
社内ブランディング(インナーブランディング、インターナルブランディング)とは、社内に向けて自社のブランドや理念、ビジョンなどを伝える活動のことで、社員のエンゲージメントや生産性、ブランドイメージを向上させるための活動こと。社内における一体感(全社が同じ目標を持ち、理想の姿の達成に向けて各担当業務を実行)の創出、社員のロイヤリティ向上、競合他社との差別化戦略を実現するために行います。
社内ブランディングの実施は社外向けのブランディングとは異なり、対象が社員(人)となるため、難しい面も多々出てきます。しかし、これを実現しない限り社外向けのブランディングが成功するわけはなく、ブランディングにおいて最も注力すべきことだといえます。
執筆した人:平田弘幸
株式会社フレイバーズ代表取締役。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会・認定コンサルタント(インターナルブランディング)、ブランドマネージャー(1級)。大手電機メーカーで国内外の営業、企画を15年間経験した後、フレイバーズ設立。製造業での知見を活かし、中小企業のブランディングに強み。
本記事で分かること
このコラムでは、「社内ブランディング」の基本とその効果、成功のポイントについてわかりやすく解説しています。社員がブランドを正しく理解・共感することで、行動や意識が変わり、組織全体の一体感やパフォーマンスが向上するという考え方がベースです。具体的な取り組み方や、実施時に注意すべき点も紹介されており、これから社内ブランディングを導入・強化したい企業にとって実践的な内容となっています。
なぜ今、インナーブランディングが求められているのか?
2025年4月に閣議決定された「2025年版中小企業白書」では、付加価値に占める人件費の割合(労働分配率)がすでに 約8割 に達しており、中小企業の多くが「賃上げの余力が乏しい」という現実が示されています。
つまり、コスト削減や賃金抑制だけでは持続的な成長は難しく、「付加価値をどう創出するか」「生産性をどう高めるか」という問いが避けて通れません。
このときに鍵を握るのが 社員一人ひとりの意識と行動の変革 です。設備投資やデジタル化だけではなく、企業理念を浸透させ、社員が自らブランド価値を体現する状態をつくること―すなわち「インナーブランディング」が、業績改善と持続的成長の土台になるのです。
社内ブランディングのプロセス
冒頭で述べたように、社内ブランディングの対象は社員。つまり、自社の社員といえども「人」を動かすことになるので、高圧的に指示を出しても上手くいくことはありません。ステップを踏みながら、実行する雰囲気を醸成することが肝要ともいえます。
社内ブランディングを実行する初期の段階から、社員を巻き込みながら自ら考えていく環境を作っていくことがその後の浸透スピードを左右することになります。
1. 自社の現状を把握する
まず自社の強みや弱み、市場でのポジション、社員の満足度やエンゲージメントなどを調査し、自社の現状を把握します。社内外のステークホルダーからのフィードバックや、社内のデータ分析などを活用して、客観的な情報を収集できれば、その後の方向修正が少なくて済みます。
2. 浸透させるべき企業理念やビジョンの検討
次に、自社が目指すべき理想の姿を言語化して明確にします。この段階では、経営理念やビジョン、ミッション、バリューなどを定義し、社員に伝えたいメッセージを整理します。
また、自社のブランドアイデンティティやブランドパーソナリティなどを設定し、自社の特長や個性、風土などを表現します。
3. 具体的な施策を決定する
目標となる理想の姿を実現するために、どのような施策を実施するかを決定します。社員の理解や共感を得るためのコミュニケーション手法やツールを検討し、実行可能なアクションプランを作成します。
また、施策の効果を測定するためのKPIや評価指標を設定し、定期的にモニタリングやフィードバックを行っていきます。
4. 実行・評価・改善を繰り返す
決定した施策を実行し、その効果や反響を評価し、改善を継続していきます。社内報やイントラネット、社内SNSなどのメディアを活用して、経営理念やビジョンなどを社員に伝えます。社内イベントやワークショップなどを開催して、社員の参加や対話を促すことも併せて行いましょう。
社内ブランディングは、一過性の取り組みではなく、繰り返し繰り返し永遠に実施していかねばならない
ものです。社員のニーズや市場の変化に応じて、社内ブランディングの内容や方法を見直し、改善していくことも出てくるはずです。
社内ブランディングと社外ブランディングの違い
対象
社外向けのブランディング(アウターブランディング、エクスターナルブランディング)は、顧客や消費者など、自社の外にいる人たちに向けて行うブランディング。これに対し、社内ブランディング(インナーブランディング、インターナルブランディング)は、社員やパートナーなど、自社の内部にいる人たちに向けて行うブランディングです。
目的
社外向けのブランディングでは、自社のイメージや魅力を伝えることにより、競合他社との差別化やファンの獲得、売上の増加などを目指します。社内向けのブランディングは、企業の理念やビジョン、価値観を伝えることで、社員のエンゲージメントや生産性、ブランドイメージの向上などを目指します。
手法
社外向けのブランディングでは、ロゴやキャッチコピー、広告、PRといった自社の外に向けてアピールするツールを創造し、浸透させていきます。社内向けでは、社内報や社内ポータルサイト、社内イベント、ワークショップなど、社員とのコミュニケーションに重きをおき、深めることを目的とします。
