コラム(ブランディング)
ブランディング 2025年7月17日
営業に効くBtoBブランディング。指名・信頼・単価を引き上げる仕組みとは
執筆した人:平田弘幸
株式会社フレイバーズ代表取締役。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会・認定コンサルタント(インターナルブランディング)、ブランドマネージャー(1級)。大手電機メーカーで国内外の営業、企画を15年間経験した後、フレイバーズ設立。製造業での知見を活かし、中小企業のブランディングに強み。
本記事で分かること
BtoB企業が「この会社なら任せられる」と思われるには信頼が不可欠。そのための5つの実践視点を解説します。①優位性の明確化、②顧客中心のコミュニケーション、③一貫性あるブランド体験、④自社らしいストーリー、⑤デジタル可視性の最適化──これらを実践することで、他社と差がつくブランド構築が可能になります。
BtoBブランディングが機能していない会社に共通する3つの営業課題
BtoB営業の現場では、日々多くの努力が積み重ねられています。
しかし、いくらがんばっても思うように新規開拓が進まず、手応えを感じられない。そんな状況に悩まれている企業も少なくありません。
実は、そうした企業にはいくつかの共通点があります。
ここでは、新規営業がうまくいかない会社にありがちな3つの課題を挙げてみましょう。
1. 価格で比較されて終わる
どれだけ丁寧に提案しても、最終的に価格だけで判断されてしまう。
そんな経験はありませんか?
提案の中身よりも、数字の大小だけで他社と比べられてしまう場合、顧客にとっては「どこから買っても同じ」に見えている可能性があります。
2. 決裁者にたどり着けない
営業担当者とはスムーズに会話ができても、なかなか決裁者のもとに話が届かないというケースも多いのではないでしょうか。
稟議の途中で止まってしまう、上司にうまく説明してもらえない。
この背景には、「この会社に任せて大丈夫」という信頼感が社内で共有されていない、つまりブランドが社内に届いていないという課題が潜んでいます。
3. 提案の内容が埋もれてしまう
自社なりの強みや工夫を盛り込んだ提案なのに、「他社とあまり変わらないですね」と言われてしまうことはありませんか?
それは提案そのものではなく、会社全体としての見え方がぼやけているのかもしれません。
「この会社なら任せたい」と思っていただくには、提案書の中身だけでなく、その背後にある企業としての価値・印象が大きく影響します。
営業が成果を出すためには、商談の現場だけでなく、その前段階でどれだけ信頼を得られているかが大きく関わっています。
このような悩みを抱える企業こそ、いま一度「ブランディング」という視点を取り入れてみることで、
営業活動そのものが大きく変わる可能性があります。
なぜBtoBブランディングが営業に効くのか?
営業活動は、単に商品のスペックや価格を伝えるだけでは成果につながりません。とくにBtoBの場合、信頼や組織的な意思決定が大きく影響します。
ここで重要になるのが、「企業としての見え方」、つまりBtoBブランディングです。
BtoBブランディングは、企業の認知や印象、安心感を通して、営業活動のあらゆる局面に影響を与えます。なぜ営業にブランディングが必要なのか、3つの理由から見ていきましょう。
1. 覚えてもらえる企業は、自分たちの「価値の源泉」を伝えている
中小企業や無名ブランドの場合、どれだけ頑張っても大企業のように広く知られることは簡単ではありません。広告費をかけられるわけでもなく、メディアに露出する機会も限られています。
しかし、それは不利というより、「見せ方次第」の話です。
たとえば、これまで取引してきた顧客がなぜ自社を選び、なぜ継続して付き合ってくれているのか。
その納得感のある理由や信頼の背景を、丁寧に見せるだけでも十分なブランドになります。
「この分野に強い」「対応が早い」「人が信頼できる」・・・
現場では当たり前と思っていたことが、実はブランドの核になります。知られていることよりも、“なぜ選ばれているか”を言語化し、表に出すことが大切なのです。
結果として、それが見込み客の記憶に残り、商談での第一印象にもつながります。
2. 信頼される企業は、決裁者が動いてくれる
営業現場でよくあるのが、「提案内容には手応えがあるのに、なぜか止まってしまう」という状況です。担当者の反応は悪くない。それなのに、最終的に失注してしまう。この原因の多くは、決裁者にうまく伝わっていないという点にあります。
そしてもう一つ、大きな壁になるのが「知らない会社だから不安」という心理です。
どれだけ合理的な提案でも、社内で話が通るためには、相手企業に対する安心感や信頼感が必要になります。ここで効いてくるのが、BtoBブランディングの力です。
