コラム(ブランディング)
ブランディング 2025年5月27日
中小企業の経営者必見|ブランディング手法で差をつける実践戦略
執筆した人:平田弘幸
株式会社フレイバーズ代表取締役。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会・認定コンサルタント(インターナルブランディング)、ブランドマネージャー(1級)。大手電機メーカーで国内外の営業、企画を15年間経験した後、フレイバーズ設立。製造業での知見を活かし、中小企業のブランディングに強み。
1. なぜ今、中小企業にブランディングが必要なのか?
価格競争に巻き込まれ、広告費では大企業に太刀打ちできない中小企業。しかし時代は製品、サービスのコモディティ化が進み、商品やサービス自体の優位性だけでは選ばれにくくなってきています。エンドユーザーが重視しているのは「この会社を選ぶ理由があるかどうか」。
ここで問われるのが「ブランド」です。これも大企業にしかないと思われがちですが、実は中小企業こそブランディングの効果が出やすい土壌を持っているのです。経営者の思いが直接事業に反映されやすく、意思決定も早い。だからこそ、ブランドの核を定め、一貫性を持って発信していけば、競争の土俵そのものを変えることができ、価格競争から脱出できる可能性があるのです。
2. よくある誤解:ブランディング=ロゴやデザインではない
「ブランディングに力を入れたい」と言いながら、まずロゴの刷新やWEBサイトのリニューアルに取りかかる経営者がいます。もちろん、印象は重要。しかし、それはブランドの表面でしかありません。
本質は、会社としての存在理由、顧客との関係のあり方、提供する価値が一貫性をもって伝えられていること。つまり、「自社らしさ」を言語化し、社内外に共有、それを実際の行動として体現することがブランディングの中核です。
ロゴやデザインはあくまでそれを支えるツールであり、ブランドの土台が曖昧なまま外見だけ整えても、顧客の心には決して響くことはありません。
3. 中小企業が実践すべき3つのブランディング手法
3-1. コアバリューの明文化と共有
ブランディングの第一歩は、コアバリュー=「自社が何のために存在するのか」「どのような社風を持つ会社なのか」という問いに答えること。ここを曖昧にしたまま発信しても、どこにでもあるような言葉の羅列になってしまい、顧客の記憶には残りません。
ポイントは経営者自身が納得できる言葉で明文化すること。次に、それを全社員に共有する。社長だけが理解していても意味がありません。社員が日常業務のなかでその価値観を感じ、語れるようになることで、顧客との接点に一貫性が生まれ、ブランドが育ちます。
3-2. ペルソナ設計とターゲットメッセージの明確化
「うちはどんなお客様にも対応できます」という企業ほど、誰の心にも強く印象に残らないものです。中小企業だからこそ、特定の顧客層に刺さるブランド設計が必要です。
理想的な顧客像(=ペルソナ)を具体的に描きましょう。年齢、性別、職業だけでなく、何に困っていて、どんな価値観を持っているのか。その人物に対してどう語りかけ、どんなメッセージを届けるべきかを決めることで、ブレない発信が可能になります。
むずかしく考えることはありません。
いまの顧客のなかで典型的な人を思い浮かべ、その人を象徴的に設定するだけです。
結果として、顧客が「これは自分のための商品・サービスだ」と感じる瞬間が増え、ブランドへの信頼が積み重なっていきます。
3-3. 顧客体験(CX)をブランド化する
商品・サービスそのものに加えて、購入前後の体験全体をブランドに組み込む視点が重要です。
例えば、問い合わせのレスポンスの迅速さ、納品時の丁寧さ、トラブル対応の誠実さなど。それらすべてがブランドを形づくる要素です。言い換えれば、どんな小さな接点でも「自社らしさ」を伝えるチャンス。
この一貫性があるかどうかで、顧客は「またお願いしたい」と感じるか、「価格が安いところに乗り換えよう」と思うかが分かれます。社内で顧客体験を言語化し、マニュアル化することで属人的な対応を防ぎ、ブランディングの質を安定させることができます。
