コラム(ブランディング)
ブランディング 2025年6月19日
インターナルブランディング社内浸透の極意。社員が自分ゴト化する5つの問い
「インターナルブランディング(社内浸透)の本質は、社員一人ひとりのなかにあるということ」
インターナルブランディングや社内浸透に取り組む企業が増えるなか、ロゴやスローガンをただ社内外に刷り込むだけでは真の共感は生まれません。
まず問うべきは、
「自社のめざす姿(ブランドステートメント)は、社員たちが大切にしている価値観とどう重なるのか?」
これこそがインターナルブランディング/社内浸透のスタートラインです。
本コラムでは、社員たちが自分自身の「芯」と会社のあるべき姿をつなぎ、自分ゴトとしてブランドを育むための第一歩を具体的にご紹介します。
執筆した人:平田弘幸
株式会社フレイバーズ代表取締役。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会・認定コンサルタント(インターナルブランディング)、ブランドマネージャー(1級)。大手電機メーカーで国内外の営業、企画を15年間経験した後、フレイバーズ設立。製造業での知見を活かし、中小企業のブランディングに強み。
1.自分が大切にしている価値観は何か?
インターナルブランディング/社内浸透の取り組みを始める前に最初に問いたいのが、「自分が大切にしている価値観は何か?」というシンプルだけれど深い問いです。なぜこれが重要かというと、どれだけ会社が美しいビジョンやステートメントを掲げても、社員一人ひとりが自分の「芯」と結びつかなければ、真の共感にはつながらないからです。
まずは個人ワークとして、自身のキャリアや日常で「これぞ自分らしい」と感じた瞬間を3つピックアップしてもらいましょう。
たとえば、
「チームをまとめるときに、みんなの意見を丁寧に拾い上げること」
「締め切り前の忙しさを逆手に取って、効率的な進め方を編み出すこと」
など、自分が熱中し、誇りを感じた体験を書き出します。それらを眺めながら、共通するキーワードを抽出する。これが、自身の大切にしている価値観(=芯)を言語化するプロセスです。
次に、そのキーワードをペアシェア(2人1組で互いの考えを共有する手法)で持ち寄ります。相手の価値観を聞くことで「自分にはなかった視点」や「思いがけず重なる部分」に気づき、対話を通じて互いの理解を深めます。このフェーズは、単なるワークショップではなく、インターナルブランディングを社内に浸透させるための「対話の起点」になります。
こうして浮かび上がった「自分の芯」は、後の「ブランドステートメントを自分ごと化する」ワークでも大きな役割を果たします。自分の価値観がはっきりすると、自然と「会社の目指す姿」との接点が見えてきて、社内浸透の土台がぐっと強固になるのです。
2. ブランドステートメントは自分にどう響くか?
この問いは、「押し付けられた言葉」ではなく、自分自身がステートメントをどう受け止め、腹落ちしたかを確かめるフェーズです。まずは小グループでブランドステートメントを音読し、その響きを体感してみましょう。
それから、それぞれが「響いたキーワード3つ」と「違和感を覚えた言葉1つ」を付箋に書き出し、ホワイトボードに貼り出します。異なる解釈が並ぶことで、ステートメントへの感じ方の多様性が浮かび上がり、お互いの視点を尊重しつつ「本当に伝えたい意図」は何かをすり合わせることができます。このプロセスを経ることで、ステートメントは単なる社内スローガンではなく、一人ひとりの行動指針として内面化されていきます。
また、このワークを円滑に進めるためにはファシリテーターの役割も重要です。発言が偏らないよう、あらかじめタイムボックス(あらかじめ作業時間を区切り、その枠内で集中する手法)を設定し、全員に発言機会を与えましょう。加えて、「正解・不正解」を求める場ではないことを強調し、安心して意見を出せる心理的安全性を担保することが肝要です。
最後に、グループディスカッションで出た気づきは1on1面談などでフォローアップし、個々のフィードバックとして還元することで、ブランドステートメントが日々の業務にしっかり根づいていきます。
3. このステートメントを、日々の業務にどう適用できるか?
