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中小企業のブランディングはSWOT分析から

なぜ中小企業のブランディングにSWOT分析が効くのか

「ブランディング」という言葉を聞くと、多くの中小企業経営者の頭に浮かぶのは大企業の広告キャンペーンや華やかなマーケティング活動かもしれません。テレビCMや有名人を起用したプロモーション、潤沢な広告予算。そんなものは自社には縁がない、と感じてしまいますよね。

私たちが取り組むべきは、派手な広告キャンペーン(アウターブランディング)ではなく、インナーブランディング。それはもっと身近で、もっとシンプルなものであり、社内から自社がお客様から支持されている理由を強化しようというもの。大切なのは「自社の強みをきちんと理解し、それを一貫して顧客に伝えること」。その積み重ねがブランドを形づくっていくのです。

インナーブランディングで必須な社内の振り返りに有効なのがSWOT分析です。経営戦略のフレームワークとして知られていますが、中小企業にとっては「うちにもこんなにいいところがあるじゃん!」と再確認できるツールに。本記事では、SWOT分析をブランディングの観点からどう活用すべきか、そして「やりっぱなしにせず強みを磨き続ける仕組み」に仕上げるまでを解説します。

平田弘幸

執筆した人:平田弘幸

株式会社フレイバーズ代表取締役。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会・認定コンサルタント(インターナルブランディング)、ブランドマネージャー(1級)。大手電機メーカーで国内外の営業、企画を15年間経験した後、フレイバーズ設立。製造業での知見を活かし、中小企業のブランディングに強み。


本記事で分かること

本記事では、中堅・中小企業がブランディングを進めるうえで有効な「SWOT分析」の活用法を解説します。弱みに時間を割かず、強みを徹底的に掘り下げて自社らしいブランドストーリーへつなげる方法を紹介。さらに商店街活性化の公的事例も交え、強みを磨き続ける仕組み化や進捗チェックの重要性まで学べます。

SWOT分析とは?ブランディング視点での読み替え

まずは基本を押さえます。SWOT分析は、企業や組織の状況をStrength(強み)・Weakness(弱み)・Opportunity(機会)・Threat(脅威)の4つの視点から整理する手法です。

 

1. Strength(強み)

  • 他社にない自社の独自価値
  • 顧客から高く評価されている部分
  • 「選ばれる理由」につながる要素

→ ブランディングにおいてはブランドの核。しっかり時間をかけて掘り下げます。

 

2. Weakness(弱み)

  • 認知度の低さ
  • 商品、サービスの仕様
  • 人材・資金の制約
  • 発信や販路拡大の苦手さ

→ ただし、現状を認識するだけにとどめることが大切。弱みを直そうとするのではなく、「強みに集中するために何をやらないか」を確認する程度に扱います。

 

3. Opportunity(機会)

  • 消費者ニーズの変化
  • 新しい市場トレンド
  • 技術や制度の変化によるチャンス

→ 強みを掛け合わせることで大きな成果につながります。

 

4. Threat(脅威)

  • 大手企業の参入
  • 法規制や景気変動
  • 市場の価格競争
  • 予期せぬ事態の発生

→ 脅威そのものを完全に取り除くのは難しいところですが、強みで相対化できるかを確認しておけば十分です。

SWOT分析とあわせて活用すると効果的なのが「3C分析」。市場・競合・自社を整理することで、自社の強みをより立体的に把握できます。

3C分析で自社の立ち位置を見直す方法

SWOT分析では弱みに時間をかけない:「愚痴大会」からの脱却

中小企業でSWOT分析を行うと、往々にして弱みの部分で議論が長引きます。
「発信が苦手」「人手不足」「大手に比べて見劣りする」……。
これらを延々と話し合っても、ただの愚痴大会になってしまい、なんら生産的な議論にはならず。前向きなブランド戦略にはつながりません。

