスミを見る”という習慣が生まれています。

ミスミグループ

 

今こそ、ブランディングで先手を打つチャンス

製造業では、まだまだ「ブランディングはBtoC企業がやるもの」と捉えられている傾向があります。
だからこそ、今ブランディングに本気で取り組むことで、他社より一歩も二歩も先を行ける可能性があります。

競合他社がまだ気づいていない今のタイミングで「自社の想いや価値観」を言語化し、外に発信できれば、価格だけに左右されない強い選ばれ方ができるようになります。

ブランドは、単なる見た目の話ではありません。信頼や共感といった“無形資産”を築くための基盤です。そしてそれは、一朝一夕で作れるものではありませんが、積み重ねることで確実に効いてきます。

製品ブランディング

 

ブランディングとは、想いを形にし、届ける技術

最後にもう一度確認したいのは、「ブランディング=見せ方」ではないということです。ロゴやパンフレットを整えることだけがブランディングではありません。自社の価値観や信念、こだわりといった“根っこ”の部分を明確にし、それを社員や顧客と共有し、育てていく。それが、本来のブランディングの意味です。

製造業だからこそ、モノづくりの現場にある情熱や姿勢、譲れない想いを言語化し、届けることに価値があります。それは価格やスペックでは測れない「意味」を与え、顧客との関係をより深く、強いものにしていきます。

 

品質 × ブランディングが、これからの勝ち筋

品質が重要であることは、これからも変わりません。
しかし、その良さが“伝わらない”なら、それは存在していないのと同じです。

これからの製造業には、「品質」だけでなく、「伝える力=ブランド」が必要です。
そして、まだ多くの企業がそこに本格的に取り組んでいない今だからこそ、先手を打てば競争優位を築くことができるのです。