コラム(ブランディング)
ブランディング 2026年6月11日
採用ブランディングの進め方|中堅企業が実践すべき6ステップ
「求人を出しても応募が集まらない」「大手からの内定を受けて、うちの内定を辞退された」そんな悩みを抱えている方は、少なくないと思います。
しかし、その原因が、「自社の魅力が求職者に届いていないこと」にあるとしたら、どうでしょうか。
採用ブランディングとは、自社の価値を正しく言語化し、ターゲットとなる求職者に届けていくための取り組みです。知名度では大手に勝てなくても、「この会社でなら、自分らしく働けるかも」と思ってもらえる理由をつくることはできます。
この記事では、採用ブランディングの基本的な考え方から、今すぐ着手できる具体的な進め方まで、一緒に整理していきます。

執筆した人:平田弘幸
株式会社フレイバーズ代表取締役。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会・認定コンサルタント(インターナルブランディング)、ブランドマネージャー(1級)。大手電機メーカーで国内外の営業、企画を15年間経験した後、フレイバーズ設立。製造業での知見を活かし、中小企業のブランディングに強み。
本記事で分かること
採用ブランディングが「採用サイトのデザインを整えること」だけではない理由と、インターナルブランディングから始めるべき本質的な理由がわかります。また、採用に困っている会社が今すぐ着手できる現実的な進め方として、「社内の良さを見つける→外部に訴求する→さらに伸ばす」という3ステップを具体的に解説します。社員インタビューで本音を引き出す質問例や、中堅企業が大手の真似をしてはいけない理由、よくある失敗例と対策も紹介します。
採用ブランディングの「よくある誤解」から始める

採用ブランディングと聞いて、「採用サイトのデザインをきれいにすること」や「求人票の文章を磨くこと」をイメージされる方は多いと思います。
間違いではありません。ただ、それだけでは十分ではないのです。
外部への見せ方を整える取り組みをアウターブランディングと呼びます。求職者に向けて、自社の魅力を発信するための手段です。採用サイト、求人票、SNS、会社説明会。これらはすべてアウターブランディングに属します。
ところが、採用ブランディングにはもうひとつの軸があります。インターナルブランディングです。
インターナルブランディングとは、社員が誇りを持って働ける社風・文化・価値観を設計することを指します。「この会社で働いていて良かった」と社員自身が感じられている状態をつくること、と言い換えてもいいかもしれません。
| 種類 | 内容 | 主な手段 |
| インターナルブランディング | 社員が誇りを持てる社風・文化・価値観の設計 | 社内制度・コミュニケーション・MVV浸透 |
| アウターブランディング | 外部(求職者)への魅力の発信 | 採用サイト・求人票・SNS・説明会 |
なぜインターナルブランディングが重要なのか。それは、求職者が企業を選ぶとき、最終的に何を見ているかと深く関係しています。
給与や福利厚生、仕事内容は、応募する会社の選定を進めるかどうかの入口にすぎません。多くの求職者が最後に問うのは、「この会社で、自分は成長できるか」「自分らしく働けるか」という問いです。
成長できる環境があるかどうか。自分の価値観と合う文化かどうか。そこで働く先輩たちが、イキイキしているかどうか。これらはすべて、インターナルブランディングが整っているかどうかに直結しています。
いくら採用サイトのデザインを磨いても、社内から伝えるべき実態がなければ、求職者の心は動きません。逆に、インターナルが整っていれば、社員の言葉・表情・エピソードが自然と最高のコンテンツになります。
ただし、「まず内側を整えましょう」は現実的ではない場合も
「インターナルブランディングが大切」と言われると、「では社内制度を見直して、文化を変えて……」という大がかりな話に聞こえてしまいます。採用に困っている状況で、そこから始めるのは現実的ではありません。
私たちが考える、現実的な進め方はこうです。
① まず、社内にある「良さ」を見つける