社内ブランディングのメリット
社内の一体感創出
社内ブランディングによって、社員が自社のビジョンや価値観を共有し、それを自らの行動や考え方に反映させることで、社内に一体感が生まれていきます。これは社員のモチベーションや働きがいを向上させ、組織としての協働や団結が促進することにつながります。
従業員ロイヤリティの向上
社内ブランディングによって、社員が企業に対してたくましい忠誠心を持つように。ロイヤリティの高い社員は、自発的に企業のために最善を尽くし、自社がめざす理想の姿を実現するべく、顧客満足度の向上に直結するようなサービスの提供を心がけます。
また、社員が企業に誇りを持つことになるので、その姿勢が顧客にも伝わり、ブランドイメージの向上にも寄与します。
競合他社との差別化につながる
社内ブランディングによって、社員が自社の製品やサービスを積極的に支持し、外部の人々に推奨することができます。これによって、社員自身が強力なマーケティングツールとなるため、広告やプロモーションに費やすコストを削減しながらも、効果的なブランディングを実現することが可能になります。
社内ブランディングを実施する際の注意点
意外なことかもしれませんが、社内ブランディングでは、社員の価値観や感情を尊重する姿勢が大切です。社員という一人の人間を動かすためには、ていねいなコミュニケーションが成果を左右します。逆に、抵抗勢力(現状維持派)は一定期間放置することも考えてください。徹底的に無視するわけではなく。社内が変わりはじめ、ざわついてくると、抵抗勢力も置き去りになるのは嫌なので、気になってくるものです。その機を見計らって賛同者に変化させます。
社内ブランディングは、一過性の取り組みではありません。継続的に行うことで目的を超えていけるようになります。社内ブランディングの効果や反響を定期的に測りながら、フィードバックや改善案を検討し実践することで、施策の効果を高めていきます。
くわえて、社内外のブランドメッセージは統一しておきます。社内で伝えているメッセージと社外で発信するメッセージが矛盾していては社員の混乱、不信を招くことになります。
よくあるご質問(Q&A)
Q1. インナーブランディングとアウターブランディング、どちらを先に進めるべきですか?
A.アウターブランディングは顧客や市場への約束、インナーブランディングはその約束を「社員がどう体現するか」の基盤です。
多くの中小企業で見られる失敗は、広告やSNSで「理想の姿」を外部発信する一方、社内が追いつかず顧客体験と乖離することです。結果、ブランド毀損につながります。
実務的には ①理念の整理 → ②社員への浸透 → ③外部発信 という順序を意識することで、外部発信の説得力が高まり、無理なく成果につながります。
インナーブランディングとアウターブランディング、どちらが先?順番の正解と失敗しない進め方
Q2. インナーブランディングの最初のステップは何ですか?
出発点は「現状の可視化」です。
例えば、社員アンケートで「理念を理解しているか」「会社の強みを説明できるか」を確認すると、浸透度のギャップが明らかになります。
そのうえで、よくあるステップは以下の流れになります。
1.現状把握(理念理解度調査、離職率、エンゲージメント調査など)
2.あるべき姿の設計(理念や行動指針を整理)
3.浸透施策の計画(社内イベント、研修、ビジュアル展開など)
4.定期的な効果測定(KPI設定)
インナーブランディングの第一歩は、いきなり施策に着手することではなく、現状を正しく診断すること。
理念がどの程度浸透しているか、社員が自社をどう理解しているかを把握せずに施策を行うと、効果測定ができず、場当たり的な取り組みで終わってしまうリスクがあります。
私たちは、社員アンケートやインタビューを通じて浸透度を数値化し、課題を明確化する「ブランディング診断」からご支援しています。診断の詳細や実際の支援内容は、こちらのサービスページをご覧ください。
Q3. 中小企業にとってインナーブランディングのメリットは何ですか?
規模が小さい企業ほど「社員の意識と行動」が業績に直結するため、効果が出やすいのが特徴です。
・採用力の強化:社員がブランドを体現している会社は、候補者にとって魅力的に映り、ミスマッチ採用が減ります。
・離職防止・定着率向上:理念に共感して働く社員は、単なる待遇比較で転職を考えにくくなります。
・顧客体験の一貫性:社員が共通認識を持つことで、営業・サポート・現場が同じメッセージを発信でき、リピーターを増やせます。
・業績インパクト:中小企業白書が示す「労働分配率の高さ」という課題に対しても、社員の生産性向上を通じて改善可能です。
Q4. インナーブランディングの成果はどう測定すればいいですか?
「理念浸透の程度」と「業績との相関」の両方を追うのが実務的です。
具体的には、
・社員アンケート(理念理解度・エンゲージメントスコア)
・行動指標(行動指針を体現した事例数、社内提案数、チーム間協働の数)
・人事指標(離職率・定着率、採用内定承諾率)
・業績指標(顧客満足度、リピート率、売上成長率)
重要なのは「単年度で成果を見切らない」ことです。理念浸透は時間がかかるため、定点観測での改善傾向を見ることが成功の秘訣です。
Q5. 予算や人員が限られている中小企業でも、どう始めればいいですか?
高額な研修やイベントをしなくても、まずは小さな工夫から始められます。
・朝礼や全社ミーティングで「理念に基づく行動事例」を共有
・社内掲示物やイントラネットに「行動指針を体現した社員」を紹介
・経営者が日常の会話の中で理念を繰り返し言語化する
こうした日常の積み重ねが、実は最も浸透効果が大きいのです。