そこで重要なのが、弱みの洗い出しは「現状認識にとどめる」というルール。
弱みを直したところで、努力した結果は平均点になる程度。逆にリソースが分散するだけに終わってしまいます。かえってブランドの個性が失われる危険さえも。

むしろ、弱みは「やらないことリスト」として整理しておく方が健全です。
「SNS発信は得意じゃないけれど、地域の信頼関係をたいせつにしよう」
「価格競争は避けて、技術力に特化しよう」
このように強みを磨く方向へ舵を切ることが、ブランドを尖らせる道なのです。

強みを徹底的に掘り下げてブランドストーリーにする

ブランディングにおけるSWOT分析の主役は、やはり Strength(強み)。ここを徹底的に掘り下げることで、ブランドの核が見えてきます。

 

強みの例(中小企業にありがちなもの)

  • 地域密着で長年築いてきた信頼
  • 職人技術や専門的なノウハウ
  • 顧客と近い距離で対応できる柔軟さ
  • 社長や社員の人柄、誠実な対応

こうした強みは、普段は当たり前すぎて見過ごされがちですが、顧客から見れば「だからこの会社を選んでいる」という大切な理由です。これを言語化し、ブランドストーリーとして発信することが肝要です。

ただし、上記の例は漠然とし過ぎていて、隣の会社でも通用してしまう可能性は否めません。強みを抽出する際は、必ず具体的なエピソードを起点に、自社ならではの内容に落とし込むことを目指してください

 

製造業の町工場

  • 「創業当時から30年以上、同じ取引先の精密機器メーカーに部品を納入し続けている。リピート率は100%」
    → 単なる“技術力が高い”ではなく、「30年途切れず取引が続いている信頼関係」というエピソードが強みになる。

 

地域密着の工務店

  • 「大雨で被害が出たとき、夜中に社員総出で地域の顧客宅を回り応急対応を行った。その対応が口コミで広がり、紹介案件が増えた」
    → 「地域密着」ではなく「非常時に顧客を守る行動力」というエピソードがブランドの核。

 

飲食業(小規模レストラン)

  • 「地元の農家から直接仕入れた野菜を毎朝SNSに投稿。農家の名前まで出すことで、『食材の顔が見える安心感』がファン化につながった」
    → 「地産地消」ではなく「仕入れストーリーを可視化したことでリピーターが増えた」という具体性。

 

BtoBサービス業

  • 「競合他社は2週間かかる見積りを、社内フローを工夫して最短3日で提出。それが「対応が早い会社」という口コミになり、紹介で案件が広がった」
    → 「スピード感がある」ではなく「見積りリードタイムを3日で実現」という具体性。

ケーススタディ:地域密着工務店の場合

実際のSWOTの使い方をイメージしてみましょう。

  • S(強み):地域顧客との信頼関係、アフターフォローの丁寧さ
  • W(弱み):SNS発信が弱い(現状認識のみ)
  • O(機会):リフォーム需要の高まり、DIYブーム
  • T(脅威):大手ハウスメーカーの低価格戦略

ここから導かれるブランドメッセージは、「顔が見える安心感」「地域と共に育つ家づくり」。大手には真似できない強みを中心に据えることで、ブランドの差別化が可能になります。

ケーススタディ:町工場(製造業)の場合

もうひとつ例を挙げます。

  • S(強み):特定分野における超高精度加工技術
  • W(弱み):営業・マーケティング力の不足(現状認識のみ)
  • O(機会):海外ニッチ市場からの需要拡大
  • T(脅威):大手による大量生産体制

ここから導かれるブランド戦略は、「業界から指名される職人企業」。営業にリソースを割くよりも、技術にさらに磨きをかけ、指名で仕事が来る体制を目指す方がブランド力が高まります。