新しく何かをつくるのではなく、すでにあるものを発掘する。
② 外部(求職者)に、そこを訴求する
見つかった良さを言葉にして、採用サイトやメッセージに反映する。
③ その良さを、もっと伸ばしていく
発信を続けるなかで、強みをさらに育てていく。
この順序なら、今すぐ着手できます。「採用ブランディングは、まず外側より先に内側を整えることが理想」。それは正しい。でも入口は「整える」ではなく、「見つける」です。
なぜ今、採用ブランディングが必要なのか
少子化による労働人口の減少は、今後も続いていきます。求人倍率は高止まりし、企業が求職者を選ぶ時代から、求職者が企業を選ぶ時代へと完全に移行しました。
こうした環境では、「求人を出せば集まる」という前提はもはや通用しません。とくに中堅企業は、知名度という点で大手に勝つことが難しく、名前を知ってもらう前に候補から外されてしまうケースも少なくありません。
一方で、採用ブランディングはこの「知名度の差」を埋める有効な手段になりえます。
求職者の多くは、応募前に企業の採用サイトやSNSを丁寧に調べます。公式情報だけでなく、社員のリアルな声や職場の雰囲気も確認します。その段階で「ここは自分に合いそうだ」と感じてもらえれば、知名度が低くても応募につながります。
採用ブランディングに取り組む会社と、取り組まない会社の差は、これから先ますます広がっていきます。
採用ブランディングの進め方 6ステップ
採用ブランディングは、一度に完成させるものではありません。順序を守りながら、ステップを踏んで進めることが大切です。

Step0(最重要):社内にある「良さ」を発掘する
採用ブランディングを始めようとすると、多くの会社でこんな声が出ます。「とくに強みはない」「他の会社と何が違うのかわからない」。
でも、それは強みがないのではなく、見えていないだけです。特長がない状態で長い間、会社を維持できるわけはなく、良いものがあるから今まで顧客から支持され、事業を継続できているのです。
インターナルブランディングとは、「ゼロから文化をつくり直すこと」ではありません。今すでに社内にある良さを見つけ、言葉にしていくことから始まります。
「しゃべらせてしまう」雰囲気をつくる
最も効果的な方法は、社員に話を聞くことです。ただし、アンケートや堅いインタビューでは限界があります。質問に答えさせようとすると、人は構えてしまい、建前しか出てきません。
大切なのは「インタビュー」ではなく「会話」です。相手がしゃべりたくなる雰囲気をつくり、話が弾むなかで自然と本音が出てくる状況を整えてあげてください。
以下のような問いかけは、そのきっかけになりやすいです。
– 「目標とする先輩はいる?どんなところを見習いたい?」
– 「自社を友だちに紹介するなら、どんな会社と伝える?」
– 「どんなことを大事にしながら仕事してる?」
– 「お客さんに言われて嬉しかった言葉は?」
– 「やったった!って思える経験した?」
「聞き手」の選び方も重要です
仲の良い同僚に聞き役を頼むと、場が和んで話しやすくなります。ただし、同じコミュニティのなかだけで完結してしまうと、出てくる言葉の範囲が狭くなりがちです。
ここで重要になるのが、「社外の視点」を持つ聞き手です。
社員にとって「当たり前のこと」は、外部の人間には「へぇ、そうなんですか!」となることが多いもの。長年続けてきた取引先との関係の作り方、失敗したときのチームの動き方、新人が早く裁量を持てる理由。こういった話は、社内では空気のように存在していて、誰も改めて言葉にしません。
しかし外部から来た人間はその話を聞いたときに、「それは求職者に刺さる」と気づくことができます。社員の「普通」のなかに、採用ブランディングの素材が眠っています。
見つかった言葉を、社外にも通じる言語に翻訳して整理すること。それが、このステップの本当のゴールです。
Step1:自社の採用課題を数字で把握する
インターナルの棚卸しと並行して、現状の採用課題を客観的に把握しておきましょう。
確認しておきたい数字は以下の通りです。
- 応募数の推移(増えているか、減っているか)
- 内定承諾率(辞退が多い場合、どの段階で起きているか)
