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インナーブランディングとアウターブランディング、どちらが先?順番の正解と失敗しない進め方

 

平田弘幸

執筆した人:平田弘幸

株式会社フレイバーズ代表取締役。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会・認定コンサルタント(インターナルブランディング)、ブランドマネージャー(1級)。大手電機メーカーで国内外の営業、企画を15年間経験した後、フレイバーズ設立。製造業での知見を活かし、中小企業のブランディングに強み。

本記事で分かること

インナーブランディングとアウターブランディング、どちらを先に進めるべきか。この問いに対し、本記事では順序の基本原則と、実務での判断基準をわかりやすく解説します。
中小・中堅企業の採用現場で起きがちな「順番ミス」の実例を交えながら、社内の空気づくりがいかにブランドの核となるかを提示。インナーとアウターの違い、順序の判断軸、そして取り組みを始めるための具体的な第一歩まで、実践的に学べます。

インナーとアウター、どっちからやるべき?という迷い

「ブランドを整えたい」「発信を強化したい」―そう考えたとき、必ず出てくるのがこの問いです。

インナーブランディングとアウターブランディング、どちらを先にやるべきか?

多くの企業が、まずアウター(=外向けの発信)に手をつけがちです。
でも、インナー(=社員や社内の共通認識)を置き去りにしたまま発信すると、逆効果になることも。

たとえば、
「あなたのために精一杯働きます」と広告でうたっているお店に入ったら、店員の態度がつっけんどんだった。そんな経験はありませんか?

外で語っていることと、中で実際に起きていることにズレがあると、ブランドへの信頼は一気に冷めてしまいます。

この記事では、

  • 「インナーとアウター、どちらを先にやるべきか」
  • 「順番を誤ると何が起きるのか」
  • 「中小・中堅企業が取るべき、現実的な進め方」

を実例を交えて解説。採用、社内の空気、発信力―すべては「順番」から変わり始めます。

インナーブランディングとアウターブランディングの違いとは?役割と目的を整理

「インナーが社内向けで、アウターが社外向け」
それだけで済ませてしまう説明もありますが、実際はもっと「目的」と「使いどころ」が違います。

 

■ インナーブランディングとは?

社員一人ひとりが、会社やブランドの「らしさ」を理解し、納得し、自分ごととして体現できる状態をつくること。

  • 何をたいせつにしている会社なのか
  • なぜそれをやるのか
  • 自分たちはどこに向かっているのか

こうした価値観や方向性を、トップダウンでもボトムアップでも社内に共有・浸透させる取り組みがインナーブランディングです。

 

■ アウターブランディングとは?

ブランドの価値や姿勢を、社外に向けて発信し、理解・共感してもらうための取り組み。

  • 採用広報
  • SNSやWEBでのブランディング
  • 広告やプロモーション

すべては「自社の魅力」を、ターゲットにどう伝えるか、という設計と運用の話です。

 

■ どちらかではなく、「順序と連動」がカギ

インナーとアウターは、どちらか一方が正解ではありません。中と外をどう連動させるか。そして、どちらを先に整えるべきか。これが成果を分けるポイントです。

結論:インナー → アウターが基本。でも例外もある

原則として、インナーブランディングが先。アウターブランディングはそのあとです。理由はシンプル。中で語れないことを、外で語っても響かないから。

たとえば、自社の強みや価値観を社員が理解していないのに、外に向かって「うちは○○な会社です」と発信しても、どこか薄っぺらく聞こえてしまう。

それどころか、発信内容と実態にズレがあると、信頼を失いかねません。これは採用でも、顧客対応でも、取引でも同じです。

 

でも、すべての企業がインナーから始められるとは限らない

とはいえ、現実には「今すぐ採用を強化したい」「事業を広げたい」というタイミングもあります。そんなときは、アウターを先に走らせながら、インナーを追いつかせるという選択も現実的です。

ただし、この場合は「中と外の整合性」を意識しながら進めることが重要です。発信を始めたあとに、社員が「そんなこと言ってたっけ?」とならないよう、最低限の認識合わせは同時に動かすべきです。