公的事例:商店街活性化とブランドづくり

中小企業庁の商店街活性化事例集でも、「地域らしさを描く」「地域資源を活かしたブランドづくり」が成果を上げたと報告されています。
例えば、ある地域商店街では「地域の食文化や歴史を前面に出したブランド化」によって来街者数が増加し、店舗間の連携も強化されました。
これは、単なるイベントや割引ではなく「強みを磨いて発信すること」がブランド力を高め、結果として地域経済全体を活性化させることを示しています。

中小企業庁 商業活性化事例集[地域資源活用]

SWOT分析を成功させる実務の工夫

  1. 社員全員で取り組む
    → 現場の声を拾うと、普段意識していない強みが見えてくる。
  2. 弱みは短時間、強みは徹底的に
    → 弱みは30分以内で終える。強みは数時間かかっても掘り下げる価値がある。
  3. 顧客の声をヒントにする
    → 「なぜ当社を選んだのか?」を顧客に聞けば、強みがより鮮明に言語化できる。

SWOTは「強み強化の進捗チェック」に使う

SWOT分析は一度やって終わりにしてはいけません。本当にたいせつなのは、定期的に強みの進化を確認することです。

 

進捗を確認する問いかけ例

  • お客様から選ばれる理由は、以前より明確になったか?
  • 競合と比べて、強みはさらに際立ってきているか?
  • 新しい取り組みで強みを広げられたか?

こうした問いかけを年に1度、あるいは半期ごとに行うだけでも、ブランドづくりの進捗を社内で共有できます。

 

仕組み化の工夫

  • 年次の「ブランド強化レビュー」を経営会議に組み込む
  • 月次会議で「最近褒められたこと」を共有する時間をつくる
  • 前年のSWOTと比較して「強みがどう進化したか」を見える化する

これにより、SWOT分析は「現状把握の一回限りツール」ではなく、「強みを磨き続ける進捗管理ツール」へと変わります。

SWOT分析は誇りを再発見し、磨き続けるツール

SWOT分析は、弱点を直すためのチェックリストではありません。
自社の誇れる部分を再確認し、その強みをどう磨き続けるかを考えるためのツールです。

  • 弱みは現状認識にとどめる
  • 強みに徹底的に時間をかける
  • 強みの進捗を定期的に確認するしくみを持つ

これらを意識することで、中小企業でも無理なくブランディングに取り組めます。
「うちにもこんなにいいところがある」と社員全員が再認識し、その誇りを外に向けて発信していく。
それこそが、SWOT分析から始まるブランディングの本質です。

フレイバーズなら、SWOT分析から始めて、ブランディングによって社内を活気づけ、自社の強みを見直し、経営戦略の打ち手を変える働きにまでつなげます。

単なる分析で終わらせず、進捗確認や改善を定期的に行える 「社内のしくみ化」 までを伴走サポート。
組織全体で強みを磨き続ける仕組みを築き、ブランドを未来につなげていきましょう。

ブランディングについて相談したい

あの製造業がブランディングで価格競争を抜け出せた理由:成功事例と戦略

天井から光が射す製造業の工場「品質がすべて」。
この考え方は、今も現場に深く根付いています。そして、それは決して間違いではありません。多くの製造業がその信念をもとに、誰にも真似できないモノづくりをしてきました。
ひとつひとつ丁寧に、精度と耐久性を追求し、数えきれない製品を世に送り出してきた実績。そこには確かな誇りがあるはずです。

だからこそ、「なぜ最近、選ばれにくくなっているのか」が分からない。そんな戸惑いが生まれても不思議ではありません。

 

本記事で分かること

本記事では、製造業におけるブランディングの必要性を解説します。「品質には自信があるのに選ばれない」「価格競争から抜け出せない」といった悩みを持つ企業に向けて、なぜ今ブランディングが求められているのか、製造業ならではの課題や背景を交えながらわかりやすく紹介。単なるイメージ戦略ではなく、自社の価値を正しく伝え、顧客から選ばれる理由をつくるための視点が得られます。

 