- 離職率・定着率(とくに入社1〜3年の早期離職)
- 応募経路の内訳(どのチャネルから来た人が定着しているか)
これらのデータを見ることで、課題が「**認知不足**(そもそも知ってもらえていない)」なのか、「魅力の未伝達(知ってもらえているが刺さっていない)」なのか、「ミスマッチ(入社後に「思っていたのと違う」が起きている)」なのかが見えてきます。
課題の種類によって、打つべきブランディングの手が変わります。感覚ではなく数字を起点にすることで、的外れな施策を防ぐことができます。
Step2:採用ターゲット(ペルソナ)を定義する
「20代のエンジニア」「営業経験者」こうした大まかな定義では、採用ブランディングはなかなか機能しません。
ターゲットを絞るとは、「どんな価値観を持つ人に来てほしいか」を明確にすることです。スキルや経歴だけでなく、仕事に何を求めているか、転職でどんな変化を望んでいるか、どんな職場環境が合うか、まで踏み込んで考えてみてください。
ターゲットが明確になると、メッセージが変わります。「成長できる環境があります」という言葉も、「裁量を持って動きたい方には、入社1年目から担当案件を持てる環境があります」と言い換えた途端、刺さる人が明確になります。
全方位に伝えようとするメッセージは八方美人になるだけで、結局誰にも刺さりません。ターゲットを絞ることは、刺さるメッセージをつくるための前提条件です。
Step3:自社の独自価値(EVP)を言語化する
EVP(Employee Value Proposition)とは、「なぜこの会社で働くべきか」を一言で表したものです。求職者が他の会社ではなくここを選ぶ理由、と言い換えてもいいかもしれません。
Step0で発掘した「社内にある良さ」と、Step2で定めた「ターゲットが求めているもの」が重なる部分——そこにEVPがあります。
よくある失敗は、「アットホームな職場です」「成長できる環境があります」といった、どの会社でも言えるような表現に落ち着いてしまうことです。これでは差別化になりません。
EVPには、自社にしか言えない具体性が必要です。たとえば——「創業以来、クライアントと長期的な関係を築くことを最優先にしてきた。だから営業は数字よりも関係性を大切にする文化がある」。このような言葉であれば、同じ価値観を持つ求職者の心に届きます。
Step4:採用メッセージとビジュアルを設計する
Step3で言語化したEVPを、実際のコンテンツに落とし込む段階です。
採用サイト、求人票、SNS、会社説明会——すべてのコンタクトポイントで、統一したメッセージとビジュアルを貫くことが大切です。サイトで伝えていることと、説明会で話す内容がバラバラでは、求職者に不信感を与えてしまいます。
ビジュアルは、「実際の社員・職場の様子」を使うことを基本にしてください。プロのモデルを使った完璧な写真より、本物の職場の空気感が伝わる写真の方が、求職者の信頼を得やすいです。
コピーとデザインはセットで考えてください。言葉が良くても、ビジュアルの雰囲気がズレていればブランドが崩れます。逆に、写真が良くても、見出しコピーが平凡では記憶に残りません。
Step5:採用サイトに集約し、継続的に改善する
採用ブランディングの「場所」として最も重要なのが、採用サイト(または採用LP)です。求職者は応募を決める前に必ずサイトを確認します。ここが整っていないと、他のすべての施策の効果が薄れてしまいます。
採用サイトに盛り込みたいコンテンツは以下の通り。
代表メッセージ:会社が大切にしていること、採用にかける想い
社員インタビュー:リアルな声、入社前後の変化、仕事のやりがい、1日のながれ
仕事内容の詳細:具体的な業務・プロジェクト事例
カルチャー・社風:チームの雰囲気、働き方、大切にしている価値観
公開して終わりにしないことが大切です。アクセス解析と応募数のデータをもとに、どのページが読まれているか、どこで離脱しているかを定期的に確認してみてください。採用ブランディングはPDCAを回し続けることで、精度が上がっていきます。
採用サイトの設計・制作については、
もあわせてご覧ください。
採用ブランディングの失敗例