インナーとアウター、どちらか一方では足りない。でも、順序を間違えると、結果がついてこないのはほぼ間違いない。だからまずは、社内での理解と納得をつくるところから始めるのが王道です。

中小企業の採用現場から見えた、順番ミスのリアル

◆ 事例A:社員60名の製造業

ある地方の製造業A社は、慢性的な人手不足に悩んでいました。そこで、まずは“見せ方”から変えようと、採用サイトやパンフレットを刷新。若手社員のインタビューやスタイリッシュなデザインで「挑戦できる職場」と打ち出しました。

結果、応募は増えたものの
入社後の早期離職が相次ぎました。

面談で聞こえてきたのは、
「イメージと実態が違った」
「結局、やることも進め方も前時代的だった」

原因は、インナー=社員の認識や文化が置き去りにされたまま、外向けだけを磨いたこと。社員自身が会社を「挑戦できる場」だと捉えていないのに、それを前面に押し出したことで、ギャップが大きなマイナスになってしまったのです。

 

◆ 事例B:社員40名のIT企業

一方、大都市圏のIT企業B社では、採用を強化する前にインナーから着手しました。

まず社内で「自社のらしさ」を洗い出し、価値観を言語化。その内容を、社員全員が自分の言葉で語れるようにワークショップを重ねました。

その後に始めた採用広報では、社員自身がブランドを自然に語る姿がSNSや説明会で発信されました。結果、応募者の質が上がり、入社後のミスマッチも激減。リファラル採用も増え、社内の雰囲気自体が少しずつポジティブに変わっていきました。

インナー→アウターの順で丁寧に設計したことで、「伝える」だけでなく、「伝わる」採用が実現した例です。

「うちの会社、案外いいかも」という再発見が自信を生む

インナーブランディングに取り組むとき、よくある反応があります。
社員がこう言うんです。

「こんなこと、ちゃんと考えたことなかったけど…」
「うち、意外とちゃんとしてるじゃん」
「これ、もっと発信してもいいかもね」

普段の仕事では埋もれがちな“会社の良さ”を言葉にすると、社員は少し自信を持てるようになります。それは派手な変化ではありませんが、確実に「社内の空気」を変えていきます。

この状態が続くと、

  • 社員が自然と知人を誘うようになり(=リファラル採用)
  • 社外の人にも「なんか感じがいい会社だな」と伝わるようになります

つまり、社員の内側から始まった“ブランドの芯”が、外にじわじわとにじみ出ていく。この状態になれば、アウターブランディングは“盛る”必要がありません。ただ、ありのままを発信するだけで伝わるようになります。

もちろん一度やっただけで終わり、ではありません。定期的に「うちの良いところって何だっけ?」を言語化し直し、共有し、アップデートし続けることで、ブランドは「社員ごとの実感」として根を張っていきます。

ブランディングの順序を見極めるチェックリストと、始め方のステップ

「インナー → アウターが基本」――とはいえ、
すべての会社が一律にそうするべきとは限りません。
いま、自社はどちらを優先すべきか?を見極める、簡易チェックリストを用意しました。

 

インナーから始めた方がいいサイン

  • 社員が自社の強みや価値観をうまく説明できない
  • ブランドスローガンや理念が形だけになっている
  • 採用者から「聞いていた会社と違う」と言われたことがある
  • 社内での情報共有がバラバラ、部門ごとに温度差がある
  • 社員同士で「うちってどんな会社?」という問いに答えが割れる

インターナルブランディング

 

アウターから先行してもよいパターン

  • 直近で採用や事業拡大など、対外発信が急務になっている
  • 社員数が少なく(10〜20名など)、全員で理念を共有できている
  • 既に一定の共通認識があるが、見せ方・伝え方が弱いと感じている