品質の良さが見えにくくなっている現実

以前は、「壊れにくい」「精度が高い」といった性能や品質こそが、他社との明確な差でした。
しかし現在、各業界ともに製造技術の水準が上がり、ある程度の品質まではどこでも実現できる時代になっています。だから、顧客の側から見れば、各社の製品の違いが分かりづらくなっているという現実があります。

たとえば、図面上では同じ精度でも、実際のこだわりや努力は簡単には伝わらない。これは、製造業全体が真面目に努力してきた結果でもありますが、皮肉にもその努力が“見えにくさ”を生んでしまっています。

結果として、価格だけで比較されてしまったり、「なんとなく」で他社に流れてしまったりするケースが増えてきているのです。

 

顧客が求めているのは“違い”ではなく“意味”

顧客が求めているのが何かを考える担当者今の市場では、「何を作っているか」だけではなく、「なぜそれを作っているのか」が問われるようになっています。
品質やスペックだけでは響かなくなり、「この会社は、なぜこの製品を作っているのか」「この会社と取引する意味は何か」といった“背景”が重視されるようになってきたのです。

たとえば、同じような機能の製品が並んでいるとき、選ばれるのは「考え方に共感できる企業」や「信頼できるストーリーを持つ会社」です。
その企業がどんな姿勢で社会に向き合っているのか。どんな価値観を持ってモノづくりをしているのか。
そうした“見えない部分”が、購入や取引の最終的な判断基準になっているケースが増えています。

そして、これはBtoCの話だけではありません。むしろ、BtoBの製造業にこそ当てはまる重要な変化なのです。

 

製造業が陥りやすい“語り方”のギャップ

多くの製造業企業では、自社の強みを「性能」「精度」「導入実績」「技術力」といった実利で語ります。それは正しいアプローチではあるのですが、どの企業も似たような切り口になるため、差が見えづらくなってしまうのです。

聞き手(顧客)の側からすると、「すごそうだけど、他社と何が違うのか分からない」と感じることが少なくありません。

ここで、ひとつ重要な視点があります。
それは、「何を作っているか(What)」ではなく、「なぜ作っているのか(Why)」を語るという視点です。

 

ゴールデンサークル理論に学ぶ、“Why”からの発信

ゴールデンサークル理論の図マーケティングの世界でよく知られているのが、サイモン・シネック氏の「ゴールデンサークル理論」です。
この理論では、以下の3つの順序で物事を伝える重要性が説かれています。

  • Why(なぜやるのか)
  • How(どうやってやるのか)
  • What(何をやっているのか)

多くの企業が「What」から語り始めますが、人の心を動かすのは「Why」です。

たとえばAppleが人々に強く支持されているのは、単に「スマートな製品を作っているから」ではありません。彼らは「私たちは常識を疑い、世界を変えるために製品をつくっている」と明確な“Why”を掲げ、それが多くの共感を呼んでいます。
その理念を実現するHowとして、「Think Different(常識を疑う、型破りな考え方)」という姿勢があり、
その結果として生まれてくるWhatが、「iPhone」「Mac」「AirPods」などの製品です。
この順番で語られているからこそ、「ただのスマートフォン」ではなく、「Appleだから欲しい」と思わせるブランドになっています。

これは製造業でも同じです。
「なぜこの技術を守り続けているのか」
「なぜこの精度にこだわるのか」
「なぜこの業界に貢献したいのか」

そうした“Why”を伝えることが、製品や会社に“意味”を与え、顧客の記憶に残るようになります。

 

成功事例:ブランディングで選ばれる製造業へ

製造業ブランディングにいち早く取り組んでいる企業の事例をご紹介します。

 

1. オカムラ(オフィス家具・店舗什器)ーーWhyの言語化により価格競争から脱却

オカムラは、製品スペックではなく「働く環境をどう豊かにするか」というコンセプトを強く打ち出すことで、オフィス家具業界の中でも独自の立ち位置を確立しました。

たとえば、「働き方の未来を支える」というビジョンを前面に出し、製品単体ではなく“空間”や“体験”で価値を語るスタイルにシフト。
その結果、単なる「高品質な椅子」ではなく、「この会社と一緒にオフィスを作りたい」と選ばれるようになっています。