採用ブランディングに取り組んだものの、思うような成果が出なかった。そんな会社には、共通したパターンがあります。
失敗例1:見た目だけ整えて、中身がない
デザインに予算をかけて採用サイトをリニューアルしたが、冷静に見ると、掲載内容が他社と大差なかった。「明るい職場です」「チームワークを大切にしています」。こうした言葉は、どの会社にも書いてあります。差別化できない情報をどれだけ並べても、求職者の記憶には残りません。
コンテンツに投資するより先に、デザインに投資してしまうことが、この失敗の本質的な原因です。
失敗例2:一度作ったら終わり
採用サイトを公開してから一度も更新していない。社員インタビューは3年前のもの、募集職種のページは実態と異なる情報のまま。こうした状態は、求職者に「この会社は採用に本気じゃない」という印象を与えてしまいます。
採用サイトは「公開がゴール」ではなく、「公開がスタート」です。定期的なコンテンツ更新が、ブランドの鮮度を保ちます。
失敗例3:制作会社に丸投げして、会社らしさが消えた
採用サイトの制作を外注したが、完成したサイトを見たら「なんかよそよそしい」「うちの会社っぽくない」という感想になってしまった。こういうケースはよくあります。
発注側がコンセプトを持たないまま制作をスタートしたことが原因です。制作会社がどれだけ優秀でも、その会社のカルチャーや価値観は外から見えません。Step0〜Step3を経て「何を伝えるか」が明確になっていれば、この失敗は防げます。
中堅企業が採用ブランディングで意識すべき3つのポイント
最後に、中堅企業ならではの視点で、採用ブランディングを成功させるためのポイントを3つお伝えします。
ポイント1:大手の真似は、意味がない
大手の採用ブランディングが効いているのは、大手だからです。知名度・予算・長年かけて積み上げたブランド。これらがあるからこそ、あの見せ方が機能しています。同じことをやっても、土台が違えば結果は出ません。真似をするのは、無駄どころか逆効果になることもあります。
中堅企業には、中堅企業にしかできない戦い方があります。意思決定の速さ、経営者との距離の近さ、一人ひとりの仕事の影響範囲の大きさ。大企業では得られないこれらの強みを前面に出すことが、採用ブランディングの出発点です。
ポイント2:見つけた「良さ」を、できるだけ大きく発信する
社内の良さを発掘したあと、多くの会社が「こんなこと、アピールしていいのかな」と遠慮してしまいます。でも、求職者はその情報を求めています。
社員がやりがいを感じている理由、お客さんに言われて嬉しかった言葉、チームで達成した経験。こういったエピソードは、採用サイトのコンテンツとして直接使えます。「うちでは当たり前のこと」が、求職者には「ここで働きたい」と思う決め手になることがあります。発掘した良さは、積極的に外に出してください。
ポイント3:経営者を巻き込む
社内の良さを発掘し、発信し、さらにそれを伸ばしていくには、経営者の協力が欠かせません。
社内で「いいな」と感じられているポイントは、今いる社員が会社を選んだ理由(辞めない理由)でもあります。それをさらに磨いて、「そこがいい」と感じる人で組織を満たしていく。これは採用の話であると同時に、会社づくりの話です。人事担当者だけで動かせる範囲を超えているのです。
経営者が採用ブランディングに本気で関わることで、「どんな人と一緒に働きたいか」という問いへの答えが明確になり、発信するメッセージにも一貫性が生まれます。
まとめ:採用ブランディングは「見つける」ことから始まります
採用ブランディングの進め方を6つのステップでお伝えしてきました。
最初にやることは、大がかりなリニューアルでも、予算を投じたキャンペーンでもありません。社内にすでにある「良さ」を発掘することです。社員に話を聞き、言語化し、それを外に届ける。この順序を守ることが、採用ブランディングを成功に導きます。
「うちは知名度がないから」「予算が限られているから」。そう感じている方にこそ、まず試してみてほしい方法です。自社の誇りを言葉にして、それに共鳴する方に届ける。それが、規模に関係なくできる採用ブランディングの本質です。