※この場合も、「発信の中身」が社内に共有されていることが前提です。

では、最初の一歩は何か?
まずは社内でこんな問いを投げかけてみてください。

「うちって、どんな会社だと思う?」
「どこが他と違うと思う?」
「それって、他の人にも伝えたいと思える?」

この問いを上司→部下ではなく、全員がフラットに語り合える場にすることが大切です。その言葉のなかに、ブランドの芯が見えてきます。

インナーは理念研修や浸透施策だけではありません。「うちの良さ」を再確認し、社員自身が納得して語れるようになること。それが、ブランドの土台になります。

順序は戦略。ブランディングは社内の空気づくりから

インナーブランディングとアウターブランディング、どちらが先か。
答えはシンプルです。
「中が整っていないのに、外を飾っても意味はない」―むしろ、逆効果になることすらあります。

ある程度の期間、事業を続けてきた会社なら、必ず何かしらの良さがあります。
まずは社員が、
「うちって、突き抜けてはいないけど、案外いい会社かも」
と自然に思えること。

それが、やがて発信になり、人に伝わり、共感を生んでいきます。

ブランドは、刹那的な広告のように「作る」ものではありません。内側からにじみ出る「らしさ」を表現するもの。その一歩目は、派手な施策じゃなくていい。

「うちの良さって、なんだろう?」
「なぜ、うちは顧客から支持されているんだろう?」

その問いを、社員同士で語るところから、すべてが始まります。

 
 

社員の意識と行動が変わる!社内ブランディング成功の進め方とつまずきやすいポイント
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中小製造業の製品ブランディング4手法。「あの会社に頼みたい」を引き出そう。

中小製造業の工場を見下ろす経営者中小企業、とくに製造業では「良いモノを作れば売れる」という考えが根強く残っています。製品の品質やスペックを高めることに全力を注ぐ一方で、「自社の製品が顧客にとって何をもたらすのか」という視点を持つことを忘れてしまいがちです。
しかし、どれだけ高性能な製品でも、顧客がその価値を実感できなければ、選ばれることはありません。本コラムでは中小企業の製品ブランディングをテーマに、なぜ自社製品の「意味」や「価値」を明確に伝えることが重要なのか、そしてそれをどう実践するかについて具体的に解説していきます。製造業の中小企業だからこそできる、本質的なブランディングの方法をお伝えしていきます。

平田弘幸

執筆した人:平田弘幸

株式会社フレイバーズ代表取締役。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会・認定コンサルタント(インターナルブランディング)、ブランドマネージャー(1級)。大手電機メーカーで国内外の営業、企画を15年間経験した後、フレイバーズ設立。製造業での知見を活かし、中小企業のブランディングに強み。


本記事で分かること

本記事では、中小製造業が「品質がいいのに選ばれない」という壁を超え、顧客に“あの会社に頼みたい”と思われるためのブランディング手法を4つ紹介します。価格やスペックではなく、自社の価値をしっかり伝え、指名されるブランドになるための考え方と実践例をわかりやすく解説。差別化が難しいと感じている方こそ読んでほしい内容です。


 

なぜ中小企業に製品ブランディングが必要なのか

大企業とは異なり、中小企業は宣伝費や知名度において不利な立場にあります。こうした状況であっても他社製品との差別化を図り、永続的に事業を発展させていかねばなりません。そのためには、製品そのものに「ストーリー」や「信念」を乗せて発信する必要があるのです。
つまり、「何を作っているのか」ではなく、「なぜそれを作るのか」「どんな価値を届けたいのか」という部分を伝えるのが、製品ブランディングの本質です。
製品ブランディングを強化することで、価格競争に巻き込まれるリスクも減らせ、顧客は単なる「モノ」としてではなく、「このブランドだから買いたい」と感じるように。これは中小企業にとって非常に大きな武器となることでしょう。

 

中小企業が陥りがちなブランディングの誤解

ロゴマークのVIを作るデザイナーの手元「ブランディング=おしゃれなロゴやパッケージデザイン」と誤解しているケースが少なくありません。もちろんビジュアル面も重要ですが、それはあくまで表層部分。根本は「自社製品が誰にとってどんな意味を持つのか」を明確にし、それを一貫して伝えることにあります。
また、すべてを完璧に整えようとしてスタートが遅れるのもよくある問題です。中小企業に求められるのは、まず自分たちの強みや思いを素直に言葉にし、それを市場にぶつけてみる行動力です。
短いサイクルでトライ&エラーを繰り返せるのが中小企業の強み。経営者が陣頭指揮をとり、新たな局面を模索することを始めましょう。