オカムラ

 

2. 能作(鋳物メーカー/富山県)ーー 製品ではなく“企業の世界観”がブランドになった事例

もともとは仏具などを製造していた町工場が、自社の技術や素材の魅力を再解釈し、「錫(すず)」を活かしたデザイン商品を展開。「伝統技術と現代の暮らしの融合」というストーリーが広まり、国内外で注目されるブランドに成長しました。

工場見学やワークショップなど、体験を通じたブランド価値の浸透にも積極的。単なる製品販売ではなく、企業そのものへのファンづくりに成功しています。

能作

 

3. ダイソン(イギリス)ーーWhyがブランドそのものであり、強い価格耐性を生む事例

製造業というよりプロダクト企業という印象が強いですが、ダイソンは“なぜ”を徹底して伝える会社です。

「従来の不満をゼロにする」という創業者ジェームズ・ダイソンの哲学がブランドの核になっており、製品の独自性もそこから生まれています。
スペックではなく「理念」で売ることで、価格帯の高い商品でも選ばれるブランド地位を築いています。

ダイソン

 

4. ミスミグループ本社(FA部品・金型部品)ーーBtoBでも、ブランドが信頼の源になる好事例

同社は「精密部品の調達リードタイムをゼロにする」という目標を掲げ、部品調達の“常識”を変える挑戦をブランドにしています。

結果、納期・価格・在庫に対する信頼性がブランド価値となり、エンジニアの中で“まずミスミを見る”という習慣が生まれています。

ミスミグループ

 

今こそ、ブランディングで先手を打つチャンス

真剣に細かなチェックを行う製造現場の女性社員製造業では、まだまだ「ブランディングはBtoC企業がやるもの」と捉えられている傾向があります。
だからこそ、今ブランディングに本気で取り組むことで、他社より一歩も二歩も先を行ける可能性があります。

競合他社がまだ気づいていない今のタイミングで「自社の想いや価値観」を言語化し、外に発信できれば、価格だけに左右されない強い選ばれ方ができるようになります。

ブランドは、単なる見た目の話ではありません。信頼や共感といった“無形資産”を築くための基盤です。そしてそれは、一朝一夕で作れるものではありませんが、積み重ねることで確実に効いてきます。

製品ブランディング

 

ブランディングとは、想いを形にし、届ける技術

最後にもう一度確認したいのは、「ブランディング=見せ方」ではないということです。ロゴやパンフレットを整えることだけがブランディングではありません。自社の価値観や信念、こだわりといった“根っこ”の部分を明確にし、それを社員や顧客と共有し、育てていく。それが、本来のブランディングの意味です。

製造業だからこそ、モノづくりの現場にある情熱や姿勢、譲れない想いを言語化し、届けることに価値があります。それは価格やスペックでは測れない「意味」を与え、顧客との関係をより深く、強いものにしていきます。

 

品質 × ブランディングが、これからの勝ち筋

品質が重要であることは、これからも変わりません。
しかし、その良さが“伝わらない”なら、それは存在していないのと同じです。

これからの製造業には、「品質」だけでなく、「伝える力=ブランド」が必要です。
そして、まだ多くの企業がそこに本格的に取り組んでいない今だからこそ、先手を打てば競争優位を築くことができるのです。

3C分析をブランディングに活用するときの注意点

ブランディングの議論が社内で本格化すると、最初にぶつかる壁が「どこから手をつければいいのか分からない」という状態です。そんなとき、ありがちなのがフレームワークを導入して全体像を整理しようとする動き。とくに「3C分析」や「SWOT」など、マーケティングの基本フレームは使いやすさもあって選ばれやすい傾向にあります。