たとえば、
- 実績ページに取引先の社名が明記されている
- 導入事例に具体的な成果が載っている
- 会社の理念や姿勢が明文化されている
- トップメッセージが掲載されている
といった情報が整っていれば、提案を受け取る側も「この会社に任せても問題ない」と思いやすくなります。それはつまり、稟議が通りやすくなる状態を自ら作っているということです。
営業だけで到達できない階層に対しても、ブランドが後押ししてくれる。
BtoBブランディングは、そうした「営業の届かない場所」に信頼を運ぶツールとして機能するのです。
3. 単価を守れる企業は、価値で勝負している
BtoBの営業現場では、「最後は価格で決まる」と感じている方も多いのではないでしょうか。とくに競合が多い業界や、製品やサービスに大きな違いが見えにくい分野では、つい価格で勝負するしかない状況に追い込まれがちです。
しかし、毎回のように値引きや価格調整を求められていては、利益を確保するどころか、営業のモチベーションも保てなくなってしまいます。
そこで必要になるのが、価格以外の「選ばれ続ける理由」を確立すること。
それこそが、ブランディングの役割です。
- この会社は、提案のクオリティが高い
- 導入後のサポートが手厚い
- 担当者が信頼できる
- 長期的な付き合いができそう
こうした“なんとなくの安心感”や“誠実な印象”が積み重なることで、顧客は「少し高くても、この会社にお願いしたい」と感じるようになります。
つまり、BtoBブランディングによって企業の“価値”が伝わっていれば、価格が主な判断軸になりにくくなるのです。
単価を守れる企業とは、あらかじめ「この会社には価格以上の価値がある」と認識されている企業。それを実現するのが、日々の営業活動に並走するブランドの力なのです。
営業を強くするブランディング施策5選
ここまでお伝えしてきたように、BtoBブランディングは営業活動を支える土台になります。では実際に、営業の現場で効果を発揮するブランディング施策にはどのようなものがあるのでしょうか。
ここでは、取り組みやすく、かつ成果に直結しやすい5つの施策をご紹介します。
1. 提案資料に一貫性を持たせる
提案書や営業資料は、単なる説明のための道具ではありません。そこには会社の考え方やスタンスがにじみ出ます。だからこそ、色使いやフォント、言葉のトーン、構成のリズムなどを整えることで、営業担当者が発するメッセージに説得力が加わります。
また、部署や担当者ごとに資料の見せ方がバラバラだと、お客様にとっては一貫性のない会社に映ってしまいます。
ブランドとしての印象を統一するには、提案資料から整えることが第一歩です。
2. 導入事例を営業の「武器」に変える
営業トークの中で、最も説得力を持つのが「他社での成功事例」です。
お客様と同じ業界や規模、課題を持っていた企業が、どのように導入し、どんな成果を得たのか。このようなストーリーは、共感と安心を生み出します。
単に「〇〇社に導入されています」と表記するのではなく、背景・課題・解決策・結果の流れが伝わるような形式にすることで、営業の現場でも活用しやすくなります。
すでにある取引の中に、営業に効く事例のタネが眠っていないか、ぜひ見直してみてください。
3. 営業とWebサイトの連動を強化する
Webサイトが「名刺代わり」で止まっていませんか?近年では、商談前にほとんどのお客様がサイトをチェックしています。その際、サービス内容が分かりにくかったり、雰囲気に一貫性がなかったりすると、せっかくの営業活動が台無しになってしまいます。
理想的なのは、営業資料とWebサイトの内容やトーンが自然につながっている状態です。たとえば、提案書で紹介した導入事例を、サイト上でもすぐに確認できるようにしておくと、信頼感が増します。
営業とWebサイトは別々ではなく、一体で動くブランド接点と考えることが重要です。
4. SNSで会社の中身を見せる
BtoB企業であっても、SNSは十分に活用できます。とくに、決裁者層が利用しているLinkedInや、企業の「中の人」としての発信がしやすいXなどは、企業の考え方や姿勢を伝えるのに適した場です。
サービスの話をするだけでなく、社員の取り組みや価値観、日々の業務の様子などを発信することで、
企業としての温度感や人柄が伝わります。
情報があふれる今の時代だからこそ、中小企業の“人間らしさ”がブランドになることもあります。
5. 展示会やイベントで印象を残す工夫を
展示会やリアルイベントは、お客様と直接会える貴重な場です。しかし、名刺交換だけで終わってしまえば、ほとんど印象に残りません。
大切なのは、短時間でも「この会社、なんかいいな」と思ってもらえる工夫をすることです。
たとえば、
- 配布資料にストーリーや実績を載せる