 

中小企業が製品ブランディングを始めるためのステップ

ここからは具体的なステップについて見ていきましょう。

 

1.ターゲットを明確にする

訴求するターゲットを誰にするか考える担当者誰に向けて製品を届けたいのかをはっきりさせます。どのような人が自社製品の導入を検討してくれそうか。
年齢、性別、ライフスタイル、価値観など、できるだけ具体的にイメージします。ここでのポイントは、狭くても良いのでターゲットを明確に絞り込むこと。ターゲットを絞り込んだとしても、自社の売上は大企業ほど大きなものでなくても十分なはず。中小企業だからこそ、広く浅くではなく、狭く深くターゲットを絞り込むことが結果的に効果的なものになります。

 

2.自社の「強み」と「想い」を言語化する

他社と比べて自社製品は何が違うのか、なぜそれを作っているのか、なぜ顧客に届けたいのか。これらをシンプルな言葉でまとめることが大切です。特別な表現はいりません。素直な言葉こそが中小企業の強みになります。
また、長く購買してくれている現在の顧客に、「なぜ自社から買ってくれているのか」を聞いてみましょう。その理由がわかれば、まだ見ぬ顧客にも刺さるポイントが浮かび上がってきます。

 

3.ブランドメッセージを設計する

ターゲットに対して、自社製品がどんな価値を提供できるのかを一言で表せるメッセージを作りましょう。このメッセージは、コンタクトポイント(自社が顧客と接する場所、ツール)WEBサイト、SNS、パンフレット、名刺、事務所などすべての発信活動の軸になります。

 

4.一貫した発信を続ける

ブランドメッセージに沿った情報発信を地道に続けることが重要です。SNSなら、製品開発の裏話、スタッフの想い、お客様の声など、できる限りリアルな情報を発信しましょう。事例は、導入を検討している顧客候補の背中を強く押してくれます。すぐに大きな反響を期待してはいけません。粘り強く発信を積み重ねていくと、ある地点から乗数的に影響力を持つことに気づくでしょう。

製造業のブランディング手法、今日から始める5ステップ

 

中小企業ならではの製品ブランディング事例

例えば、地元の素材にこだわった食品メーカーが「地元の美味しさを全国に届けたい」というメッセージを掲げ、農家との共同開発ストーリーを発信し続けた結果、地域ブランドとしての地位を確立した例があります。
また、小さな工房が「一つひとつ手作業で仕上げる丁寧なモノづくり」を前面に出し、量産品との差別化に成功したケースもあります。
いずれも、特別な広告費をかけたわけではなく、「ほかにはない自分たちの強みを正直に伝え続けた」ことが成功要因です。

 

製品ブランディングを継続するために

ブランディングの計画について、社内で検討中製品ブランディングは一度作って終わりではありません。市場や顧客の変化に合わせて、伝え方を見直したり、新たな価値を提案したりする柔軟さも必要です。小回りが利くのは中小企業の大きな強み。大企業にできないスピード感で変化に対応していきましょう。
また、社員全員がブランドの考え方を共有することも大切です。経営者だけが意識しても、現場がバラバラではブランドイメージは伝わりません。社内ミーティングや勉強会を通じて、製品ブランディングに対する共通認識を持つことをおすすめします。

 

中小企業だからこそできる、強力な製品ブランディングを

製品ブランディングは単なるマーケティングテクニックではなく、企業の存在意義そのものを市場に伝える行為です。限られたリソースでも、強いブランドを築くことは可能です。自社の強みと想いを明確にし、それを一貫して発信し続けることで、価格競争に巻き込まれず、ファンを増やすことができます。
今日からできる小さな一歩として、自社の製品について「誰に、どんな価値を、どう伝えたいのか」を整理してみてください。中小企業だからこそできる製品ブランディングで、未来を切り開いていきましょう。