なかでも使われやすいのが「3C分析」です。これは、顧客(Customer)・競合(Competitor)・自社(Company)という3つの要素をクロスさせ、ブランドの価値やポジショニングを論理的に導き出すものです。

便利で説得力があるフレームワークではあるのですが、誤った使い方をすると、かえってブランドの方向性が曖昧になってしまうことも少なくありません。そこで今回は、全社の方向性をプランニングする部門(たとえば経営企画室)の実務担当者が3C分析を実施する際に陥りがちな落とし穴と、注意すべきポイントを整理します。

平田弘幸

執筆した人:平田弘幸

株式会社フレイバーズ代表取締役。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会・認定コンサルタント(インターナルブランディング)、ブランドマネージャー(1級)。大手電機メーカーで国内外の営業、企画を15年間経験した後、フレイバーズ設立。製造業での知見を活かし、中小企業のブランディングに強み。

 

3C分析とは何か?まずは基本の理解から

3C分析は、3C(Customer、Competitor、Company)をそれぞれ分析したうえで、それらの要素を掛け合わせることで、自社が取るべき戦略やブランドの方向性を導き出す方法です。

例えば以下のような掛け合わせが基本になります:

顧客 × 自社:顧客が求めていて、自社が提供できる価値は何か

自社 × 競合:競合と比較して、自社が勝てる部分はどこか

顧客 × 競合:顧客が重視し、競合が対応しているが、自社が弱い部分は何か

このように、単純な3C分析よりも一歩踏み込み、戦略の優先順位や差別化の方向性を可視化できるのが特徴です。自社の弱い部分は、あまり時間をかけて分析しても意味はありません。むしろ時間をかけるほど、愚痴合戦のような状態になってしまいます。ブランディングは、自社の良い部分を伸ばすことで顧客に力強く訴求することが目的。競合他社と比較して足りていない部分は、思い切っていまは目をつぶっておきましょう。

ブランディングではこの分析を使って、「自社ブランドは誰に、何を、どう届けるのか」という問いへの答えを論理的に構築していきます。

 

3C分析をブランディングに活用する際にありがちな3つの誤解

便利なフレームワークには副作用もあります。とくに次のような3つの誤解は、ブランディングにおける方向性を誤らせる原因になります。

 

誤解1:「顧客視点=機能的ニーズ」だと思い込む

「顧客視点で考えよう」と言いながら、出てくる要素が「安い」「早い」「便利」ばかりでは意味がありません。それは表面的な選定理由であって、ブランドを選ぶ理由ではないからです。

ブランディングで重要なのは、顧客がどんな文脈でブランドを選び、どんな感情で関係を築いていこうとしているか、という視点です。つまり「スペック」ではなく「意味」が問われるということです。

 

誤解2:「競合=同業他社」と決めつける

競合分析というと、つい同じ製品、サービスを扱う他社に目がいきがちです。しかし実際には、顧客の選択肢は同業に限りません。

たとえば、スターバックスにとっての競合はドトールやタリーズだけではなく、コンビニコーヒー、自宅カフェ、さらには「今日はカフェに行かない」という選択肢すら競合になり得ます。

競合の定義が狭すぎると、ブランディングの差別化軸も浅くなってしまうでしょう。

 

誤解3:「自社の強み=過去の実績」だけで考える

「うちはこれが得意」「この分野は負けない」といった自社の強みを語るとき、往々にして過去の実績や現在の技術力に基づいているケースが多く見られます。

しかし、ブランドは未来志向のものです。過去の実績ではなく、これからどんな「価値観」や「ライフスタイル」を象徴していく存在なのか、それを語れなければ、ブランドとしての広がりが生まれません。

もちろん、現在の顧客が自社を選んだ理由を知ることは非常に重要なことですが、その一点だけに強みが集中してしまうとブランディングの範囲を狭めてしまうことになりかねません。

 