抽象的なブランドステートメントを具体的な行動に落とし込むためのフェーズです。まずは一人ずつ5分間で「自分の担当業務×ステートメント」のアイデアを紙やオンラインに書き出し、その後チームでシェアします。
具体例:業務改善に取り組む
- 「すべての瞬間に、意味を。」を体現するには、小さな無駄を見つけて排除し、意義ある仕事時間を増やすことも有効です。
- 各自が「ここを改善すれば、お客様やチームの体験がもっとスムーズになる」プロセスを1つ挙げてみる。
- 例)申請フローの承認ステップを2段階から1段階に削減する、定例報告のフォーマットを統一して手戻りを減らす、など。
アイデアが出そろったら、付箋やリストで可視化し、投票やシンプルな評価基準(実現しやすさ/インパクト)で試験運用したい案を2~3を選定。選ばれた改善策は、次週の1on1やチームミーティングで「いつ・誰が・どう試すか」をコミットし、実践および振り返りを行うことで、ステートメントが「自分ごと」として根づいていきます。
4. 過去の成功体験で、このブランドらしさを感じた瞬間は?
この問いは、実際の経験に立ち返ることで「ブランドらしさ」の具体像を肌感覚でつかむフェーズです。まずは3分間で、社内外問わず自分が関わったプロジェクトや日常業務のなかから、「あのとき、この会社の価値観が発揮された」と感じた成功体験を一つ選んでメモにまとめます。
その後、ペアもしくは小グループで順にストーリーテリング。話し手は「何が起きたか」「どの言動や判断がらしさを生んだか」を語り、聞き手は深掘りの質問をしてエッセンスを引き出します。
最後に、ホワイトボードやオンライン付箋に「らしさを支えた要素」を図示し、チームで共有。こうして言語化・可視化された実例集が、社内のナレッジベースとなり、新たな施策や日々の判断の参考になります。
5. 自分がこのブランドを体現するための、具体的な次の一歩は何か?
この問いでは、ワークを“振り返り”で終わらせず、必ず「行動」につなげることを狙います。まずは各自が一歩踏み出せる“小さなアクション”を考え、書き出しましょう。
例としては、
- 来週のミーティング冒頭で、ブランドステートメントに沿った発言を必ず1回行う
- 日報や報告書で「すべての瞬間に、意味を。」を意識したコメントを1つ以上入れる
- 社内チャットで、同僚が体現したブランドらしさを見つけたら称賛メッセージを送る
次に、上長との1on1で「いつまでに何を行うか」をコミットし、カレンダーに予定を入れます。さらに、月次ミーティングやチームチェックイン(定例会議の冒頭で、各メンバーが進捗や気づきを1~2分で共有し、状況把握と心理的安全性を高める時間)で「実践できたか」「何を学んだか」を3分間で共有する場を定期化。これにより、個人 → チーム → 全社へとアクションが連鎖し、PDCAサイクルを回しながら「インターナルブランディング」が日常業務として定着していきます。
インターナルブランディング社内浸透の極意
内発的動機が出発点
社員一人ひとりが自分の“芯”を言語化し、「会社のビジョンとどう重なるか」を自分ごととして捉えることが、真の社内浸透(インターナルブランディング)を生み出す。
5つの問いで腹落ちを促す
- 私が大切にしている価値観は何か?
- 会社のビジョン(ブランドステートメント)は私にとってどう響くか?
- このステートメントを、日々の業務にどう適用できるか?
- 過去の成功体験で、このブランドらしさを感じた瞬間は?
- 私がこのブランドを体現するための、具体的な次の一歩は何か?
ワークの設計ポイント
- 対話と振り返り(ペアシェア/小グループで感想共有)
- 具体化→コミット(アイデア出し→行動計画)
- フォローアップ(1on1・チームチェックインで進捗&学びをシェア)
日常業務へ落とし込む
業務改善やミーティング発言、チャットでの称賛など、小さなアクションを積み重ねることで、「すべての瞬間に、意味を」というブランドステートメントが日々の行動指針となる。
これらを継続的に回し続けることで、「ブランドは社内で育つ」という状態をつくり、「インターナルブランディング」による真の社内浸透が実現します。
インターナルブランディングは、一度ワークを回しただけでは成果は見えにくく、むしろ時間をかけて何度も実践し続けることこそが真の力になります。継続的な対話とフィードバックのサイクルを回しながら、社員一人ひとりの共感が少しずつ深まり、その積み重ねがやがて揺るぎない強いブランドを築き上げ、ひいては良い会社づくりにつながっていくのです。