コラム(ブランディング)

ブランディング 2025年8月6日

中小企業のブランディング戦略:8つの課題を克服する進め方のキモ

「いいものを作れれば売れるんだ」―そう信じて、ずっと努力してきた。
それが中小企業の多くに共通する、ものづくりに対する考え方の基本ではないでしょうか。

でも、現実はどうでしょう。
いいものを作っても、簡単に引き合いが来るわけではない。
しかし市場を見ると、品質がそこそこのものでも注目され、売れている。
「あれよりうちのほうが断然いいはずなのに」そう思っても、現実が動くはずもなく。
どこか納得できない。けれど、理由がはっきりわからない。

なぜ選ばれないのか。どうすれば、選ばれる存在になれるのか。
その問いに向き合ったときに浮かび上がるのが、「ブランディング」というキーワードです。

ただし、ここでいうブランディングは、ロゴやパッケージをおしゃれにすることではありません。
中小企業に必要なのは、「この会社に頼みたい」「あの人だから信頼できる」と指名される状態をつくること。
つまり、信頼される「理由」を見える形にし、伝わるように整えるのが本質です。

とはいえ、多くの中小企業がブランディングに踏み出せずにいます。
「人も時間も足りない」「何から手をつけていいかわからない」そんな課題にどう向き合えばいいのでしょう?

この記事では、中小企業が直面する8つのブランディング課題と、限られたリソースでも進められる優先順位のつけ方を紹介します。
小さな一歩が、あなたの会社が指名される未来への第一歩になっていくはずです。

平田弘幸

執筆した人:平田弘幸

株式会社フレイバーズ代表取締役。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会・認定コンサルタント(インターナルブランディング)、ブランドマネージャー(1級)。大手電機メーカーで国内外の営業、企画を15年間経験した後、フレイバーズ設立。製造業での知見を活かし、中小企業のブランディングに強み。


本記事で分かること

中小企業が生き残るには、「この会社に頼みたい」と指名される存在になることが重要です。本記事では、ブランディングの本質を信頼づくりと捉え、実行を妨げる8つの課題とその突破口を紹介します。限られたリソースの中でも優先すべき進め方、実際の成功事例を通じて、明日から動けるヒントが得られます。

なぜ中小企業にブランディングは必要なのか?

「品質には自信があるが、顧客が広がらない」「価格を叩かれ、疲弊している」
こうした悩みは、もはや業種や地域に関係なく、中小企業に共通したものです。

かつては、地域性や人脈、紹介などが大きな営業資産でした。
今はネットやSNSを使い、買い手が違う選択肢にすぐ手を伸ばせる時代に。

市場はすでに「いい商品を作れば売れる」から、「いい会社に見えなければ選ばれない」へと変化しており、戦い方も変えなければいけなくなっているのです。

 

価格ではなく「会社」で選ばれる時代

モノの機能や価格だけでの差別化がどんどん難しくなっています。
たとえばA社もB社も同じ品質の部品を作っているとしたら、選ばれる理由は何になるでしょう?

最終的に顧客が判断するのは、
「この会社なら安心できる」「この人なら話が通じる」「ここに頼んでおけば間違いない」
といった、信頼ができるかどうか。

この「信頼」を見える化し、伝えるための仕組みこそが、ブランディングです。

 

ブランディングは「広告」ではなく「信頼づくり」

よくある誤解に、「ブランディング=かっこいいロゴや洗練されたパンフレット」というイメージがあります。
確かにそれらもツールの一つですが、本質はそこではありません。

中小企業にとってのブランディングとは、

  • 「なぜ自社が選ばれているのか」を明確にする
  • 顧客・社員・取引先に一貫して伝える
  • その結果、「あの会社に頼みたい」と指名される状態をつくる

という、信頼される仕組みづくりです。

 

「小さい会社」だからこそできるブランディングがある

大企業のように大規模な広告を打てなくても、中小企業には顔の見える関係性や意思決定の速さといった武器があります。
だからこそ、背伸びをする必要はありません。重要なのは、自社が既存の顧客から選ばれている「らしさ」を理解し、それを顧客との接点に一貫して正しく表現することです。

その積み重ねが「信頼される会社」、「覚えてもらえる会社」への第一歩になるのです。

第1節 ブランドの構築・維持に向けた取組(中小企業庁「中小企業白書2022年版」)

中小企業が直面するブランディングの8つの課題

「ブランディングが大切なのはわかる。でも、現実にはなかなか進められない」
そう感じている中小企業はとても多い。
実際、ブランディングがうまく進められない企業には、いくつかの共通した課題があります。

ここでは、そのなかでも特に多くの現場で見られる8つの典型的な課題を紹介します。

 

人・時間・予算、すべてが足りない

多くの中小企業では、日々の業務に追われてブランディングにかけられるリソースが限られています。
「やらなきゃとは思っているけど、後回しになる」
そんな状況が続けば、当然ながら他社との差は広がっていくばかりです。

 