実務で押さえるべき4つの注意点

上記の誤解を踏まえたうえで、実際に3C分析をブランディングに活用する際の注意点を具体的に紹介します。

 

① 顧客の「無意識の選択理由」に踏み込め

顧客の選定理由には、本人が意識していない「無意識の価値判断」が数多く含まれています。たとえば、「高いけどなぜかあのブランドを選ぶ」という行動には、価格や性能では測れない「好感」や「信頼感」が影響しています。

ここに踏み込まないまま分析しても、「当たり障りのない差別化」にしかなりません。

ヒント:インタビューやユーザー観察によって、「なぜそれを選ぶのか?」「どうして他と比べて安心感があるのか?」といった問いを深堀りしましょう。

 

② 競合の再定義がブランドの輪郭を決める

競合の捉え方次第で、自社ブランドの意味づけも変わります。「モノとしての競合」ではなく、「体験としての競合」を意識することで、自社ブランドが提供すべき価値が変化します。

たとえば、高級腕時計の競合は他ブランドの時計ではなく、「自分へのご褒美」や「ステータス実感」を得られるすべての行為かもしれません。

ヒント:競合を「同じ問題を解決している他の選択肢」と定義し直してみましょう。

 

③ 自社の強みは「記号」化して語れ

ブランドの強みは、機能や技術力だけではなく、「象徴」としての役割を果たす必要があります。
たとえば「無印良品」は「シンプルな生活の象徴」、「Apple」は「革新性と美意識の象徴」として機能しています。

これらはすべて、技術や商品を超えた「記号的価値」です。

ヒント:「私たちのブランドは、顧客にとって何の象徴か?」という問いをチーム内で共有し、強みの再定義を図りましょう。

 

④ フレームワークに縛られず、「物語」を紡げ

最後に大切なのは、分析の結果をそのまま資料に貼って満足しないことです。

3C分析の目的は、単に整理することではなく、ブランドの「意味」や「物語」を構築するための出発点です。

論理で構築した戦略を、感情で語れるストーリーに翻訳するプロセスが必要です。ブランドとは、最終的には「覚えられる」「共感される」ものとして成立する必要があります。さらに、誰かにそれを伝えたくなる要素、これがめざすべきストーリーです。

3C分析で市場や競合、自社を整理したら、次は「自社の強み」を掘り下げてみましょう。

SWOT分析で自社の強みを再発見し、ブランディングに活かす方法

 

ブランドは、差別化ではなく「意味化」されるべき

「ブランディング、3C分析」というワードで検索してください。無数のテンプレートや図解が出てきます。しかし、それらを形式的に埋めるだけでは、顧客の心には届きません。

プロジェクトメンバーの役割は、ロジックと感性を橋渡しする視点を持つことです。
そのためには、3C分析を単なる戦略設計の道具としてではなく、「ブランドの意味を考え抜くための補助線」として使う姿勢が求められます。まさに、頭にどれだけ汗をかくことができたかで、ブランディングの成功確率はグッと高くなります。

ブランドは、差別化されるのではなく「意味化」されるもの。
その意味を、顧客・競合・自社という3つのレンズを通して言語化できたとき、ブランディングは初めて本質に近づきます。

マーケティングでよく活用されるフレームワークは便利ですが、使い方を誤れば形だけの戦略に陥ります。とくにブランディングのように抽象度が高く、主観も入りやすい領域では、客観的な視点が欠かせません。だからこそ、必要に応じて専門家の知見を借りることも選択肢に入れるべきです。
外部の視点を取り入れることで、自社では当たり前になっていた価値や強みに改めて気づけることもあります。3C分析を「社内で完結させる作業」ではなく、ブランドを再発見する対話のプロセスとして活用していくことが、ブランディング成功への鍵になります。

フレイバーズでは、コーポレートブランディング、採用ブランディングなどを実施し、結果を出してきた実績があります。かんたんなご質問でも構いません。お問い合わせフォームからコンタクトしてください。