コラム(ブランディング)

いい会社にするために 2022年9月16日

社長の指示なしで自走する会社の作り方

覚悟を決められるか?社員のために、会社のために。

株式会社エーディエフ
代表取締役 島本 敏 社長

株式会社エーディエフ代表取締役 島本 敏 社長

社員の成長を妨げていたのは?

社長:「来週の展示会、オレも行こうか?」
スタッフA:「いや、別にいいですよ」

スタッフB:「今度の新聞広告のペルソナ、もう少し具体的に固めたいんですが」
社長:「あ、ごめん。もう一回考えるわ」
島本敏社長が率いる株式会社エーディエフでは、そんな会話が日常の風景である。

ここだけを聞くと、ほんとに社長?と思われるかもしれないが、決してそんなことはない。
「以前はね、なんでも自分でやらないと気が済まなかった。いつもみんなを急かすし、待ちきれずに自分が先にやっちゃうし。かなり鬱陶しかったと思いますよ(笑)」。
中小企業の経営者にはありがちな話。自らが先頭を走ってきた経緯や事業への思い入れが強すぎて、つい手も口も出したくなる。
「しかしそんな自分の行動が、実は社員の成長をジャマしていたのだと、後になって分かりました」と、振り返る。

今日から何もやらない宣言。

それは今から8年前のこと。島本社長が大きく舵を切った日である。
「俺はもう、何もやらないから」。
めずらしく数日出社しなかった社長の顔は、ヒゲもそらず、少しやつれていた。
「かなりヤサグレてましてね、あの時は」。
自分の思い通りにみんなが動いてくれない、資金調達などを全力で支えてくれた父親が亡くなったことも重なって、かなり弱っていた時期だった。

社員たちは唖然としたことだろう。それまでは、営業も見積もりも、ときどき最終検品までこっそり社長がやっていたのだから・・・。
「でも、見積もり依頼きてますけど?」
「もう、やらん。お前やってくれ」
どうやら本気のようだ。社長がやらないと言うなら自分たちでやるしかない。戸惑いつつも社員たちは仕方なく動きはじめた。

「それがね、驚いたことに業績が落ちなかったんですよ」と島本社長。
自分なら今週中にやれると思うことが2~3週間かかったりするけれど、自分がやるよりもクオリティの高い成果を出してくれる。
「オレって、要らない存在だったんかも・・・、凹みましたね(笑)」。

しかし、そこで腐らず、前へ進むのはさすが。実務でやることがなくなったぶん、社長業を追求するようになっていく。
大阪府中小企業家同友会の支部幹事として活躍し、経営者仲間のフォローをするなかで経営や社内コミュニケーションについて学んだ。社員には実務の力をつけてもらう一方で、社長は社長にしかできない仕事をする。人の輝いている部分を見る力がついたのもこの時期らしい。

いつ芽を出すか。それは雑草自身が決めること。

株式会社エーディエフの社長とスタッフ社員が「自走してくれる集団」。中小企業の社長にとっては、まったく夢のような話だ。もしかすると、そんなことは理想にすぎないと諦めている方もおられるかもしれない。
ただ、エーディエフでは社長の「やらない宣言」後、社内が自走し始めた。
しかし、やらないと宣言するだけで本当にそうなっていくものなのか?
経営サイドにいる筆者も、ついつい前のめりになってしまう。

「雑草ってね、育てようとしても育たないって知ってますか?」
「へ?雑草ですか?」
「そう。同じ時期に種をまいても一緒には育たない。いつ芽を出すかはその雑草が決めるわけです。各自のベストタイミングで芽を出すから、環境変化にめちゃくちゃ強いらしい」。人の伸び方も同様だと、島本社長は語る。
最初からぐんぐん芽を出す人もいれば、なかなか出ない人もいる。それを社長が制御しようとするのは間違い。なにかのきっかけで腑に落ちて、本人が「よし、やろう」と、自ら動きはじめることに意味があるのだという。

「雑草の研究者が書いている本です。この本に出合ったのはかなり後ですが、エーディエフは雑草の集まりみたいなものだ、そう思えたらなんだか、今まで社員と向き合い切っていなかった自分がみじめで、涙が出ましたね」。
その言葉のなかに、詰み重ねてきた道のりの重さが感じられた。急かしてばかりの日々から一転、とにかく社員を信じて待つ。
社長がやるべきことは人を育てることではなく、社員が自ら育つ環境を用意してあげることだったのだ。

WEB事業部が立ち上がった。

株式会社エーディエフのスタッフ一つのいい例がある。
エーディエフはアルミフレームのメーカーでありながら、なぜかWEB事業部がある。数年の間に自社サイトを4つ立ち上げて、集客につなげるとともに、最近は取引先からも引き合いさえもらえるまでになってきた。2名の専従スタッフは、もともと製造業務で入社してきた人材だ。

事業部の立ち上げから責任者を務める池ノ上は、以前は設計業務を担当していた。製造や営業、展示会業務もこなしていたが、製造以外に何かできないかとWEB事業をスタートさせたのだ。
「僕はあれこれ言われるよりも、自分の裁量で進められるほうが断然いいです。事業部制にしてもらったのも、独立した事業として成長させたいから」。定款を書き換えたっていい。どんどんやろうやと社長が後押ししてくれるから、池ノ上も邁進できる。

制作担当の西は、入社4年目。WEB制作は趣味レベルだったのを、独学で学びながら制作や広報業務を担っている。
「やりたいことをやらせてもらって、本当に感謝しています。だから必死でスキルアップするのは当たり前のこと」。
就活イベントで、島本社長の話に惹きつけられて入社した一人だ。

「発想力や提案力も、ものづくりですよ。うちは製造業だからなんて言ってていいのか。ロボットに仕事をとられたなんて、バカな話はないです。そんなことになる前に、地頭を鍛えてロボットにできない仕事を創り出すことが大切です」。
「それにね、万が一なんらかの災害で工場が被災しても、再開するまでの収益源になってくれるかもしれないでしょう?」。
予想できないことが起こる時代、何かあったときにどう対処するか。WEB事業に限らずやわらかな地頭がそろっていれば、新しい道が開けるかもしれない。
たしかに、なにがあっても雑草はたくましく生き延びる。

一生を輝かせる場所となれるように。

株式会社エーディエフのスタッフ「やりたいと手を挙げる人にやってもらうのが一番いい。そのことに対する思いは誰よりも強いんだから」。
人は苦手を克服するより、得意なことに集中する方が成長は加速する。それが会社から期待されているなら、なおさらだろう。

島本社長が最近、考えていることがある。
「人生長くなったぶん、終身雇用なんてナンセンスになってきました。みんなスキルアップしたいし、世代によってやりたいことも変わっていく。それなら、世代やステージごとにチャレンジできる環境を整えてあげたら、エーディエフは社員が一生を輝かせられる舞台になれるかもしれない」。
それが今、自社広告でも打ち出している「結果的終身雇用」という考え方だ。

20代の社員が、奥さんの実家がある福岡に営業所を作りたいと言い出した。
「間違いなく誰よりも思いが強いわけです。もちろん結果を出してくれていますよ」。
また、30代のある社員は、もともと独立の志があったが、「ここでやりたいことができるから、独立する気がなくなった」そうだ(彼は今年、取締役に就任)。

独創的な雑草集団は、さらに進化していくだろう。
インタビューの帰り道。青い空を見上げると、もくもくと夏雲が湧きあがっていく。
さて、自分たちは経営者として、働く一個人として、どう動くべきか。大きな宿題をもらったような気がした。

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執筆:植松 あおい

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