担当者がいない、兼務で進まない

社内に専任の担当者がいない、もしくはマーケティングと兼務になっていて手が回らない。これもよくあるケースです。
施策の検討、実行、効果測定などを1人で抱えてしまい、結局なにも進まないという悪循環に陥ってしまうのです。

 

ブランドが経営者の頭の中にしかない

「うちの良さはちゃんと伝わってるはず」と思っていても、それが社内で言語化・共有されていない企業がほとんど。結果として、社員によってお客様への説明がバラバラになったり、営業トークが噛み合わなかったりすることに。

 

差別化の軸が曖昧

「品質に自信があります」「真面目にやってます」
こうしたアピールは、実は多くの会社が同じことを言っています。本当の意味での差別化は、「お客様が自社をどう見ているか」に目を向けないと見えてきません。

 

顧客の声を吸い上げられていない

自社の強みは、実はお客様の中にあります。
「どうしてうちを選んだのか?」「他に検討していた会社との違いは?」
こうした声を聞かずに進めるブランディングは、空回りしやすくなります。

 

「ロゴを変える」だけで終わってしまう

ブランディングを始めようとして、まずロゴを刷新した。ここで止まってしまうケースも。
デザインは重要ですが、それだけではブランドにはなりません。考え方、行動、伝え方のすべてに一貫性があってこそ、ブランドとして成立します。

 

情報発信に一貫性がない

会社案内、営業トーク、SNS投稿、Webサイト・・・
それぞれの言葉やトーンに一貫性がなければ、会社の印象はバラバラになります。せっかく良いことを発信しても、伝わり方にブレがあると信頼につながりにくくなります。

 

成果がすぐに見えず、続けにくい

「ブランディングをやってみたけど、効果が見えない」
そんな声があることも事実。
短期的な反応が得られにくいぶん、優先順位が下がりがちですが、長期的な信頼や選ばれ方に確実に効いてくるのがブランディングの本質です。

 

ここまで紹介した8つの課題は、どれも中小企業の現場で実際に起きているものです。
厳しいことを言うようですが、結局のところできていないのは、経営者に覚悟がないだけ。

ブランディングは、一夜で結果が出るものではありません。だからこそ、「やる」と決めて動き出す覚悟が必要です。この覚悟があるかどうかで、次の一手の重みが変わります。

さらに、経営者がブランディングに本気で向き合っている姿勢が見えれば、社内の見方も変わってきます。周囲の真剣度も、そこからようやく動き始めるのです。
次のセクションから、限られたリソースでも実践できる進め方のキモをお伝えしましょう。

限られたリソースでも実行できる、ブランディングの優先順位

では、覚悟を決めたその先で、何から手をつけるべきか。
全部を一度にやる必要はありません。ブランディングは、順番を間違えなければ必ず形になります。

ここでは、実際に多くの企業が成果を出している、限られたリソースでも始められる優先順位で対応するブランディング施策を紹介します。

ここでは、今すぐ着手できて、効果につながりやすい3つの優先施策を紹介します。

 

優先1:既存顧客の声を集める

ブランディングのスタート地点は、自分たちの強みを知ること。
そのための一番確実な方法が、「なぜうちを選んだのか?」を顧客に直接聞くことです。

  • 他社と迷った点は?
  • 決め手は何だったか?
  • 使ってみて感じた価値は?
  • 当社と継続して取引している理由は?

これらの答えのなかに、自社が伝えるべき「選ばれる理由」が詰まっています。社内で考えるより、お客様の視点こそがリアルなブランドの核になります。

 

優先2:「らしさ」を言語化する

集めた声をもとに、「自社らしさ」や「選ばれる理由」を言語化します。難しく考える必要はありません。キーワードや短いフレーズでもかまいません。
例:

  • 堅実なのに、フットワークは軽い。レスポンスが早い
  • 技術力よりも「相談しやすさ」で選ばれている
  • 自分ごとのように、一緒に悩んでくれる
  • 地域の困りごとを、断らずに引き受けてきた

こうした言葉をまとめ、会社として何を大事にしているかを社内外に共有することで、ブランドの芯ができます。タグライン、会社紹介文、営業トークなどに落とし込むことで、ブレない軸になります。

 

優先3:伝える手段に一貫性を持たせる

最後に、その「らしさ」を伝える手段(WEBサイト、営業資料、SNSなど)に統一感を持たせるステップです。顧客とのコンタクトポイント(接点)での統一感ですので、営業職の姿勢やオフィスの雰囲気も含まれます。

  • トーンや言葉づかいを揃える
  • デザインや写真に統一感を出す
  • お客様が接するすべての場所に「らしさ」をにじませる

これをやるだけで、「この会社、ちゃんとしてるな」「なんか印象に残るな」という効果が自然に生まれます。一貫性は、安心感につながります。
たとえば、上記の「フットワークが軽い」「相談しやすさ」に一貫性を持たせるには、電話をかけたときの聞く姿勢に包容力が感じられたり、営業資料がていねいに説明されていたり。営業ツールも理解しづらい部分がアップデートされて、わかりやすくなっていく、ということも「選ばれている理由」を具現化することにつながります。

