コラム(ブランディング)
ブランディング 2025年8月4日
インナーブランディングとアウターブランディング、どちらが先?順番の正解と失敗しない進め方
執筆した人:平田弘幸
株式会社フレイバーズ代表取締役。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会・認定コンサルタント(インターナルブランディング)、ブランドマネージャー(1級)。大手電機メーカーで国内外の営業、企画を15年間経験した後、フレイバーズ設立。製造業での知見を活かし、中小企業のブランディングに強み。
本記事で分かること
インナーブランディングとアウターブランディング、どちらを先に進めるべきか。この問いに対し、本記事では順序の基本原則と、実務での判断基準をわかりやすく解説します。
中小・中堅企業の採用現場で起きがちな「順番ミス」の実例を交えながら、社内の空気づくりがいかにブランドの核となるかを提示。インナーとアウターの違い、順序の判断軸、そして取り組みを始めるための具体的な第一歩まで、実践的に学べます。
インナーとアウター、どっちからやるべき?という迷い
「ブランドを整えたい」「発信を強化したい」―そう考えたとき、必ず出てくるのがこの問いです。
インナーブランディングとアウターブランディング、どちらを先にやるべきか?
多くの企業が、まずアウター(=外向けの発信)に手をつけがちです。
でも、インナー(=社員や社内の共通認識)を置き去りにしたまま発信すると、逆効果になることも。
たとえば、
「あなたのために精一杯働きます」と広告でうたっているお店に入ったら、店員の態度がつっけんどんだった。そんな経験はありませんか?
外で語っていることと、中で実際に起きていることにズレがあると、ブランドへの信頼は一気に冷めてしまいます。
この記事では、
- 「インナーとアウター、どちらを先にやるべきか」
- 「順番を誤ると何が起きるのか」
- 「中小・中堅企業が取るべき、現実的な進め方」
を実例を交えて解説。採用、社内の空気、発信力―すべては「順番」から変わり始めます。
インナーブランディングとアウターブランディングの違いとは?役割と目的を整理
「インナーが社内向けで、アウターが社外向け」
それだけで済ませてしまう説明もありますが、実際はもっと「目的」と「使いどころ」が違います。
■ インナーブランディングとは?
社員一人ひとりが、会社やブランドの「らしさ」を理解し、納得し、自分ごととして体現できる状態をつくること。
- 何をたいせつにしている会社なのか
- なぜそれをやるのか
- 自分たちはどこに向かっているのか
こうした価値観や方向性を、トップダウンでもボトムアップでも社内に共有・浸透させる取り組みがインナーブランディングです。
■ アウターブランディングとは?
ブランドの価値や姿勢を、社外に向けて発信し、理解・共感してもらうための取り組み。
- 採用広報
- SNSやWEBでのブランディング
- 広告やプロモーション
すべては「自社の魅力」を、ターゲットにどう伝えるか、という設計と運用の話です。
■ どちらかではなく、「順序と連動」がカギ
インナーとアウターは、どちらか一方が正解ではありません。中と外をどう連動させるか。そして、どちらを先に整えるべきか。これが成果を分けるポイントです。
結論:インナー → アウターが基本。でも例外もある
原則として、インナーブランディングが先。アウターブランディングはそのあとです。理由はシンプル。中で語れないことを、外で語っても響かないから。
たとえば、自社の強みや価値観を社員が理解していないのに、外に向かって「うちは○○な会社です」と発信しても、どこか薄っぺらく聞こえてしまう。
それどころか、発信内容と実態にズレがあると、信頼を失いかねません。これは採用でも、顧客対応でも、取引でも同じです。
でも、すべての企業がインナーから始められるとは限らない
とはいえ、現実には「今すぐ採用を強化したい」「事業を広げたい」というタイミングもあります。そんなときは、アウターを先に走らせながら、インナーを追いつかせるという選択も現実的です。
ただし、この場合は「中と外の整合性」を意識しながら進めることが重要です。発信を始めたあとに、社員が「そんなこと言ってたっけ?」とならないよう、最低限の認識合わせは同時に動かすべきです。
インナーとアウター、どちらか一方では足りない。でも、順序を間違えると、結果がついてこないのはほぼ間違いない。だからまずは、社内での理解と納得をつくるところから始めるのが王道です。
中小企業の採用現場から見えた、順番ミスのリアル
◆ 事例A:社員60名の製造業
ある地方の製造業A社は、慢性的な人手不足に悩んでいました。そこで、まずは“見せ方”から変えようと、採用サイトやパンフレットを刷新。若手社員のインタビューやスタイリッシュなデザインで「挑戦できる職場」と打ち出しました。