- ブースのメッセージやカラーにブランドトーンを反映させる
- フォローアップメールや小冊子で記憶をつなぐ
展示会は商談の入り口であると同時に、「ブランドを感じてもらう場」でもあります。
このような小さな取り組みを積み重ねることで、営業活動はよりスムーズになり、無理な売り込みをしなくても選ばれる状態がつくれていきます。
次のセクションでは、実際にBtoBブランディングに取り組んだ企業が、営業成果をどう変えたのかをご紹介します。
事例:ブランディング導入で営業が変わった会社
ここでは、実際にBtoBブランディングに取り組むことで営業成果を向上させた3つの企業の例をご紹介します。いずれも、営業がつらいと感じていた企業が、ブランディングによって状況を変えていったケースです。
1. ITサービス企業:営業資料を見直して指名数が倍増
社員数30名ほどのITサービス企業では、受託開発の提案営業に課題を抱えていました。
サービスそのものに強みはあるものの、競合と比較されると「特徴が伝わりづらい」と言われ、なかなか受注につながらない日々が続いていたそうです。
そこで取り組んだのが、提案資料の見直しと一貫したブランドトーンの整備です。
過去の成功事例を構造化し、自社の得意領域を明確にしたうえで、提案書の構成や表現を統一しました。あわせて、営業メンバー向けのトークガイドも整備しました。
その結果、指名での問い合わせが以前の2倍に増え、営業担当者からも「説明がしやすくなった」「価格を下げずに提案できるようになった」との声が上がっています。
2. 製造業の部品メーカー:Webと営業連携で単価アップ
創業40年の部品メーカーでは、長年の実績はあるものの、新規開拓が難航していました。
商談ではいつも「まずは見積もりを」と言われ、価格競争になってしまうことが悩みの種でした。
そこで始めたのが、導入事例の再編集とWebサイトの構成改善です。これまで対面営業だけで語っていた事例を、業界別・課題別に整理し、写真やインタビュー形式でWebに掲載。営業資料とも連動させることで、商談前から価値が伝わるように設計しました。
導入後は、「他社と何が違うのかが分かりやすい」と言われる機会が増え、最終的には平均受注単価が約1.3倍に上がったそうです。
3. SaaS系スタートアップ:SNSと営業トークの一貫性で商談率アップ
立ち上げ5年目のSaaSスタートアップは、知名度不足による営業難に悩んでいました。
メール営業や電話フォローを繰り返しても、商談に至らないことが多く、受注までのリードタイムも長い状態でした。
その課題を受けて、会社の思想やカルチャーを発信するSNS運用を開始。社長・営業・マーケが連携し、LinkedInで実名投稿を続けることで、企業としての「顔」が見えるようにしました。加えて、提案資料やWebのメッセージも統一し、営業トークに一貫性を持たせました。
結果として、商談時の信頼構築が早まり、決裁者との面談率が上昇。営業プロセス全体が短縮され、受注スピードも向上しました。
このように、BtoBブランディングの施策は、決して大がかりなものでなくても効果があります。大切なのは、自社の強みを言語化し、一貫性を持って伝えること。それによって、営業はよりラクに、より戦略的に成果を出せるようになるのです。
営業を強くしたいなら、ブランディングを見直すことから
営業がうまくいかない原因を、営業力や個人の努力にだけ求めていないでしょうか。
実際には、もっと根本的な課題「企業としての見え方が整っていない」ことが、新規開拓のつまずきや、価格競争から抜け出せない要因になっているケースが少なくありません。
ブランディングというと、大企業のもの、高額な広告戦略というイメージを持たれることもあります。
ですが、BtoBの現場においてはむしろ、中小企業こそブランディングが効きます。
- 知名度がなくても、選ばれている理由を伝える
- 規模が小さくても、信頼される情報設計をする
- 価格で勝負しなくても、価値で選ばれる状態をつくる
これらはすべて、ブランディングの力で実現可能です。
- 営業をもっと前に進めたい。
- 単価を落とさずに受注したい。
- 資料を整えたいけど、何から手をつけるべきか分からない。
そんなときこそ、営業とブランディングをつなぐ設計を見直してみませんか?
ご相談・ご支援について
フレイバーズでは、BtoB企業のブランディング支援を通じて、営業成果につながる実践的な改善を多数ご支援しています。
- 営業資料・提案書の見直し
- Webサイトと営業活動の連動設計
- 事例コンテンツの編集と活用支援
- SNSや展示会での印象戦略設計
など、企業ごとに最適な取り組みをご提案しています。
営業がつらい。だけど、売れる会社にしたい。そのための第一歩として、ぜひお気軽にご相談ください。