4. 成功事例:地方の中小企業がブランディングで勝ち残ったケース
事例①:老舗の製造業が若者を惹きつけるブランドに変貌
創業70年の金属加工会社は、技術力はあるのに、価格競争に疲弊していた。社長が「職人の誇りと、モノづくりの美学」を軸にブランド再構築を決意。
製品にストーリー性を持たせ、SNSで発信。さらに若手社員を「語り部」としてメディアに登場させた結果、新卒採用が過去最多を記録し、地元紙で話題に。新規顧客も開拓できるようになり、価格ではなく「想い」で選ばれる企業へとシフトしはじめています。
事例②:地域密着型の工務店がリブランディングで単価アップ
低価格帯リフォームで顧客を集めていた工務店は、やはり利益が出ず経営は苦しい状態に。そこで「家族の人生に寄り添う家づくり」を掲げ、ペルソナを40代共働き夫婦に設定。
施工中のフォロー体制やアフターサポートの流れを再構築し、全社員が「家守り」という共通の意識を持つよう教育を強化。その結果、受注単価は1.8倍に。紹介顧客も増え、広告費を抑えられる結果に。
事例③:地場の印刷会社がBtoB特化のブランドで受注拡大
下請け中心の体質から脱却したいと考えていた中規模の印刷会社が、「中小企業の広報を支援する印刷会社」というブランドポジションを明確に打ち出しました。
販促提案やデザインディレクションも含めた「提案型営業」に切り替え、業種ごとの専用パッケージを整備。下請けからの脱却が進み、顧客単価は2.3倍に上昇。さらに、新たな次の一手を検討中。
5. 今すぐ始めるためのステップとポイント
ステップ①:社内対話で「自社らしさ」を言語化する
ワークショップ形式で、社員から「この会社の好きなところ」「誇れる点」を集めてみましょう。経営者の視点と現場の声を重ねることで、リアルでブレないコアバリューが見えてきます。
ステップ②:コンタクトポイント(顧客との接点)ごとに「一貫性」があるか点検
営業・接客・WEB・SNS・アフターサポートなど、顧客とのあらゆる接点を洗い出し、「言っていることと、やっていることが一致しているか」を確認。ここにズレがあると、ブランドは育ちません。
ステップ③:必要に応じて外部の力を借りる
ブランディングは専門的な視点も必要です。言語化やデザイン、マーケティング戦略などは、プロの支援を受けることで、スピードも精度も上がります。一方で、経営者自身が軸を持ち続けることも最大のポイントです。
信頼の積み重ねこそがブランディングの原点
ブランドとは「約束」です。その約束を守り抜く姿勢こそが、選ばれる会社への第一歩となります。
そして、もうひとつ大切なのは、これまで自社を支えてくれた顧客との信頼関係や、顧客が自社を選んでくれている理由をあらためて見直すことです。実はそこにこそ、他社には真似できない自社らしさ=ブランドの核が眠っています。
すでに社内で実践していること、日常の中で当たり前になっている行動や姿勢を言語化し、それを軸として強化・発信していくこと。それが、地に足のついたブランディングの第一歩です。
よくある質問(Q&A)
Q. ブランディングに取り組むと、売上はすぐに伸びますか?
A. 短期的な売上増よりも「選ばれる理由」を積み重ねていくなかで、価格競争に巻き込まれない受注や、リピート率の向上につながるのがブランディングの本質です。ブランディングは売れ続けるしくみをつくることと称されます。今まで培ってきた売上の土壌はすぐにできたものではないはず。長い目で考えてください。
Q. 社内の理解が薄い場合、どう進めればいいですか?
A. 小さな成功体験を共有することが効果的です。例えば「SNSで反応があった」「お客様から共感の声をもらった」といった具体例をもとに、社員の共感と行動を少しずつ引き出していきましょう。
経営者がブレないこと。その本気度を社内に常に共有すること。ことあるごとに言葉にして伝え続けることが徐々に社内からの賛同を得るための方法です。
Q. 競合が多い業界で差別化は本当に可能?
A. 可能です。「何を売るか」より「なぜ売るのか」「どう売るのか」でブランドは差別化できます。競合が価格で勝負しているなら、そこから外れた独自の土俵をつくるのがブランディングの強みです。