このアクションが社内に定着していけば、社風がブランドそのものになり、よりいっそう選ばれている理由は強固なものになっていきます。

 

少ないリソースでも、まずは「なぜ選ばれているか」を知り、それを伝える準備をするだけで、十分に強いブランドの土台に。

次は、実際にこうしたアプローチで変化を生んだ企業の例を紹介します。

事例:商品力だけでなく「想い」で選ばれるようになった町工場

ここでは、仮想の中小企業を例にして、「選ばれる理由を言語化し、伝え方を整える」ことで成果が出たブランディングの進め方を紹介します。

 

ある町工場の転機

東大阪市で機械部品の加工を行っているB社。高度な加工技術には定評があり、納期対応や仕上がりにも自信がありました。しかし、取引先の引き合いは年々減り、価格競争に巻き込まれ、「結局、安いところに流れてしまう」という状況に悩んでいました。

 

「なぜ選ばれてきたのか?」を聞いてみた

転機となったのは、経営者が既存顧客にヒアリングを始めたこと。
「なぜうちを選んでくれているのか?」と率直に聞いてみると、返ってきたのは意外な声です。

  「図面がなくても相談に乗ってくれるのが助かる」
  「担当の佐藤さんが、技術用語をかみ砕いて説明してくれる」
  「うちは他の業者に断られた案件ばかりだけど、あなたのところは断らなかった」

これらの声をもとに、自社の強みを「断らない相談力」と定義。メッセージとして、「図面がなくても、話せばわかる加工屋です」と明文化しました。

 

発信と営業資料に一貫性を持たせた

その言葉をベースに、会社案内や営業資料、WEBサイト、SNSでの発信内容を刷新。担当者の対応も、営業全体で「相談される会社を目指す」という軸に揃えていきました。
すると、営業先での第一印象が明らかに変わり、「ホームページを見て問い合わせました」という引き合いが月に2〜3件ペースで来るように。紹介の連鎖も生まれ、価格よりも対応力を評価される商談が増えていきました。

 

技術だけでなく、「考え方」が伝わるようになった

B社の強みはもともとあった技術力ですが、それ以上に伝わったのは「困っている相手を見捨てない姿勢」。これが、顧客にとっての安心感となり、信頼となり、「指名される会社」につながっていったのです。

 

このように、ブランディングは新しい施策を考え出すことではありません。大切なのは、「なぜ選ばれているのか」を言語化し、それを一貫して伝えること。それだけでも、会社の印象と選ばれ方は確実に変わっていくのです。

ブランディングは、今いる顧客との関係を深めることから始まる

新規顧客を追いかけるのは、営業として当然の動きです。でも、ブランディングにおいて最も大きな力を発揮してくれるのは、今すでに自社を選んでくれている顧客。

彼らのなかにこそ、自社の価値があり、他社との違いがあり、次の顧客へのヒントがあります。

 

「紹介したくなる会社」になれているか?

紹介が生まれる会社と、生まれない会社には明確な差があります。それは単にサービスの質や価格ではなく、その会社を好きかどうか。その会社を説明するときにストーリーがあるかどうかです。

人は、ストーリーのあるものを人に話したくなりますね。会社の考え方や姿勢が明確で、それがスタッフや営業にも行き届いていれば、自然と「なんか、この会社いいよね」が伝播していきます。

 

選ばれる理由は、自分たちのなかにある

競合を見て「どう違うか」を考える前に、自社が「なぜ選ばれてきたのか」を見つめ直すことのほうが大切です。そこに気づき、言葉にして、社員と共有できれば、会社全体が同じ方向を向けるのです。

それが、「ブランド」として外ににじみ出ていきます。

 

これまでに積み上げてきた信頼がブランドの価値

特別なキャンペーンも、広告予算も、必ずしも必要ではありません。
「うちの良さってなんだろう?」と問い直し、
「それが伝わっているか?」を見直すだけで、十分にブランディングは始められます。

そしてそれは、どんな中小企業にもできることでもあるのです。

選ばれる会社には、明確な理由がある

これからブランディングをはじめる方にとって、ブランディングは難しそうな印象があるかもしれません。でも、本当の意味でのブランディングとは、自社の「らしさ」や「考え方」を明確にし、それを信頼できる形で伝えること。

ですから、それは大きな会社だけができることではないのです。むしろ、顔が見え、声が届く中小企業こそ、深くて強いブランドをつくることができるかもしれません。

選ばれる会社には、理由がある。
それは、価格でもデザインでもなく、「この会社と仕事がしたい」と思わせる、信頼と一貫性の積み重ねがもたらすものです。

今いる顧客の声を聞いてみてください。そこに、すでに選ばれている理由がきっとあります。まずはそれを知り、言葉にし、ほかの誰かにまっすぐに伝えていきましょう。

リソースがないのは、どこも同じ。違いが出るのは、「覚悟を決めて動くかどうか」。小さな会社が選ばれる会社になるには、理由をつくるしかありません。その一歩を、今ここから始めてください。

 

ブランディングに対する壁の高さは、少し低くなったでしょうか。

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