結果、応募は増えたものの
入社後の早期離職が相次ぎました。
面談で聞こえてきたのは、
「イメージと実態が違った」
「結局、やることも進め方も前時代的だった」
原因は、インナー=社員の認識や文化が置き去りにされたまま、外向けだけを磨いたこと。社員自身が会社を「挑戦できる場」だと捉えていないのに、それを前面に押し出したことで、ギャップが大きなマイナスになってしまったのです。
◆ 事例B:社員40名のIT企業
一方、大都市圏のIT企業B社では、採用を強化する前にインナーから着手しました。
まず社内で「自社のらしさ」を洗い出し、価値観を言語化。その内容を、社員全員が自分の言葉で語れるようにワークショップを重ねました。
その後に始めた採用広報では、社員自身がブランドを自然に語る姿がSNSや説明会で発信されました。結果、応募者の質が上がり、入社後のミスマッチも激減。リファラル採用も増え、社内の雰囲気自体が少しずつポジティブに変わっていきました。
インナー→アウターの順で丁寧に設計したことで、「伝える」だけでなく、「伝わる」採用が実現した例です。
「うちの会社、案外いいかも」という再発見が自信を生む
インナーブランディングに取り組むとき、よくある反応があります。
社員がこう言うんです。
「こんなこと、ちゃんと考えたことなかったけど…」
「うち、意外とちゃんとしてるじゃん」
「これ、もっと発信してもいいかもね」
普段の仕事では埋もれがちな“会社の良さ”を言葉にすると、社員は少し自信を持てるようになります。それは派手な変化ではありませんが、確実に「社内の空気」を変えていきます。
この状態が続くと、
- 社員が自然と知人を誘うようになり(=リファラル採用)
- 社外の人にも「なんか感じがいい会社だな」と伝わるようになります
つまり、社員の内側から始まった“ブランドの芯”が、外にじわじわとにじみ出ていく。この状態になれば、アウターブランディングは“盛る”必要がありません。ただ、ありのままを発信するだけで伝わるようになります。
もちろん一度やっただけで終わり、ではありません。定期的に「うちの良いところって何だっけ?」を言語化し直し、共有し、アップデートし続けることで、ブランドは「社員ごとの実感」として根を張っていきます。
ブランディングの順序を見極めるチェックリストと、始め方のステップ
「インナー → アウターが基本」――とはいえ、
すべての会社が一律にそうするべきとは限りません。
いま、自社はどちらを優先すべきか?を見極める、簡易チェックリストを用意しました。
インナーから始めた方がいいサイン
- 社員が自社の強みや価値観をうまく説明できない
- ブランドスローガンや理念が形だけになっている
- 採用者から「聞いていた会社と違う」と言われたことがある
- 社内での情報共有がバラバラ、部門ごとに温度差がある
- 社員同士で「うちってどんな会社?」という問いに答えが割れる
アウターから先行してもよいパターン
- 直近で採用や事業拡大など、対外発信が急務になっている
- 社員数が少なく(10〜20名など)、全員で理念を共有できている
- 既に一定の共通認識があるが、見せ方・伝え方が弱いと感じている
※この場合も、「発信の中身」が社内に共有されていることが前提です。
では、最初の一歩は何か?
まずは社内でこんな問いを投げかけてみてください。
「うちって、どんな会社だと思う?」
「どこが他と違うと思う?」
「それって、他の人にも伝えたいと思える?」
この問いを上司→部下ではなく、全員がフラットに語り合える場にすることが大切です。その言葉のなかに、ブランドの芯が見えてきます。
インナーは理念研修や浸透施策だけではありません。「うちの良さ」を再確認し、社員自身が納得して語れるようになること。それが、ブランドの土台になります。
順序は戦略。ブランディングは社内の空気づくりから
インナーブランディングとアウターブランディング、どちらが先か。
答えはシンプルです。
「中が整っていないのに、外を飾っても意味はない」―むしろ、逆効果になることすらあります。
ある程度の期間、事業を続けてきた会社なら、必ず何かしらの良さがあります。
まずは社員が、
「うちって、突き抜けてはいないけど、案外いい会社かも」
と自然に思えること。
それが、やがて発信になり、人に伝わり、共感を生んでいきます。
ブランドは、刹那的な広告のように「作る」ものではありません。内側からにじみ出る「らしさ」を表現するもの。その一歩目は、派手な施策じゃなくていい。
「うちの良さって、なんだろう?」
「なぜ、うちは顧客から支持されているんだろう?」
その問いを、社員同士で語るところから、すべてが始まります。
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